猫のヨーコちゃん。

ある日、パパが猫を拾ってきた。
「モモ、この猫はヨーコちゃんだ、仲良くしてやれよー」
ヨーコちゃんは、茶色い毛がくるくるしていて、おめめは切れ長で、全体的にシュッとスリムだった。
家に来たばかりのヨーコちゃんは、家中を荒らし回った。
パパの本棚、台所の戸棚、ママの仏壇。
私はパパの居ない時間をヨーコちゃんと二人で過ごした。
一緒におままごとなんかもしてくれる。
ママがいなくなってから、初めて、家に居て寂しくなることが無くなってきた。
いつもママが遊んでくれてたから。いまはヨーコちゃんが遊んでくれる。
だけど、パパが帰ってくるとヨーコちゃんは、パパにべったり。私とは遊んでくれない。
パパの部屋からは時折ヨーコちゃんの鳴き声が聞こえてくる。あんまり鳴くもんだからパパがいじめてるのではないかと心配になって部屋を見に行ったことがある。
そのときはパパがヨーコちゃんを大事そうに抱き締めていた。「どうした?心配ないよ」パパとヨーコちゃんは、私のことをぎゅっと抱き締めてくれた。

ある日、パパが猫を拾ってきた。
「モモ、このこはカナコちゃんだ。ヨーコも仲良くしてやれよー」
カナコちゃんはさらさらの真っ黒な毛をなびかせて、こちらを見つめる目はビー玉のようにまんまるだった。
カナコちゃんはヨーコちゃんみたいに部屋の中を荒らし回ったりしなかった。
ソファにちょこんと座り、テレビを見るのが大好き。
私がカナコちゃんと遊んでいると、ヨーコちゃんはこちらに近付いてこない。
ときどきソファの上でヨーコちゃんがカナコちゃんを殴りつけているのを目にすることもあった。
どれだけ殴られてもカナコちゃんはヨーコちゃんに反撃しなかったし、いつも笑っていた。
カナコちゃんとばかり遊ぶとヨーコちゃんがやきもちをやいちゃうんだ、そう思って出来るだけふたりと遊ぶようにした。
パパが帰ってくると、ヨーコちゃんがパパにすり寄っていく。しばらくするとヨーコちゃんはカナコちゃんを呼びにくる。呼ばれたカナコちゃんはパパの部屋に入っていく。
「ヨーコちゃんはパパのとこに戻らないの?」
そっと首を振り、ヨーコちゃんはわたしとのおままごとにとりかかる。

パパの部屋にはカナコちゃん以外入らなくなるのに時間はかからなかった。
その分ヨーコちゃんとたくさん遊べるから嬉しいけど、カナコちゃんとも時々遊びたかった。

お友達と遊んで、お家に帰ると、珍しくパパがリビングのソファにカナコちゃんと腰掛けてた。
「おかえり、モモ」
ソファの前にはヨーコちゃんが寝転んでいた。
「ヨーコはな、天国に行っちゃったんだよ」
「どうして?」
「カナコと喧嘩したんだ。頭をぶつけちゃったみたいだ」
「ヨーコちゃん、どうするの?」
「今からパパとカナコでお墓作りに行ってくるから、モモ、お留守番できるな?」
「モモも行きたい」
「いいこだから、お留守番できるな?」
「じゃあカナコちゃんとお留守番する」
「カナコはヨーコにごめんなさいって謝るんだ。だからお留守番はモモ、ひとりでできるよな?」

いつも優しいパパの顔が、今日はとても怖く見えた。

ソファに腰掛けてテレビを見る。
最近はヨーコちゃんとカナコちゃんがいたから寂しくなかった。
ひとりぼっちのお留守番は、とても寂しかった。

ニュースはつまらない。こわいニュースばっかり。
近所で女の人が行方不明になる事件が増えていて、パパにはお外に出るときは気をつけなさいと、口酸っぱく言われていた。
まだ犯人は捕まらないし、行方不明の女の人も見つからないらしい。
年配の女性が泣きながら訴えかけるインタビューには、行方不明者の写真が映し出されていた。

幼いモモにも、写真の人物がヨーコちゃんとカナコちゃんにそっくりだということだけは、理解できた。

その日もパパは、猫を拾ってきた。

まだまだ未熟でありますが、精一杯頑張ります