贅沢だった、長い長いあの夏休み

10数年前の春、娘が生まれて育児休業を取った。
当時、息子は2歳。当初は保育園に通っていたのだけど、「どうも最近ママが赤ちゃんと家にいるようだ」と察知したようで、「保育園行きたくない!」と泣き喚いて登園拒否するようになった。さすがにかわいそうになって(保育料が惜しくなったのもある)度々休ませているうちに、なし崩し的に、保育園をやめた。

赤子の0歳児と魔の2歳児、ワンオペ、さて、どうしてくれよう。
まず、私の妹に誘われ、妹の子(女児、こちらも2歳児)とともに、長男(魔の2歳児)をヤマハ音楽教室のリトミック教室に週に1度通わせた。
さて、たった週に1度、1時間ばかしリトミックに通わせたとて、あと6日と23時間は、息子と娘と時間を潰さなければならない。
しかし、合間に掃除やら食事の用意やらおもらしの対応やらしなくちゃいけないわけで、手がいくつあっても足りないのだ。
朝起きたら、夫が子供を見てくれるうちに、朝食を食べさせ、ズボラ掃除(洗濯は夫の担当)、夫が仕事に出かけたら、自分も子供も身支度をして、車で半時間の実家へGO! 
妹も同じ魂胆で、だいたい同時刻に、我がファミリーの子供たちが実家に勢ぞろいする。庭で子供を遊ばせたり、一緒に買い物に出かけたりして、1日をやり過ごすのだ。

そんなこんなで、数ヶ月乗り切り、夏がきた。
暑い、とにかく暑い。しかし、子供は元気だ。当たり前だが、子供は熱中症もあせもも虫刺されも全く気にしない。「お外行く!」と連呼。
魔の2歳児、拒否ると喚く、泣く、暴れる、手がつけられない。

ということで、取り出したのは、

ビニールプール!!

妹と資金を出し合い、実家の軒の下にデンと据えられた、どでかいビニールプール。
孫が来るまでにと、父が朝早くから水を入れてスタンバイ。
実家に到着するやいなや「プールする!!」と叫ぶ2歳児。
早々に、水着に着替え、プールへダッシュ。
赤子には、水につけられるオムツを着用し、2歳児が暴れまわるプールの隅でちゃぷちゃぷ。

水鉄砲、ジョーロ、水車、アヒル、ペットボトル、あらゆるおもちゃを持ち込んで、遊ぶ、遊ぶ、遊ぶ。
水の中にいるのに、汗びっしょりだ。
一緒に見ている親たちは、その倍、汗びっしょり。ふう。

しまいには、水着のままで庭を走り回り始める。もはや水遊びではなく外遊び。炎天下、庭を裸同然で走り回らせるのは、ちょっと危険なので、そこで試合終了のゴング。
親たちは子供達を追いかけ、タオルで捕獲。シャワーを浴びせて、着替えて終了。

そうこうしているうちにお昼。母が冷やしそうめんを作ってくれる。
父は、孫たちが遊び散らかしたプールの水を抜く。

0歳児の娘は、一足先におっぱいを飲んで一口眠って、ご機嫌。

2歳児と大人は、そうめんを奪い合うように食べ、お腹いっぱい。
すると、次第に息子たち2歳児組の動きが緩慢になってくる。よし、そろそろだ。
妹と私、それぞれに子供を車に乗せ、実家を後にする。

走り出して数分、バックミラーには、ぐっすり眠る息子と娘。
そっと、カーオーディオでかけていたアンパンマンのCDを止め、静寂が訪れる。
夕飯は、食材の宅配を頼んでいるから、レシピは決まっていて、もうできたも同然。他に特に考えることもなくて、ぼーっと車を自宅マンションまで走らせる。

駐車場に到着。
助手席のバッグとおんぶ紐を掴んで、外へ出る。後部座席のチャイルドシートでぐっすり眠る子供達。起きる気配は全くない。しめしめ。
まず、赤子の娘を抱き上げる。娘を肩に乗せた状態で、おんぶ紐をチャイルドシートに置く。娘をその中に入れる。バックルを留めて装着完了。起きないようにそっとそっと、背負う。バッグを肘に引っ掛けて、娘側の車のドアを静かに閉める。
手には、車の鍵を持つ。
次は、息子側のドアを開け、チャイルドシートのバックルを外し、息子を抱き上げる。2歳児の中では小柄な方とはいえ、眠った子は重い。
「よいしょっ」と掛け声をかけて、息子を抱っこ。
起こしてはならない。起こしたら失敗なのだ。
車のドアを閉め、数歩、車から遠ざかる。車のキーのロックボタンを押す。
「ピピッ」
と、車から音がする。息子がもぞっと動く。起きたか!? と思ったら、また寝た。よし、今日はいけそうだ。

そのまま、1・2・3・4・5、頭で数えながら階段を登り、マンションの玄関に到達。
エレベーターで3階へ。重い。あと少しだ。
車のキーと一緒に、キーホルダーについた玄関の鍵を指先で探り出す。
息子の重みで、よろけながら鍵を開ける。「ガチャ」ドアを開けると、リビングへダッシュ。
足でお昼寝用のマットを広げ、その上に息子を寝かせる。
息子は眠ったままだ。よしよし。
すぐさまエアコンのスイッチをオン。
息子にタオルケットをかける。
おぶった娘をソファに寝かす。おんぶ紐を外す。娘を抱き上げ、私もそのままソファへごろん。うすっら目を開けて、ちょっとぐすりそうな気配の娘に、すぐさまおっぱい攻撃。口をもにょもにょしながら、うとうとする娘。
部屋の気温がエアコンの風でだんだんと下がって来た。
それと同時に、どっと疲れが押し寄せる。疲れた。眠くなる。寝てしまえ。
親子3人、お昼寝モード。しばし、おやすみなさい。

エアコンの吹き出す風の音と、廊下で隣の人が出入りする音だけが聞こえる、夏の午後の昼下がり。

思い起こせば、とても贅沢な時間だった。


サポートいただけると、明日への励みなります。