古着②
10代の頃に洗礼を受けたアイビー・ファッションの、冬の定番といえば、アルバイトでためたお金で手に入れた、ピーコートもあったが、なんといっても思い出に残っているのはシエットランドのセーターやカーディガンだ。
スコットランドの沖に点在する、シエットランド諸島で飼われている羊たちは、自らをその寒冷な気候から守るために、とても暖かい羊毛で体を包むというのだ。
それはモンゴル高原のヤクや、カシミア山羊と通じるもので、古くからその保温力の素晴らしさを、イギリス人は熟知していたようだ。
本物かどうかは解らないが、1960年代の僕たちはシエットランド風のニットを身にまとって楽しんでいたものだった。
1970年代から90年代にかけて、音楽の旅や雑誌の取材にロンドンに良く出かけたものだが、その折に様々なニットウエアを手に入れて、冬の日々を過ごした。
特に思い出深いのはボンド・ストリートにあったW.BILLという店で手に入れた、手編みのフェアアイルのベストやセーター、それにエベレストと呼ばれる特別な、シエットランドの毛糸で編まれたベストなどを、いくつか手に入れ毎冬のコーディネイトに取り入れたものだった。
エベレストというニットは、世界で初めてヒマラヤの最高峰エベレストを征服した、エドムンド・ヒラリー卿が、その登山行の時に着ていたからで、シエットランドのアンダーソンズというニットメーカーが、それ以来作り続けてきたのだった。
だが残念なことに、その編み手が老齢化したことなどが原因となり、いつしかその生産が終了したというのだ。
そうなるともう、デッドストックやセコンドハンドのものを手に入れるほかはないという事で、昨年ごろから、僕はメルカリなどでそれを探しては手に入れようとしたのだった。
昨年の夏、八ヶ岳の農業実践大学の農場直売所の広場に、小さなテントで店を出しているヴィンテージファッションの店があり、そこで思いがけず、アンダーソン社のフェアアイル・ベストを見つけて手に入れたのだった。このお店を営む人はとても趣味が良くて、いつも気になるものが並んでいるのだが、特にそのベストは僕の探していたテイストのものだったのだ。
それ以来フェアアイル熱や、エヴェレストニット熱に火がついて、あれこれと探しまわり、何着かのお気に入りを見つけ出してしまったのだった。
ニットウエアは伸縮性があるから様々なサイズのものでもなんとか着こなすことができる。あまりに小さいものや、その逆に大きすぎるものでなければ、うまく着こなせるというものだ。
最近のものだとジャミーソンズというブランドや、インバーアランというブランドがあるが、後者のほうは今ではインド生産だというから、本格を探すにはヴィンテージものを探すほかはないだろう。
かくして僕は75歳にして、またまた古着の面白さに夢中となっているわけなのだ。
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