散髪

退職と散髪に何の関係もないけれど、仕事をやめてから行く美容室はなかなか居心地が悪かった。彼氏はくそニートに人権は無いと言っていたが、無職でも美容院に行く権利がある。私はふざけた巻き毛を切り落とすべく昼過ぎに行きなれた店に向かった。
ナルさんに頭を洗ってもらいながら、私は今の職場をやめることにした、と話した。いつもふざけた話しかしていないのに、今日はちょっと暗いというかセンシティブな話になった。でもなんの躊躇もなく退職の話を始めた自分はけっこうあそこで安心していたのだな、と今気づく。
自分の話をする中で、ナルさんの話も少し聞いた。話によると前の店舗ではナルさんも人間関係やお店の方針に納得できず、早期退職したという。当時最終的には極度のストレスで肩甲骨の下あたりが強烈に痛くなり、動けなくなってしまったそうで。「やっぱり体は正直だよね、体が無理だって言ったら無理だよ」ざくざく髪を切りながら、話してくれた。巻き毛は下に落ちた。何も清算されていないけれど、なんとなくさっぱりし始めた。

私は結局ぶちぎりのような形で仕事に行けなくなり、最終的に行かないという選択をした。最後に仕事に向かった日も、別に電車に乗れなかったわけではないのだが、あと数駅というところで気持ちが折れてしまった。気持ちというのは漠然としていて「あ、折れてますね。完全にいってますね」と骨折のように誰かからみてもらえるわけではない。あくまで自分の中で何かが折れたのだと感じるだけである。それがナルさんみたいに体の痛みとして現れたり人によっては剥げたり、突然料理に味を感じなくなったり目に見える形で見える場合もあるけど多くの人は「どこまで頑張れば終わっていいのかな」と「本当の限界」を探して、ずっとずっと探して、自分を追いつめているのではないのかな、と思う。

ここでこんなことを書いてもしょうがないけれど、無理して頑張るって、ほんとに辛くて生産性がないことで、人から活力を奪っていく。あいつ今頃パフェとか食ってるよじゃないけどホントに人生気楽で生きるのが一番だし、生理的に嫌悪感や恐怖を感じる人間からは迅速に離れていく必要があると思います。

私はもっと友達とモーニングしたいし、いい音楽を聴きたいし、面白い小説が読みたいし、自分の周りの大切な人を守りたいです。この世界の素晴らしいところをもっと堪能したいです。吸った毒は私がもっと強くて優しい人間になって清浄することでいい空気にして還元しようと思います。



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