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盗み聴き考

まえがき

 舞台「盗聴」、全32公演無事の完走おめでとうございます。本当にこのご時世に、誰一人欠けることなく、すべての公演を上演しきったこと、素晴らしいことだと心の底から感じています。
 私にとって、ジャニーズWESTさんに、濵田崇裕さんにハマってからは初めての舞台観劇となりました。が、初めてがこの作品で良かったどころか、人生において、こんな素敵な作品に出会えたことを、光栄に思っています。
 この記事は、毎度公演を拝見した後とか、思いついたときに追記していた私自身のメモ書きである、「盗み聴き覚書」に乱雑に散らばったいろいろな考察をまとめたり、皆さんからいただいた素敵なマシュマロに勝手に大盛り上がりしたりしたいな、と思っています。一生盗聴についてしがみたいので今後もマシュマロやらDMやらお待ちしています!(どさくさ)
そして、先日出したあらすじメモ、 「舞台「盗聴」」と合わせて、個人的に盗聴卒業論文(どういうネーミング)として、自分の中の一区切りにしたいな、と勝手に思っています。

皆さんからいただいたマシュマロ達

盗聴終わってしまったのが寂しすぎて「一緒に浸って下さい!!」ってわがままに応じてくれた優しい皆様のマシュマロに浸っていきます。

①しました ごめんなさい もうしませんルート
②完璧なアリバイ立証ルート(かなり苦しい)
③浮気の理由説明喧嘩ルート
みたいな、どのルートを選んだらアイリは殺されずに済んだのかな、みたいな私の「覚書」11月13日追記④について一緒に考えてくださいました。
 そうなんですよね。最後に「アイリのこと”も”不安になって盗聴したんだ」って言ってたと思うんですけど、これ、確定ではないものの過去の彼女も盗聴してきた、と取れるセリフではあるんですよね。
 なんだか私はものすごく榎木田さん擁護派みたいな気持ちがあることに最近気が付いたんですが、この件に関してもそうで、「信じたかったのに裏切られたから」という視点はあれど、「信用できないと思いたかった」という観点はなかったので、目からうろこでした。確かに、信用できない、と思えれば、盗聴をしてしまった自分をある程度正当化できるんですよね。
 ……悲しいことですけど、あそこでアイリが謝ったところで、ただただ、「やっぱりこの人も信用できない≒だから盗聴した自分は間違ってない」という図式ができてしまうだけな気がして。
 アイリのことを同じ女性として軽蔑しますが、しかし殺されてしまうまでに至った「きっかけ」ではあれど、「原因」そのものは榎木田歩の人間不信だったと思うとやり切れませんね……。

いや ほんとにそう、初日 全然まさかそんなことになると思ってなかったからこれほんとにかわいくて……でも、真相を知った後、どんな気持ちなのか答えがわからずに怖くなりつつもあります。死んじゃったはずの人が来てうれしいワクワク……それとも、そのあとやたら一人で華怜さんのところに行こうとしてたってことは、「こいつ殺したらアイリ殺したのも何とかなるかも」という……ワクワクだったりして……。

わ、わかる……。濵田さんって、ほんとに歌が上手で、特にその伸びやかな高音が注目されがちだとにわかなりに思うんですが、実は意外と声が低かったりするんだよな、と感じていたのであのベースラインが始まった時は「勝った」と思いました。声域広すぎてもう……。さすがとしか言いようがないです。

あそこで「翼をください」が選ばれるのが、ほんとによくできてましたよね……。初めて見たとき、豪雨の音が突然消えて、歌いだした瞬間に鳥肌が立ちました。ただ歌ってるだけなのに、その歌声の表現だったり、間だったり、表情だったりで想像が膨らむような演技にも脱帽です……。ものすごい壮絶なお顔でしたね……一緒に力んでました……。

これ頂いて通知が来たとき外にいたんですが、ちょっと泣きそうになっちゃいました。
本当に、「濵田崇裕」という人間のキャラクターをよく知っているからこそ、共通項の多い「榎木田歩」というキャラクターがスッと理解でき、他のキャラクターに関しても「どこかに居そう」と感じて、より物語に当事者意識のようなものを抱いて見られる作品だったな、と思います。
「一人を事故とはいえ殺し、その罪から逃れるために親しい人を欺いたうえで殺害する」というとんでもない罪を犯した榎木田さんですが、12月4日のもぎ関で濵田さんも仰っていたように、「死んでしまうのは悲しい」んですよね。
ほんとに、「もう無理だ」とわかっていながら心のどこかで「ウソです!!ドッキリでした!」って言ってくれるのをずっと期待してしまう、そんなお話でしたね……。激オモ感情ありがとうございました……!!

私もここ、「仕事代わります」にびっくりして顔上げて、なんで?って聞いて、いいよいいよ、って笑いながら俯くまでの間、二人が大学の開講記念日云々の話してるほうに榎木田さんと一緒に視線を誘導されてしまっていて笑顔の印象しかなく……。そのあと段差に座って話しているとき、目頭を押さえるしぐさだったりとか、華怜さんを見送ったドアからデスクまでに戻る間、うつむいて目元を抑えるしぐさがあったのは印象的で覚えているんですが。
未練だったのか、消し忘れたのか、はたまた執着だったのか……。
私自身が、待ち受け見るとつらくなっちゃうからとりあえずそれはすぐ消して、カメラロールの写真を消すまでに時間がかかるタイプなので、そもそも根本的な部分で分かってあげられない可能性があるんですが、もしかしたら……、これは本当に想像でしかないんですが。「待ち受けも変えられないくらい好きだった」と言い訳するためにあえて計算して残してたりしたら、怖いですよね……。
もし……もし、健吉君も待ち受け目撃してたり、華怜さん来た時に睦美ちゃんも居合わせてたりしたら、榎木田さんはどうしてたんでしょうね……。

最後の「翼をください」、榎木田さんの子供のころの夢を聞いている我々としてはほんとに二番の歌詞がしんどいですよね……。私はエヴァンゲリオンの「翼をください」でもちょっとしたトラウマというか、泣き曲としてのカテゴライズがされてたので「うおぉまたかよもう涙なしで聴けないじゃん!!!」ってなってました。私の葬式でもかけてもらう予定です(?)
幸せな世界線の榎木田さん、妄想しちゃいますよね。握手。ずっと現実逃避しています。
仰る通り、こんなにドキドキして観客まで欺かれるほどの見事なサスペンスコメディー(しかもブラックジョークで笑うタイプじゃない)、一生の思い出ですね。出会えたことに感謝です。

ここ~!!!完璧に健吉君のセリフの誘導に騙されましたね……初観劇の時、三階席から双眼鏡なしで見てたのもあるんですが、私はおバカさんなので完全に騙されてました。
一回目見る人がみんな笑ってる中、二回目の人間だけ笑えないシーン……。いやここほんと、すごくよくできたシーンすぎて暴れそうになります。その後うまいこと双眼鏡でここの表情も確認できたのですが、マジで面食らった顔してました。ここで違和感に気づいていた人、すごい。
そら昨日殺した人とおんなじ顔の人が来たことにも焦っただろうし、まさか話に聞いてた双子の姉が……!?ってぐるぐるしてたんでしょうね……
一回目の時は「そっちは健吉と睦美ちゃん二人で行ってきてくれる?」を、一人で行きたいんだ~榎木田さん~ってニコニコして見てましたが、すべてを知ってしまったら、「まさかこいつ姉殺して隠ぺいするのか……?」とか、すべての闇が詰まったシーンですね……。永遠にしがみたい。


大丈夫。ここにもいますよ。何ならベムでも泣いてます。
普段ジャニーズとして男性とのハーモニーを聞く機会は多いけれど、女性も混ざったハーモニーで、しかもアカペラでの披露を前提にした完璧な音の重なり……(しかも全員めちゃくちゃうまい)さらには、物語ともリンクしてくるっていう……私あそこで二人の結婚式で号泣する榎木田さんまで見えてたんですけど……。
ほんとに、円盤……せめて歌声だけでもまた聞かせてほしいです……。

これ~!!!「なんかあの最後の最後で健に語りかける榎木田さんの性善説覚えてるかのくだり 東京の時はどの口が言うとんじゃってまーーーじで薄っぺらく聞こえたんだけど 大阪めちゃくちゃ優しい榎木田さんが戻ってきたふうに聞こえて あれ私だけだったんかな(https://twitter.com/rubujo_mi/status/1599437206003015680?s=20&t=Do30KQj-I71ytPoxSp6vHw)」という私のツイートに対して送ってくださったんですが、やっぱり演技変わってた可能性もありそうですね……。東京の時は「エ、榎木田さんここでその話すんのは正気じゃないでしょ!!!!」と思ってたら、二週間ほど空いての大阪での観劇で「め、めちゃくちゃ「いつもの優しい榎木田さん」の声だ……」と涙が止まらなくなってたりしたんですが。
4日のもぎ関でも言ってましたが、たしかに東京初日の翼をくださいって笑みを浮かべながら歌って、大阪ほどは壮絶な顔(そうとしか書けない語彙力が悲しい)してなかった記憶があります。
そのころの「榎木田さんの死にざま」と、最終的に大阪で見た「榎木田さんの死にざま」ってまるで別人のようで……上演する中で榎木田さんが「本物のサイコパス」からもう少しいい人に、演じる側の意識もなってたなら少しは救われた気が……しますかね……

ありがとうございます……恐れ多い……早く円盤出て非公開にできる日を楽しみにしてます(言霊)
あそこほんとに怖かったですね……意図的に殺した、というニュアンスではなく、「頭ぶつけてそのまま」でよかったな、と初日内心安心していたのもなんとなく覚えています。いや、どうとでもいえるのでほんとに頭ぶつけただけかはわからないですけども。もぎ関でも「事故」と明言してましたし、安心してていいのかな。
前半が楽しすぎただけに、後半のとんでもなく重苦しいエンディングを引きずったまま帰路につくオタクの気持ちを考えると辛くてなりません。辛かったです!!!!!!!!!(?)

遅いということはありません 我々が浸り続ける限り盗聴はそこにあるのです。
めちゃ くちゃ わかる 握手!!!榎木田さんと健吉くん、上司と部下でありながら「男友達」みたいな仲の良さがひしひしと伝わってきて最高です……。
そしてその表情 私もめっちゃ見てました。ちゃんと気まずいんだな榎木田さんと思ってそのあと睦美ちゃん宅で健吉と二人して背中向けてるのもすっごく好きです……。
そうそう、そうでしたね!睦美ちゃんだった…!?の衝撃がデカすぎてすっ飛んでました。「解放される」と思ったんですかね……ほんとにどこまでも愛しい、榎木田さんって……。

榎木田歩について

作品の主人公である榎木田歩。当初彼については、『付き合う女性にはいつも振られてしまうが、仕事ができ、人として温かい彼を、社員である佐野睦美、間宮健吉はとても尊敬している。』という一文、そしてポスターにもなった、笑顔が印象的な写真でした。
ええ、欺かれましたとも。でも、彼が根っからのサイコパス…悪人だったのか、そうじゃないのか、自分の中で確たる榎木田歩像を作りたいな、と思っての章立てです。
見た人それぞれに、それぞれの榎木田歩像があると思います。確たる像を作ったからと言って、私はこれが正解だとは思わないし、むしろ皆さんの榎木田さん考察を見聞きするのを引き続き楽しみにしています。そのくらいのスタンスの持論どころかオタクのこじつけ言い訳なので、「そういう考え方もあるのか~」と読んでもらえたら幸いです。ぼくのかんがえたさいきょうのえのきださんを作るぞ!のノリで書きだしたら思いのほか自分の内面と向き合うことになって苦しみました。

私の中の「榎木田歩」像

まず私は、榎木田さんはいい人だもん!という擁護派です。自分の覚書読み返してみてもすごい榎木田さんが根はいい人だって信じたい気持ちがひしひし伝わってきてちょっと面白いくらいです。自分自身に関しては性悪説の人間だと思ってたけど、関わる人間に対しては性善説だと思ってるっぽいです、私。
……もぎ関で、最後のシーンについて触れつつ、笑ってるとサイコパスに見えるから、本当のサイコパスではなく……という話が出たときには安心しました。私自身が、できるだけたくさん、榎木田さんっていい人だったのに、って思えるよすがが欲しいから。
と、ここまでこれだけ榎木田さん擁護しといてなんですが、同時に私は榎木田さんに怒ってもいます。自分のことを信頼して、いわば自分のおかげで、今まで一緒に楽しく仕事をしていた二人に、「信じられる人はいる」と説いて、体現して見せたうえで自らそれをボロッボロに破壊してしまったから。そして、どう考えたって責任の取り方が違うからです。しかも、「人を殺した責任」じゃなくて、「撲滅隊の二人に嘘をついた責任」として、自死、という逃避ともとれる選択肢を選んだから。でも嫌いになれないんですよね、嫌いになれないからこんなことしてるんですけど。罪な男だ。

この章では「このエピソードがあるから私は榎木田さんをこういう人だと思う」というのをまとめてみます。いい人だと思う要素は積極的にはまとめません。皆さんも十分わかってると思うから、いい人っぷりは。どちらかというと、私が思う榎木田歩が、きちんと「性善説」の人だったことを記しておきたいな、と思っています。

せいぜん‐せつ【性善説】
〘名〙 人の本性は先天的に善であるとする説。中国の孟子が首唱したもので、人間の本性は生まれながらにして善であり、悪い行為は、物欲の心がこの性をおおうことによって生ずる後天的なものであると主張する説。

〔現代文化百科事典(1937)〕

盗聴期間中にも何度も思い悩んだことではあるんですが、榎木田さん性善説性悪説問題。「覚書」でも書いたんですが、この二つは別に相反するものではなくて、考え方の違いだと私は認識しています。最終的にはどっちも努力して善人を目指すものだから。
ただ、やっぱり(かなり雑な表現ですが)「善人が悪の心に負けないようにして善人であり続ける」と「悪人が努力して善人である」だと、それぞれの人物像ってかなり変わったものに見えてくるのも確かだと思います。
どっちも人間だと思います。別にどちらかにあてはめなければいけないというものでもないと思います。それでも、あれだけ榎木田さんが、自分すら信じられなくなっても、性善説を信じていることに変わりはない、と言ったから、私は、なんとかして榎木田さんを「性善説」という枠組みの中にきちんと納めておきたいな、と思って、いろいろあがいてみます。

榎木田さんって結構子供っぽいな、という印象が私にはありますので、まずはそこから。
なんで子供っぽいところを上げるかというと、「大人に比べて子供は我慢ができないから」。つまり、「こうしたい」と思う『欲』に負けてしまう。そうして、本性が覆われやすい、という観点から、榎木田さんが道を踏み外した要因の一つだと思って、書いていきます。

榎木田さん、総じていい人で、撲滅隊にとって一時は素晴らしい年長者であったけれど、私生活というか、個人での「榎木田歩」という人間は結構子供じみた人でかわいそうな人だな、と思います。第三者故の俯瞰的なコメントでごめん、私も全然人のこと言えないくらい中身クソガキですが。榎木田さんのここが子供みたいってやると同時に私も結構なダメージを食らうから許されたい。

子供みたいに無邪気でかわいいところはまた別として、年齢の割に精神が子供っぽいな、と思うポイントは大きく2つ。
不安になって元カノたちを束縛していたこと。シンプルに、自分が窮地に追い込まれた時の決定が短絡的なこと。

過去の私もとんでもないメンヘラ束縛女なんですが(覚書おまけに一部どんなことしてたか書いたけど今思い返すと笑ってしまいます)じゃあなんで束縛するかって、「相手のことを信じられない」から。ではなんで信じられないかと言えば、「自分に自信がないから」。だから、逐一行動を把握したりして、具体的な「事象」をもって、相手が信じるに値する人間かを、何とかして見える形で把握したいと思うのです。
榎木田さんに至っては、そこにさらに普段の仕事で常に「人間の裏側」に触れているわけですから、輪をかけて相手のことが信じられないはずです。
覚書にも引用したのですが、「信じる」ということに関しては、昔、芦田愛菜さんが映画「星の子」のインタビューで仰っていたコメントが本当に素晴らしいと思っています。

「この作品を見て私が一番強く感じたことは、信じるって何だろうということでした。その人のことを信じようという言葉をよく使うと思うのですが、それってどういう意味なんだろうと考えたときに、その人自身を信じているのではなくて、自分の思う理想像を期待してしまっているのではないかと感じました。だから、『期待していたのに』とか『裏切られた』というような言葉が出てきてしまう。でも、普段見えなかった側面が見えただけで、裏切られたわけではないのかなと思います。知らなかった側面が見えたときに、それもその人なんだって受け止めて決断できる揺るがない自分がいる。それが信じるっていうことなんだと思いました」

https://eiga.com/news/20200929/3/

束縛して、相手の細かい行動を知って何を得たいか。それは、「自分の思う理想通りの相手」がそこにある確証です。過去、「浮気してるな」と感じた私が泣きながら鬼電してたのは、「やってない」という言葉を本人の口から聞きたかったからにほかなりません。きっと榎木田さんも、アイリが浮気してる証拠が見つからない、ということで浮気してない、と信じたい気持ちがあったからこそ盗聴器を仕掛けたんじゃないかな。
まぁ、ここで盗聴器を仕掛ける、という選択をしたこと自体もものすごく子供じみているというか、人間臭いな、と思うのですが。少なくとも、「盗聴器を仕掛けるということ自体は犯罪じゃない」ということを知ってるからこそ、そのハードルはそれを知らない人のそれより低かったんじゃないか、と思います。私たちが、ほんとはダメだと知りながら車が来ないからと言って、赤信号の横断歩道を渡るくらいの意識なんじゃないかな。まぁ、信号を渡ることと、盗聴器を仕掛けることでは全然その「やばさ具合」は違うので、「知りたい」という気持ちに負けて、盗聴器を仕掛けるに至ったのは、大人げないな、と思います。榎木田さんも、恐らくアイリに指摘された時の怒り方からして、きちんと「犯罪ではないけど、よくないこと」という意識は持っていたように思いますし。
ちょっと話がそれてしまいましたが、かつて束縛してまで全部知りたい、と思っていた私がその後、束縛するいうことを辞めたのは、「確固たる自分自身を確立できたから」というよりは、ある種の「諦め」を手に入れたからです。
相手のことをすべて知ることはできません。相手のことを縛ることもできません。……榎木田さんは、もしかしたら本当はもうそれに気づいていたのかも知りませんが、それでも「何らかの形で相手を信用できる確証を得る」ということをやめていないようです。小さな子供は、「自分がここまでやってもこの人は許してくれる」という方法で愛情を感じていくそうです。形がなければ相手を信じられない、というのはとても子供らしいな、と思います。専門家でもないし、聞きかじりの知識だけですが、私には榎木田さんが「愛される」ことに飢えた子供みたいだな、と思えています。

次に、自分が窮地に追い込まれた時の決定が短絡的なことについて。
端的に「サイコパス」の一言で片づけてもいいんですけど、私は榎木田さんをまだ信じたくて。
榎木田さんが何よりも守りたかったものって、「盗聴撲滅隊」だったのかな、と思っています。失ってしまった家族の投影でもあり、「社長として2人のこと、2人の居場所を守らなきゃ」という意識と言葉に嘘はなかった、と思っています。これに関してはほんとに「信じてる」だけですが。
まず榎木田さんが最初に、大きな間違った選択をしたところ。アイリを死なせてしまったタイミングで、すぐに自首することを選ばなかったところ。これを語るにはまず、「なぜアイリを死なせてしまうに至ったのか」を私なりに読み解かねばなりません。
榎木田さんが、アイリの言葉の何に激昂したのか。それには、かつて自分の姉を死に至らしめ、大好きだった家族を崩壊させる原因になったストーカーとの対比がまずひとつ、キーポイントになると思います。
まず、お姉さんとアイリの対比。「性行為の音声を盗聴された」という共通項があります。ただし、「彼氏との性行為の音声を盗聴され、一方的に淫乱女と喚かれた」お姉さんと、「彼氏に性行為の音声を盗聴された、淫乱女」では、天と地ほどの差があると思うのです。
で、ストーカーと榎木田さんの対比。「盗聴して、勝手に信じていた虚像の姉と違うから怒った」ストーカーと、「盗聴して、真実を暴いて怒られた」榎木田さん。
どっちが悪いか、というのがすごく綺麗に入れ替わってるかな、と感じました。
で、もうひとつのキーは、直接的に榎木田さんがキレる原因になったアイリの言葉。全部の言葉をしっかり記憶できてないんですけど、仕事も詰られたし、盗聴で不幸になる人をなくしたいって言ってたけど「盗聴する人がいるから」仕事が成り立っている、だとか。盗聴するのがほんとは好きなんじゃないの、みたいな。とんでもないことを言われてたと記憶しています。「犯罪をなくすって言って警察官になったって言ってたけど犯罪者いるおかげで仕事になってんじゃん」みたいなとんでもない暴言ですけど、人間って攻撃しようと思うととんでもないことめちゃくちゃ口走れるんですよね……気を付けます。
アイリが榎木田さんの過去の事情を、たった三か月の(たった三か月とかいうと榎木田さんに怒られそう)交際で知り得ていたのかはわかりませんが、「悪いことをしていないのに一方的に悪いと判じられて殺された姉」を持つ榎木田さんが、「悪いことをした」アイリに、「お前のほうが悪い、お前も盗聴をする側の人間だ」と一緒くたにされてしまった、というのは十分激昂の要因になると思います。そして、「犯罪にならない盗聴」をきっとどこかできちんと悪いことだと分かっていたからこそ、あそこであれだけ「怒りで我を忘れる」状態になっちゃったんじゃないかな、と思っています。アイリと姉は似て非なるもの……逆に自分自身も、恨んでいる姉のストーカーと、「似ている」状況になってしまったから。

で、その結果……怒りのあまり、もみ合いになったのか、掴みかかったはずみで頭をぶつけたのかわかりませんが、アイリは死んでしまった。さて、やってしまったことは取り返しがつきません。人間窮地に立たされた時に人間性が出ます。しらんけど。ここで、果たして私が同じ立場に立った時、すぐさま自首できます!!と胸を張って言えるほどの自分への信用がないので、より苦しいんですが、社会的にベストな選択肢はやはり、自首……というか、まずは救急車を呼ぶことだと思います。まだ助かる、まだ助かる、マダガス……しんどくなると文章のボケが多くなるのやめたいです。すみません。話を戻します。榎木田さんは、ここで「二人の居場所を守らなきゃ」と思って、自首しなかったんですよね。はい子供っぽいポイント。目先のこと、しかも自分の「やりたいこと」しか見えてません。

どのタイミングで、その遺体をどうしたのか、真相はわかりませんが、どこかで海に捨てたことだけはなんとなく確からしい。めちゃくちゃ話それまくるんですけどよく海に捨てられましたよね。「謝ってくれさえすれば」と言ってたり、待ち受けを言われるまで変えなかったあたりから、浮気を知りながらも好意はきちんとあったっぽい、「好きすぎて」盗聴しちゃった恋人の遺体捨てるのめちゃくちゃしんどくなかった?私はLINEの一言がドイツ語で「ではヨカナーンの首を!」にしてるくらいの激情型人間なので私だったら死体取っておいてる。

……置いといて、そのあと、自白のタイミングでは「華怜さんと連絡取れなくなったあたりから」って言ってましたが、実際はおそらく、華怜さんが依頼に来た時、一人で華怜さん宅に向かおうとしたのは「そういうこと」なんじゃないかな、と推理しています。すぐに自白しなかったことで、時間がたてば経つほどどうにもならなくなっていく焦燥感を、「近親者である華怜に事が露見する前に”黙らせる”」ことで解決しようとしたんじゃないかな、と思います。
連絡が取れなくなって焦ってたのばかりは、たぶん「いい人だから」心配してたわけじゃなくて、アイリ殺害を隠蔽するために欠けてはならないピースだったから。
そこから、嘘を隠すにはより大きな嘘方式で、転げ落ちるように榎木田さんはどんどん嘘で罪を隠していきます。で、最終的に「二条を殺して罪を擦り付けよう」という決定に至った。ま~これも短絡的で、後述するんですが、別に殺さなくても、押し付けなくても、日本の司法は「疑わしきは罰せず」ですから、逃れる方法はあったと思うし、やるならもっとうまくやれたと思うんですけど。行き当たりばったりで、目先でなんとかできそうな手段を選んでしまった。
で、もぎ関で明かされたわけですが、嘘が露見したのち、無言の間に「ここでこの二人を殺そうかな」と考えたものの「殺せないんですよ」。

宣言したからいいってもんじゃないけどまたちょっと話が寄り道します。
この、「二人を殺せば……」というのが、「バレたとき」の無言の間に何を考えてたか、という文脈で濵田さんがお話しされていたので取り越し苦労だと思いたいんですが……。さらに私はそれが、「ここで二人一気に殺すのは難しい」という「殺せない」ではなく、「大事な二人を殺すことはできない」という結論だと信じたい、っていう祈りもあるんですが。どうしてもひとつ、この点に関して看過できない違和感があります。
もし私が榎木田歩の立場で、あの場で行動していたと仮定して、どうすれば自分が疑われることなく罪を逃れられるか、と考えたときに、「自分が来た時の防犯カメラの映像を消している」って、おかしいなと思いました。だって第一発見者が入室してないってどう考えても不自然ですよね。そもそも榎木田さんが発見時点で救急と警察を呼んでいないのもだいぶ不自然な要素なんですが……それも含めて、榎木田さんが最初から、管理人室に呼び出した健吉と睦美を殺して、もう一度二条のパソコンに遺された遺書を偽装して、一連の事件を秘匿して自分だけ逃れようとしてたと仮定すると、辻褄が合ってしまいます。
当初の予定通り、健吉と睦美がそれなりに時間をおいてやってくる間に、成人男性と女性、二人を殺すための準備をしておいて、「罪を暴きに来た撲滅隊従業員の二人を、自分の罪を暴かれた二条が殺害、すべての責任を取るために自殺」というシナリオを装い、自分だけ生き残ろうとするのであれば、それでもまだ粗があるものの、私がそうであってほしいと願うシナリオよりは、「よくできたシナリオ」になってしまうんです。
これではあまりに苦しすぎるので、公式側からこの考え方が正解だと明言されるまでは、私は「榎木田さんったら犯行計画が稚拙♡根っからの悪人じゃないから仕方ないね♡」とこの事実から目を背け続けます。信じたいことだけ信じるよ私は。

でも、ここで榎木田さんが「二人一気に殺してしまおう」となったとしても、もともと全員殺す気だったとしても。それが「自分だけが罪から逃れるための愚かな行動」には変わりありません。物語の結末として榎木田さんが選んだ、「死ぬ」という選択も、(被疑者死亡という形では裁かれるけど)法に裁かれてまっとうに罪を償う、という目先の辛いことから逃げるだけの選択だったな、と思います。炭治郎だったらキレてると思うくらい逃げてる。

「大人になる」ということは、「責任と向き合う」ことだと私は思っていますし、そう育ってきました。自由にできることが増える分、自分がしたことに、きちんと責任を負う。責任から逃げない。……私自身がちゃんとそれをできてるかは棚に上げさせてもらいますが、やっぱり榎木田さんはなにか選択を迫られる場面で、子供のように「目先の自分がやりたいこと」「手っ取り早く責任から逃げられる方法」を選んでいるな、と判じます。

つづいて、榎木田さん根はいい人なんだよ、のこじつけ根拠として、犯行計画がかなり穴だらけ、というのが挙げます。これは完全に私の偏見で、「サイコパス」というワードで私が想定するキャラクター性が所謂「ホワイトカラーサイコパス」である、というのが原因でもある、本当にただの私の印象です。
私のイメージするサイコパス、それは、コミュニケーション能力に長けていて、それゆえに相手を操作するのがうまかったり、不安や恐怖を感じない性質から、余裕があるように見えたり、利益獲得や目的達成のために冷静な行動や判断ができる、というものです。
榎木田さんは私の中でサイコパスの基準を満たしませんでした。サイコパス、と私が思うには、あまりに「心情」が豊かすぎました。健吉くんと睦美ちゃんを殺す、という判断を結局しなかったところ。先述もしましたが、でもあのあと、殺そうと思えばあの二人って隙だらけだったと思うんですよね。
何がしたいかっていうと、榎木田さんは結局ずっとどこかで「良心の呵責」があって悪人にはなり切れなかった、という論を自分の中で確立したいです。心情的な部分に関しては想像の域を出ないので、ここからは榎木田さんの隠蔽工作が私から見てどのくらい杜撰だったか説明しま~す!榎木田さん次は完全犯罪目指そうね。あ、先に書いておくんですけど、これ本当に言うは易く行うは難しだし、私は今後何かあったら絶対にすぐに自首する予定ですし過去何かを行ったわけでもないです、神にも推しにも誓います。

①そもそも絞殺に見せかけて首吊りはめちゃくちゃバレやすい
まあ、かつて盗聴で姉を殺したストーカーを投影して敵討ち、みたいな思念もあったんでしょうが、私だったらここで絞殺を縊死に見せかける選択はしません。首に残る縄や紐の跡、形、方向でどうしても違和感が生じてしまう。そうだなあ、私だったら服毒自殺に見せかけた毒殺とか……。たとえばトリカブトとかだったら仮に露見しても二条は奥多摩に行ってたわけだから、手に入れててもそんなに不自然じゃないし。

②いくら通報してなくて遺書があったからって多分警察は捜査する
遺体を見つけたら、警察を呼びます。家族の場合かかりつけ医でもいいんですが、医師からの「死亡診断書」か、警察署が発行できる「死体検案書」が必要になるからです。余談ですが、死体を見つけた場合はそのまま動かさないほうがいいようです。身内であっても事情を聴取されることになるそうですよ。下ろしてあげたくなっちゃいますけど。
あそこで二人にバレず、撲滅隊が発見した場合でも、最悪撲滅隊を榎木田さんが殺して、あの部屋に残った3人分の遺体を、その後あの部屋にやってくる誰かが見つけたとしても、結局警察はやってきて、事件として捜査をすることになります。相当センセーショナルな事件ですから、日本の優秀な警察としっかり渡り合う計画がないと無謀なチャレンジです。おそらく、何らかのやり取りから榎木田さんがアイリさんと交際していたこともバレ、華怜さんの元カレとか、アイリの友達のギャルあたりから「あいつ知らないふりしてました」ってバレちゃうと思うし……。

③指紋を拭くな
榎木田さん椅子の指紋を拭きとる描写がありましたけど、よくないです。あんなよく触るところに指紋がなかったら誰かが意図的に拭き取ったとバレてしまいます。あの部屋は数日前にも盗聴撲滅隊がやってきている場所なので、指紋が残っていても全然おかしくないし、無いと不自然です。殴りあってもいたので、ワンチャンルミノール反応とか(DNA鑑定に十分な量が確保できなさそうだけど)、皮膚片とか、「争っていた形跡」が見つかってしまう可能性もあります。

④防犯カメラの映像を消すな
おばかおばかおばか!!!なんで消しちゃったの!
そうそう、華怜さんの帰宅映像ないな~、のところで、フォロワさんに「撲滅隊事務所に書いてあった帰宅後留守電が入った時刻より後の時間から再生されている」って教えて頂いて、その次の観劇の際に右下の時刻カウント見たら「マジ」だったの最高でした。あと榎木田さん、「触らせてもらっても?」って聞いた後ほんとにちゃんと自分が来たところの映像消してて、作りこみの細かさに感動していました。
が、隠蔽工作となると話は別です。データそのものを消しても、少なくとも「ここのデータを削除した」という記録が残ります。値段は張りますが、そういうデータを復元することを仕事にしている方がいるくらいなので、あの場でパパっと消しただけのデータ、多分復元できてしまいます。
おそらく華怜さん帰宅のデータが消されていることを発見すると同時に、榎木田さんがやってきた部分が消去されていることにも気づかれてしまうので、ここは「榎木田歩が来ていても不自然じゃない」ストーリーを作るか、最悪HDDごと盗み出して行方をくらませる、というほうが適解だったんじゃないかなと思います。

⑤すべての違和感をちゃんと潰せ
本気で偽装する気だったなら「ドキドキしすぎて見落とした」なんてことがあってはなりませんよ榎木田さん、綱渡りなんだ。嘘を「真実」にするには相応の努力が必要なんだよ(私は何者なんだ?)
まず計画もカバンの中身も十分すぎるくらい確認してください。で、管理人室に盗聴器があるはずなのに全然見つからなかったなら、ちゃんと結論を急がずに探し切ってから犯行に及んでください。
結構あそこで「なんで見つけられなかったか」引っかかってる人が多いので、無線オタクの父親に質問した結果の私の見解も書き記しておきます。
そもそも盗聴器というのは、受信機と必ず一対になっているものではありません。物にもよりますが、榎木田さんが持っているみたいな「受信機」があれば、冒頭車で健吉くんがやっていたように、街中の不特定多数の盗聴電波を聞くことが可能です。「盗聴器」は、ラジオと同じように、一定の周波数で拾った音を電波として発しています。「受信機」を持った側は、ダイヤルを回すなどして、ラジオのように周波数を聴きたい盗聴電波に合わせます。で、音がある程度鮮明になったら、冒頭で榎木田さんがVOXの盗聴器を確かめていたように、受信機と距離を近づけたり離したりすると、マイクとスピーカーのようにハウリングが起こります。そうして距離を詰めていって盗聴器を探すようです。
で、健吉くんたちが仕掛けた盗聴器。あれはちゃんと電波が飛んでいた、と私は解釈しています。「100メートルしか電波が飛ばないからマンションの入り口に受信機とレコーダー仕掛けた」という旨のセリフがあったためです。
些細なノイズだけじゃなくて些細な違和感もきちんと検索してつぶしておいてよ榎木田さん……。

と、いうことで(?)一万字近くいろいろ書きましたが、私は榎木田さんがその場その場で、「撲滅隊を失いたくない」とか「罪から逃れたい」という欲に負けて、根柢の善性を曇らせていったと思いたいです。性善説を信じていて、まじめに頑張っている人が報われる世の中であってほしい、と本気で願っていたからこそ、「撲滅隊のふたりにとってそういう人間」として捉えられていた自分、自分自身の信条と、実際自分がやってしまっていることでぐちゃぐちゃになったあげくの、「俺はもう自分が信じられなくなった」だったんじゃないかと、私の中の榎木田歩を結論付けます。

公演の中での変化

これは備忘録メモというか、不確かな記憶のメモです。
一か月ちょっとの公演期間の中で、作品を作り上げていた側でも「榎木田歩」の人間像が結構変わってたんじゃないかな、と思うのでここに置いておきます。
まず一番大きかった変化は、初日で語られた「健吉と榎木田さんが二人で撲滅隊として活動していた時期に、ホテルで盗聴器調査をしていて発見した盗聴器が実は公安が調査用に設置していたものだったため、警察に目をつけられていて通報しにくい」というエピソードが二日目以降なくなり、「これだけの証拠では警察は動いてくれない」という一言で片づけられるようになったこと。一日目のセリフがあると、榎木田さんたちは「盗聴撲滅隊」全体として警察が呼びにくい、という風な印象を受けるけれども、それ以降のセリフだと「榎木田歩」が警察に介入させたくない、という風にも取れます。
確かに、熊切華怜さんもアイリさんも、連絡が取れていないだけで現状遺体は見つかっていないし、親族からの捜索願も出されていない、撲滅隊の事務所に関しても物を盗られたわけではないので、警察が動いてくれない、というのは確かなんですが、少なくとも不法侵入はされているので、通報しておいてもいい状況だとは思うんですよね。なので、ここの変更に関しては、榎木田歩がいかに秘密裏に事件を処理したかったか、をより強調するための変更だったんじゃないかな、と思っています。

その他こまごまとしたところ。

アイリに捲し立てられた榎木田さんの「やめろ!」を連呼するところ。
大阪で初めて見た日の覚書より引用しますが、「東京では聞こえてくる声を遮るように、うずくまってやめろ、やめろやめろ!って言って、追いかけて言った先の舞台袖からウワーーッ!って咆哮が聞こえてたんですけど。今日は、最初はアイリも見つつ、言葉を一つ一つ聴きながら、やめろ。……やめろ、やめろ!ってだんだん声が大きくなっていって、うずくまって、まるで拷問でも受けているかのように必死のやめろ、からの、咆哮を上げながら袖に消えていく感じになってて……。」
これも、ほんとにただただ印象の話でしかないんですが、東京の時より大阪のほうが、自分のしでかしたこととか、過去とか、向き合いたくないものと無理やり向き合わされているように感じました。

崩れ落ちた健吉に「前にした性善説の話、覚えてるか?」の部分。
これも本当に私の感じ方の話で、実際にそういう意識をもって演じていたのかは本人にしかわからないんですけども。
冒頭のマシュマロ頂いたところでも書いたんですが、東京の時って声の抑揚とか、間とか、総じての印象として「どう考えても嘘っぽくしか聞こえないこと」を力説している人、という風に私に写っていました。が、大阪では「それはそれとしてこの人の一部なんだろう」と感じさせるような印象を受けました。
人間って、結構矛盾を抱えたまま生きていると思います。クソガキが何言ってるんだ、と自分でも思うけど、自分自身の中でも、他人に対しても。相手に対して正しい道を説くことができるけど、自分自身がきちんとそういう選択をできているわけではなかったり。だから、大阪では「榎木田歩という性善説を信じているからこそ、信用される側の人間でありたかった人物」の抱えた矛盾をよりひしひしと感じとって泣いていました。

あとは毎公演印象が変わってたとこ。「そんなことってどれ?悪いこといっぱいしちゃったからどれの事かわかんないよ」の言い方。二人を見て、結構しっかり笑顔で笑いながら言っていた日、どれのことかわかんないよ~、と目を伏せながら歌うように笑みを浮かべて言っていた日。ともすれば泣いてしまうんではないか、というくらい自嘲の空気を含んでいた日。

最後のシーンは、ご本人がもぎ関でも触れられてましたが、確かに仰る通り、初日とその後でだいぶ違う印象を受けます。初日観劇後の私の記録は「特に素晴らしかったのが最後の翼をください、の部分。セリフでもなく、歌で、あれだけ「正気でない」とか「こわい」みたいな感情を他人に持たせるってすごすぎて、鳥肌だったし、ずっと怖くて泣きだしそうでした。」なんですが、初日の翼をくださいは、「狂ってる」という表現がぴったりくる感じの歌い方でした。変なところで声を響かせるところを変えて…どう表現したらいいんだろう、酒に酔った人の歌とか、ああいう感じの、聞いていて心地が悪い歌い方だった。それが、段々と「歌」そのものや「歌詞」から想起される思い出を振り返っているような歌い方に変わっていったな、という印象です。

榎木田歩が、サイコパスに近いような悪人から、「完璧でない人間」の印象を強めていったように私は思いますが、このあたりぜひ皆さんの感想も聞いてみたいなあと思うところです。

榎木田歩の謎

劇中出てきて疑問に思って考察していた榎木田歩にまつわる謎も書き記しておきます。

まず「盗聴撲滅隊」が有限会社であることについて。2006年5月に新会社法が施行されたことによって、それ以降新規に「有限会社」を設立できなくなっています。

榎木田さんがいったい今何歳なのか明かされていないうえ、作中で一体何年なのかが明かされていないので、ここからはあくまで私の持論なのですが。
現在25歳の武田玲奈さんが大学生の睦美を演じていることから、榎木田さんの年齢も濵田さんの年齢に近い、30歳くらいなのかな、と推定しています。で、作中が一体何年なのか問題。普通に考えて2022年の現在進行形の物語として捉えるのが自然かな、と思います。
2022年に榎木田さんが30歳だったとして、16年前はおおよそ高校生くらい。会社設立をする際には年齢制限がないので、300万円の資本金さえ手に入れば榎木田さん自身が「有限会社盗聴撲滅隊」を起こすことは可能です。ただし、盗聴調査をするための道具だったり、資格だったり、仕事としてやっていくための実務経験をある程度持っていたほうがいいのでは、と考えると、少々若すぎるかな?とも思っています。もう少し現実味のある答えにするなら、2つの考察ができます。

一つは、誰かが持っていた有限会社を榎木田さんが譲り受け、屋号を変更して盗聴撲滅隊として運用していること。会社を譲り受けるにあたっては諸々ありますが、私が調べた限り、「有限会社」のまま屋号を変更することができそうなので(有識者の方間違ってたら教えてください)、それならもう少し現実味があるかな、という考察。
もう一つは、作品が過去の話であること。健吉が糸の歌詞を音声検索していることから、少なくともグーグルがGoogle音声検索(日本語対応)を提供した2009年か、Siriの日本語対応によって大衆に音声検索という手段が浸透した2012年以降であることは確かです。古くて10年以上前の話であれば、榎木田さん自身が会社を設立した、とも考えやすくなります。

まあ、まったくこの辺りは本筋に関係ないのでいつか榎木田さんの過去が何らかの媒体で語られることで答えがわかることを楽しみにしつつ。
おそらくは、なによりも「有限」という響きに意味があるんじゃないかな、と思ったり。

もう一個の謎が、二条を首吊りに偽装して自分は単独事故で壁に突っ込む、という、自らの家族の死に方をあえてなぞったとも捉えられる選択をした理由。これも答えはないので、どれだろうなぁという私のメモ。
シンプルにたまたま、という可能性も否定できません。たまたま、皮肉にも同じような結末をなぞってしまった。
意図的であった場合、自分自身は首吊りに続く死に方として事故を選んだ。その前の二条を首吊りに見せかけたのがわざとだったのか、たまたまだったのか、これもどっちも可能性があります。
たまたま偽装した首吊り遺体を見て、姉のことを想起して、自分は壁に突っ込むことを選んだ可能性。
かつてストーカーに追い詰められて首を吊った姉の敵討ちとして、一人の女性に盗聴器を仕掛けて死なせた男を吊ったのか。吊った二条に自分自身のほの暗い部分も投影していたのか。
「実は姉も母も殺したのは榎木田さん自身でその責任」という可能性も頭によぎりましたが、榎木田さん、あそこで撲滅隊の二人にバレてなかったときにもしかしたら自分は生き残ろうとしてたのかと考えると、私はちょっと違うかな、と思ったり。全員殺して自分も死ぬつもりだったんだとしたら嫌だな~、物語の展開としてはめちゃくちゃ癖にささるけど……。

劇中歌について

劇中歌われた三曲について、既存の曲でありながらその歌詞だったり、パートわけの演出があまりにも素晴らしかったので改めてここでも触れておきたいと思います。

まずは中島みゆきさんの「糸」。
たぶんここで歌詞引用すると怒られちゃうので皆様におかれましてはぜひ「糸」聞きながら読んでください。EXILEのATSUSHIさんのやつがキーも一緒です(しらんがな)
この曲は、睦美ちゃんが「縦の糸はあなた」健吉くんが「横の糸はわたし」を交互に歌ってて非常に微笑ましいんですが(パート分けのせいで健吉が縦の糸にも横の糸にもなってるのを突っ込むのは無粋ですね)榎木田さんはそれを見守って真ん中で歌っているのに、捉え方によっては「糸」ではないことがすごくギュっときてしまっていました。織り成す布はいつか誰かの傷を庇うかもしれない、だけどそのいつかの誰かは榎木田社長になり得なかったんだろうか、とか考えて少々しんどくなるなどしていました。
もぎ関で濵田さんも触れてましたが、最後の歌詞は、「逢うべき糸に出会えることを人は”仕合わせ”と呼びます」という文字になっています。

「幸せ」というのは、うれしいとか、ラッキーとか、良いことで使う言葉です。どうして現在の意味になったか定かではないようですが、「幸」の字はもともと「手枷」の象形文字であったようです。確かに「執着」とか「悻悻」とか、ハッピー!っていう雰囲気とはかけ離れた漢字にも含まれています。で、「幸せ」という表記を使うようになったのは、日本ではどうも江戸時代以降のようで、それ以前は「仕合せ」の表記を使用していたそうです。

「仕合わせ」は、「為(し)+合わす」で、めぐり合わせ全般を指すようです。良いめぐり合いも、悪いめぐり合いも。きっと榎木田さんも二人にとってきちんと「逢うべき糸」ではあったんだな、と思います。
「仕合わせ」とは、「人のつながり」そのもののことであり、そこからその人と何をするかは本人次第。そのめぐり合わせが、良いものだったのか悪いものだったかを判断するのも本人次第。

いつか榎木田さんと「仕合わせ」たことが、お互いが「仕合わせ」たことが、残された二人にとってなにかプラスに働けばいいな、と願ってしまいます。

妖怪人間ベム

これはほんとに一見コミカルに見えてめちゃくちゃ秀逸な選曲だと思います。脚本の西田さんは、ドラマ版の妖怪人間ベムの脚本をなさっていました。妖怪人間ベム。3人の、人間とも妖怪ともつかない異形の生き物たちが、時に人間に迫害され、時に人間と仲良くなりながら、世の中の悪を倒していく。盗聴撲滅隊の皆さんも、3人組だなぁ、とか。ただの監督作品繋がりというだけじゃないような気がしています。

ドラマ版の原作アニメと1番違う部分は、「名前のない男」という登場人物の存在です。
「名前のない男」は、各話登場する心に闇を抱えた人間たちに、「あなたの目、なんだか渇いていますねぇ」と、悪の心を増幅させるアメーバを寄生させる。寄生された人は、犯罪、暴力を犯し、人間以上のパワーを持った異形の存在に成り果てる…。そんな人達を、ベム達が妖怪の力を使って人間に戻していく、というストーリーでした。
アニメ版の、正義の妖怪人間VS悪の妖怪って感じで人間を守る、という構図とは、また違った作品になっていました。人間に憧れて、人間の性善説を信じるベム達が、悪の心に染まった人間を「人間に戻す」物語。
放送当時まだ幼かった私ですが、幼心に「いちばん本当のいい人間に近いのは、姿形も存在も人間では無いベムたちだ。」と感じていました。
ドラマ版のベムたちは、見た目に相反して、本当に純粋な善性だけを持ち合わせて、本能的に人間を守る、そんな生物でした。助けを必要とする人間を見過ごすことは出来ないし、それを忘れてしまうと自分たちは本当に、ただの妖怪になってしまう、みたいなことを語ってた記憶がうっすらと。ドラマのネタバレになっちゃいますけど、ドラマの最後、ベムは「名前のない男」を受け入れ同化することで人間になれる、というチャンスをふいにします。これまたただの私の深読みかもしれませんが、善性だけの存在に、悪意の塊である「名前のない男」を取り込んでやっと「人間になれる」っていうのはすごい皮肉な構図だな、と思います。
性善説を信じる榎木田率いる撲滅隊と、性善説を信じる妖怪人間ベムたち。なんだかやっぱり意図的に重ね合わせているんじゃないかな、って思ってしまいます。

たまたまベムたちは「容姿」という形でその二面性がわかりやすく描かれていたけど、人間も何もかもその善悪の多面性というのは同じだと思います。
一見していい人でも、実はめちゃくちゃ悪い人だったり。一見して悪い人でも、実はものすごく心根の優しい人だったり。でもそこで見えている「実はこういう人だった」の部分すら、本当に真実だとは限らない。
盗聴撲滅隊のみんなも、多面性を持った人間だな、と思うし、本当に西田さんって登場人物の多面性を描くのが上手いなぁ、と感嘆してしまいます。

そしてこの曲では、健吉だけ「早く人間になりたい!」って言わないのがずっと引っかかってます。健吉くんだけ、「罪を犯していない」という意味では今のところ「完璧な人間」だからなんでしょうかね。
榎木田さんはまあ言うまでもなく。睦美ちゃんも、元カレに裏切られて、盗聴器を仕掛けていて。健吉は、親のこともあって人間を信じられていないけど、その分まだ「不安になって何かをする」ということはしていないんですよね。
西田さんが人間という生き物をどう捉えてるかはわかりませんが、もし「妖怪人間ベム」のように、「善性だけでは人間になれない」と思っていらっしゃるとしたら、「完璧な人間なんていない」という榎木田さんの言葉が一層悲しく聞こえてきます。

翼をください

主題歌~~!!!!!(主題歌ではない)誰が想像していただろうエヴァに引き続きオタクが泣く曲になってしまうと……。
「翼をください」という曲そのものの解釈について。
私は、最初「しがらみだらけのこの世の中から自由になりたい」って感じかな、と思ってたんですよね。でも、「大切な人が死んでしまって後追いしたい」という解釈を他人から聞いた時から、ずっとそれも頭の片隅にあります。もちろん、曲全体としてではなく、「悲しみ」とか「白い翼」とか、端々にちりばめられたエッセンスがそういうことを想起させるな、と思っています。
榎木田さんはどうなんだろうな。
「翼をください」は、特に2番のメッセージ性が強いと思っています。
私はずっと1番は子供の純粋な願い、2番は大人になってから1番の自分を振り返ってのアンサーソング、という風に思っているんですが、もしそうだとして……。榎木田さんがあの場面でここまで考えて歌ってたとも思いませんが、解釈大好きなのでちょっと重ね合わせてみます。
「俺が成功して母ちゃんと姉ちゃんを幸せにする」は子供の時夢見た事、には当てはまらない気がして。成功、というのは≒富とか名誉、かな、と思うので。じゃあ「子供の時の夢」とは?……一番の歌詞そのまま、「翼が欲しい この背中に鳥のように白い翼 つけてください」、になるのかな、と思いました。家族と一緒に居たいという願い。
何度も申し上げている私の勝手な解釈ですが、榎木田さんの家族のお話はホントのことだと信じたいです。そのうえで、「盗聴」という行為が引き起こした悲しみ、そしてそれが溢れるこの地上ではなく、悲しみのない自由な空で、盗聴のない世界で。みんなで笑ってたいな、というのが榎木田さんの夢だったんじゃないかなと、そう信じたいな、と思っています。
榎木田さんが「自分を信じられなかった」と同時に、彼は「頑張っている人が報われる世の中であってほしい」という想いもなんども裏切られてきたからこそ、そう強く願っていると思うのです。
「覚書」にのっけた私の妄言から引用しちゃいますが、願わくば、優しいあなたが、悲しみのない自由な空で、大好きな人たちと、笑顔で羽ばたいていられますように、と祈って考察を結びたいと思います。

おわりに

完全に「私が思う榎木田さん」を文字情報という形に遺すためにだらだら書き綴ったここまでの約二万字、もし読んだ方がいたら本当に心の底からお付き合いいただきありがとうございました、と言わせてください。
観劇していた時、いろんなキャラクターに自分自身と重なる部分があって、それがより物語に没入できる理由になりましたが、今回行った「榎木田歩」について考えて、ある意味で彼の粗を探していく、という作業、これが想像していたより自分と向き合う作業になってしまって……。自分自身の未熟な部分とか、私の中の「榎木田歩」になりうる要素と対峙するのが結構しんどくもあり、なかなかやる機会がない作業だから有難くもあり。結構自分でも気づいていなかった自分の考え方が明らかになったりとか。それこそものすごい「仕合わせ」でした。
一か月ちょっと、「盗聴」を楽しみながら諸々考えてきて一番思うのは、人間は本当に信じたいものを一生懸命信じようとする生き物なんだな、ということです。マジで私自身が榎木田さんをいい人だと信じたい気持ちが強すぎて面白かったです。この、すべてを知り得ない不確定な存在を「信じる」ということは、本当に独りよがりな行為で、「見たくないものを見ない」とか「知らないほうがいいことを明かさない」ということとも密接に関わってくるな、と感じました。
「信じる」ということは本当に不確実な思いです。今後私は推しとか、周りの人に対して「信じる」という言葉で、身勝手な期待とか、理想を押し付けたりしないよう、何よりも自分自身をしっかり信じて、補助輪がなくても生きていけるようにしたいな、と思いました。

……私ほんとに語り出したら永遠に語れるんですけど、締めるのがマジでヘタクソで今も着地点を探しています。
卒業論文、とか榎木田さんのためのピラミッド、とかなんだか色々面白い呼称を書いている間に勝手につけてしまいましたが、あらすじで約37000字、覚書が25000字、これが22000字。推敲も含めるとたった一か月ほどで、かつて私が執筆した本当の卒業論文の倍以上の、下手すると三倍近い文字数を書きました。恐ろしいことだ。
濵田さんに出会って、ジャニーズWESTに出会って……それに出会わなければ、「盗聴」を見ることもなかったし、ジャス民のみなさんに出会うこともなかったし、本当に不思議な「仕合わせ」と、その温かさ有難さに感謝してばかりです。たくさん救われて、たくさん「幸せ」にしてもらって、どうお返しすればいいのかずっと持て余しているくらいですが、逆に私と「仕合わせ」た皆さんが、私がそうであるように「良かった」と思って貰えるよう、生きていきたいなと思っています。
これからも素敵な「仕合わせ」が私にも、皆さんにもたくさんありますように。「盗聴」という作品に出会えて本当に幸せです!ありがとうございました!


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