広報・マーケの仕事に役立つ資格:その1 PRプランナー
「広報になるにはどんな資格が必要ですか?」というご質問をいただくことがあるので、数回にわたって広報・マーケの仕事に役立つ資格を一つずつご紹介していきたいと思います。
まず1回目は、代表的ともいえるPRプランナー資格を取り上げます。公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会(日本PR協会)が主催する民間資格で、広報業界では最も認知された資格試験です。
PRプランナー資格の話に入る前に、そもそも広報のお仕事をするために資格は必要なのか、私なりの考えをお話させていただきます。資格の紹介をする前にナンですが、結論としては、「別に資格は必要ない」というのが最も短い答えです。“必要”ではないが、何らかの点で“役に立つ”と思っているのです。
広報は企業広報とマーケティング広報をあわせると、仕事の範疇がかなり広いので、そもそも全業務を網羅して最高のスキルと深い経験を有している人なんて存在しない世界だと思っています。それゆえ、そのスキルを測って証明するのは、広報・マーケ関連のどの資格をとってみても無理なのだと思います。ただ、広報の実務を遂行する上で、知っていると役に立つ知識を得ることができたり、資格を持っていることによって社内外からプロとして認識してもらえるという点は確かにあります。そのような観点からそれぞれの資格を紹介してみたいと思います。
PRプランナー資格を主催するPR協会とは
PRプランナー資格は日本の広報業界を古くから支えてきた業界団体である日本PR協会が主催しています。その成り立ちは公式ウェブサイトによると次のとおりです。
日本PR協会とは・・
「1980年に、それまでの企業広報担当者の集まりであった日本PR協会とPRを支援する立場の日本PR業協会が統合され、任意団体の日本パブリックリレーションズ協会として新たに発足。
1988年に社団法人として認可された後、2012年に内閣府より公益社団法人として認定されました」
(出典:日本PR協会HP)
私がPR協会を知ったのは、1社目のPR会社に入社した1997年当時ですので、その時すでに社団法人として認可されていたことになります。当時から初心者向け広報講座を実施したり、PR業界やメディアの著名人・有識者を招いた講演会などを広く展開されていて、若手の頃にいくつか講座を受けに行った記憶があります。広報のお仕事に携わっている人ならば誰もがしっている団体ですね。そのPR協会が“広報・PRに携わる者の意識・知識・技能の向上をはかるべく(HPより抜粋)”、2007年に開始したのがPRプランナー資格試験制度です。これまでに、のべ2万2,000人以上が受験しています。
PRプランナー資格の概要
試験の詳細は公式サイトの「PRプランナー資格認定制度/検定試験 実施要項」を御覧いただくのが一番なので、ここで詳しく紹介はしませんが、1次試験から3次試験まであり、与えられる資格は段階に応じて次のように3種類あります。(出典:公式サイトからの情報を転載のうえ若干編集)
1次試験 ⇒ 合格すると「PRプランナー補」の資格を取得できます
受験資格:とくになし
試験方法:マークシート方式 / 問題数:50問 / 試験時間:80分 ⇒ 70%正解で合格
試験内容:「広報・PRに関する基本的な知識」
2次試験 ⇒ 合格すると「准PRプランナー」の資格を取得できます
受験資格:1次試験合格者
試験方法:マークシート方式 / 問題数:科目A~D 各25問 / 試験時間:各50分
⇒全出題数に対して正答率65%以上、かつ各科目の正答率がいずれも50%以上で合格
試験内容:「広報・PRの実務に関する専門知識」
科目A 企業経営と広報・PRに関する知識
科目B マーケティングと広報・PRに関する知識
科目C コミュニケーションと広報・PRに関する実務知識
科目D 時事知識
3次試験 ⇒ 合格すると「PRプランナー」の資格を取得できます
受験資格:2次試験4科目合格、かつ3年以上の広報・PR関連実務経験者
試験方法:パソコンによる記述方式(Word / Excel / PowerPoint のいずれかを使用)
問題数:課題A・B 各1問 / 試験時間:180分(各自時間配分をして2つの課題の解答を作成 )
⇒課題A25点満点、課題B50点満点とし、課題A・Bの総合評価が45点以上(60%以上)、かつ各課題の評価がいずれも50%以上で合格
試験内容:「広報・PRに関する実践技能」
課題A ニュースリリースの作成
課題B 広報・PR計画の立案作成(課題Bは「コーポレート課題」もしくは「マーケティング課題」から1つ選択)
このように1次から3次まで、出題範囲も広く、全て取得するにはある程度の時間とお金(受験料や講座受講料)がかかる試験と言えます。また、2020年9月現在、コロナの影響で試験の開催が中止になっていますので、今後受験を考える方は取得するスケジュールに余裕を見て計画されることをお勧めします。
さて、このように少しヘビーな試験となっていますが、受験を考える方の参考になればと思い、受験準備や試験当日のことなど、振り返ってみたいと思います。
試験への準備と受験しての感想
このPRプランナー試験、実は2007年の誕生前に、PR協会の試験準備分科会に少しだけ参加していたことがあります。当時は「広報の資格はどのような内容で、何を基準に、どう判断するものにすべきか」というディスカッションと協会員へのアンケートが行われていました。その後転職したこともあり、この分科会に継続的に参加することはありませんでしたが、その後も、どのような試験になったのか、常に興味を持って協会の動きをフォローしていました。
協会や識者の皆さんの熟慮のすえ誕生したPRプランナー試験。内容に興味がありましたし、いつかは受験したいと思いながらも、仕事の忙しさや「実務が出来て、すでに会社に評価されていれば資格は不要かも」という気持ちがあり、受験しないまま10年以上経ってしまいました。しかし、副業を開始したいと考え始めた昨年春に、受験を決意して準備を始めました。理由は、資格を保持していたほうが自信をもって広報コンサルタントと名乗れるということと、仕事を発注するクライアントの立場から考えても、有資格者に発注するという安心感を提供できると考えたからです。
1次試験(2019年8月)
上述のように1次試験の出題範囲は「広報・PRに関する基本的な知識」です。基本的とは言っても、広報・PRの基本から企業経営と広報・PR、広報・PR活動のマネジメント、コミュニケーションの基礎理論、メディアリレーションズ概論、マーケティングの基礎理論、マーケティングと広報・PR、ブランドとマーケティング、CSR(企業の社会的責任)、インターナル・コミュニケーション、IR(インベスターリレーションズ)、グローバル広報、危機管理広報、行政・団体等の広報・PRまで、出題範囲は多岐にわたります。
基本を理解していれば大丈夫との情報がありましたが、受験料が1回11,000円(一般価格、PR協会会員と学生は別途割引あり)と安くはないので、必ず1回で受かりたいと思い、公式テキスト「広報・PR概説(PRプランナー資格認定制度1次試験対応テキスト)」を購入し読み込みました。2回ほど読み返し、テキストの各章末にある参考問題を解きました。準備期間は1か月程度です。
試験当日は大変熱い真夏だったこともあり、試験会場に到着した時点で頭がぼーっとした状態でした。季節のせいにしてはいけませんが、通常であれば試験は年に2回、半年ごとにありますので、夏に受けたいか、冬に受けたいかは、プランニングの時点で考えておくと良いかもしれません。今年はコロナの影響で試験が中止になっていますが、例年であれば3月と8月に実施されていました。
1次試験の問題数は全50問で、試験時間は80分間となっています。単純計算で1問に1分半以上かけられるので、わりと余裕をもって回答することができます。私が受けた際も同じ教室に30名ほどの受験者がいたと思うのですが、大半の人が余裕をもって終わらせていた気がします。早めに退出するオプションもあったと記憶しており、何人かの方は制限時間を待たずに退出されていたと思います。
出題は公式テキストの域を出ることなく、ひっかけ問題的なものもなく、直球の内容でした。広報の歴史などの暗記物もありますので、やはり公式テキストを読んでおくのは必須だと思います。
1次試験は50問中の7割、35問以上に正解すれば合格することができます。過去の合格率は平均75.2%ということですので、難易度としては低いほうかもしれません。感想としては、これから広報のキャリアを選ぼうと考えている学生さんにとっては試験勉強と受験はとても有益な経験だと思います。すでに広報のお仕事をされている皆様にとっては、2次試験、3次試験を受けるための必要資格を受験する、と割り切って受けるというイメージです。PRプランナー試験は、2次を受けるためには必ず1次に合格している必要がありますので、広報経験者であっても1次を飛ばして2次から受験するということはできません。
2次試験(2019年11月)
8月末に受験した1次の結果がハガキで知らされたのは9月上旬でした。無事合格となり、続けて2次を受けることにして、すぐに申し込みました。2次の受験料は17,600円(一般価格、PR協会会員と学生は別途割引あり)と、1次~3次までを通じて一番の高額となっています。出題範囲が広く、4科目で構成されており、各科目で50%以上、全出題数の65%以上の正答率を出すと合格となります。1次試験合格を知らされてから2次受験までの期間は2か月程度と限られていますので、受験料を無駄にしないためにも、1度の挑戦で受かることを目標に、公式テキストに加えてPR協会が実施している対策講座に出ることにしました。
まず手に入れたのは公式テキスト「広報・PR実践(PRプランナー資格認定制度2次・3次試験対応テキスト)」です。そして、PR協会が実施している「PRプランナー2次試験対策講座 オンデマンドWeb講座(別途有料)」に申し込みました。
4科目の内容は、科目A 企業経営と広報・PRに関する知識、科目B マーケティングと広報・PRに関する知識、科目C コミュニケーションと広報・PRに関する実務知識、科目D 時事知識となっています。A~Cは広報実務に携わり、テキストを読み込めば対応可能ですが、意外に準備に時間がかかったのが科目Dの時事知識でした。日々のニュースを見て入れば簡単に答えられると思っていたのですが、出題範囲を見てみると、ニュースを見ているだけでは無理かも、と思うようになりました。
公式サイトに掲載されている出題範囲は次の通りです。
政治・経済・国際・社会・文化・スポーツ・芸能
時事問題の出題範囲は、5月実施の前期試験では試験実施前6ヵ月(10月~3月)、11月実施の後期試験では試験実施前6ヵ月(4月~9月)です。
出典:PR協会ウェブサイト
公式サイトには参考問題も掲載されているのですが、あまりの出題範囲の広さに驚いてしまったんですね。過去半年に世界で起きたことを全て網羅なんて無理。。と思い、参考図書に指定されていた月刊新聞ダイジェスト(新聞ダイジェスト社)を半年分購入して読みました。ここまで真面目に取り組む必要はなかったな、と、後から冷静に考えれば思うのですが、最短で3次まで受かりたい、高い受験料を無駄にしたくないという気持ちが強すぎて、1発合格にこだわったことからの追加の出費でした。実際はウェブで過去6が月の主要ニュースに目を通せば、合格ラインの6割~7割は正解することができると思います。
全体の話に戻りますと、A~Dの4科目の試験は全てマークシートの選択方式で、 各25問、試験時間は各50分となっていますので、半日がかりの長い試験となっています。1問あたり2分あるので、大半の人が時間が余り、席でじっと時間が過ぎるのを待っているという、少しガマン大会的な雰囲気でした。加えて、私が受験した会場は、運悪く壁が薄い貸会議室のようなところで、隣の部屋でカラオケの個人レッスンをしていたようで、わりと大きめに歌声が聞こえる中で、じっと試験時間の終了を待つというシュールかつ過酷な状況でした。
11月中旬に試験を受けて、結果が到着したのは11月末ころです。準備も当日もわりと大変な思いをしたこともあり、合格はかなり嬉しかったです。ちなみに、この時の合格率はなんと96.4%(過去平均合格率は77.9%)だったそうです。選択肢の中で迷うものも結構多かったので、問題が簡単だったというよりは、受験した皆さんの準備が万端であったと理解することにしました。
なお、PR協会による対策講座ですが、ウェブでオンデマンド視聴できますし、その際に動画の再生を1.5倍や2倍速で聴くことにより時間を節約することもできました。内容は面白かったですが、合格するのに必須ではなかったな、というのが正直な感想です。広報のセオリーや考え方を体系的に聴くことができるという意味では、試験に関係なく実務を行う上で勉強になることは間違いないです。
3次試験(2020年1月)
11月末に2次試験の結果が出てすぐに1月末に実施される3次試験に申し込みをして、「PRプランナー3次試験対策講座 オンデマンドWeb講座(別途有料)」にも申し込みました。3次の受験料は13,200円(一般価格、PR協会会員は別途割引あり、学生は受験対象外のため割引設定もなし)です。この時の準備期間は2次の発表から3次受験まで2か月弱でした。
3次試験は1次・2次とは違い、PCを使った完全記述式です。上述しましたように、3次を受けるには1次と2次を両方とも合格していることが必須で、かつ、3年以上の広報関連の実務経験を有していることが受験資格となります。課題はAとBの2種類で、課題Aのニュースリリースの作成はテーマが1つだけ出題されます。課題Bの広報プランの立案は、コーポレート課題とマーケティング課題を両方とも確認したのち、どちらか1つを選択できるようになっています。
試験時間は全3時間(180分)で、課題AとBの時間配分は各受験者に任されています。途中に休憩は入りませんが、どうしてもトイレに行きたい場合は挙手のうえ一時退出が許されていました。私が受験した教室でも20名ほどの受験者のうち2名程度席を立っていました。飲み物の持ち込みが禁止だったので、のどが乾かないか心配だったのですが、会場のPCの横にペットボトルのお水が備え付けで支給されており、大変ありがたかったです。
当初は、180分あれば余裕で課題2種類を完了できると思っていたのですが、実際は時間ギリギリで、相当焦りました。後から思い返すと、理由は次の点に集約されると思います。
1、 いつもと違うPC環境で、慣れているはずのワードやパワーポイントの操作に時間がかかった
2、 ニュースリリース作成時の問題文からの切り貼り含め、些細な操作に手間取った
3、 広報プラン立案の課題が想定外のテーマだったため、2つの選択肢のうち選択に時間がかかった
4、 ファイルに名前を付けて保存する作業や、最近めっきり使わなくなったUSBメモリーへの保存の確認に時間を費やした
こう見てみると、内容と関係ない部分でのロスタイムが多いのがわかります。会場には早めに入り、PCの種類の確認やマウスの操作確認などしておくと安心だと思います。私の場合は仕事でもプライベートでもデルやHP、マックしか使ったことがなかったので、試験会場の(たしか)富士通のPCの操作に慣れず、アタフタしてしまいました。
3時間の試験時間を振り返ると、最初の1時間でニュースリリースを完成させることを目標にしていたのですが、実際はPC操作の違いなどで余計な時間がかかり、実際に書き終わったのは1時間10分後くらいでした。あわてて課題Bの広報プラン策定に進んで、コーポレート題材を選び、さっそく広報プランの枠組み作りから始めました。自分の感覚では40分程度で大枠とスケジュールが完成したと思っていたのですが、時計を見たら1時間以上かかっており、残り50分を切っていたと思います。その時点で少し慌ててしまいましたが、お水を飲んでリラックスし、40分ほどかけて広報プランの肉付けと実際の施策を入れていきました。最後10分はファイルの名前付けとUSBへの保存、USBを入れる封筒への名前記入など、確認の時間に充てました。
以上のように時間ギリギリまで悪あがきをしてやっとの思いで課題AとBを完了させ、無事に合格することができました。3次試験は慣れない環境と時間との闘いです。何十、何百とニュースリリースを書いた経験があっても、1時間以内という時間制限の中で完璧なものを仕上げようと思うとなかなかキツイということを再認識させられました。
受験を終えて思い返してみると、3次試験に関しては試験対策講座で学んでおいて良かったなと思います。ニュースリリースの書き方は、基本の形はあれど時代や業界、所属する企業・組織によって特徴があるので、私の場合は外資系企業のリリースを書いてきた経験が長いので日本式のニュースリリースとは少し違うところもあり、“試験に受かるニュースリリース”の要素を改めて学ぶ必要がありました。対策講座の講師の方も、ざっくばらんに、「ここでは試験に受かる、PR協会が提唱するリリースの体裁に準じてお話をしますが、実際には様々な現実要因にあわせて、さらに正しい形があるはずです」とおっしゃっていました。あくまでも基本フォーマットに準じたリリースの作成を心がけると良いと思います。
PRプランの策定に関しては、マーケティング課題、コーポレート課題双方の過去課題を見ながら、2時間以内に包括的なプランを書くためのコツを教えていただきました。凝ったプランを書き込む時間は無いから、メッセージの策定から戦略、戦術、スケジュールに至るまで、全体のプランをバランス良く書き上げることが重要、というアドバイスはとても役に立ちました。また、双方の出題傾向と今後の予測もしていただき、CSR、SDGs的要素が入るという予想は、1月のコーポレート課題に通じていたと思います。
3次試験のこれまでの平均合格率は56.8%で、直近の私が受験した2020年1月の回は30.9%だったそうです。近年は3次の合格率が40%未満と、少し難度が上がっているようです。
PRプランナー資格は評価されるのか?
さて、上記のように最短でも半年の期間と、受験料だけでも合計4万円以上、テキストや対策講座の費用を入れると10万円近くかかるPRプランナー資格ですが、それだけの価値がある、元が取れるものでしょうか?
所属する企業によっては受験奨励金や資格手当があるという噂ですが、実際にもらったという体験談を聞いたことはありません。私が務めている会社でも、そのような手当はありません。
しかし、副業として広報コンサルティング事務所を始めるにあたり、ウェブサイトに資格を表記できること、名刺にPRプランナーのロゴを入れることができること、副業のお仕事の受注に少なからず貢献していることは確かです。また、長く広報に携わっていると忘れがちな初心や、広報理論、自己が所属する業界だけでなく広い世界に目を向けるきっかけになりますし、本業の広報マーケの実務にも役に立ったと感じます。
直接見える形で金銭的なプラスがなくても、プロとしての意識を持ち、襟を正すことに繋がるのであれば、取得する意義はあったと感じています。
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