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自分のQOLは自分で決定したい

多分、ちょっと前の自分なら言えなかったんじゃないかなあと思う。

今日、1ヶ月ぶりに、婦人科へ行ってきた。
4月に受けた卵巣嚢腫の摘出手術の経過を診てもらうため。
病院はわりと混んでいて、11時の予約だったけど、呼ばれたのは30分後だった。

ドアを開けて「お願いしまーす」と入って、椅子に腰掛けるのが早いか、先生が
「で、お薬は飲みますか?」
と尋ねてきた。

「できれば飲みたくありません。副作用が煩わしいんです」
ここ1ヶ月考えていた結論を先生に伝えた。
先生の顔から、一瞬表情が消えた。「やっぱり飲まないのねぇ」という困惑した様子。

卵巣にできていた嚢胞は、4月に手術して取ったけれど、女性ホルモンがでて生理があるかぎり、また再発、つまり嚢胞ができる可能性があると先生から説明を受けていた。嚢胞ができるのを抑える効果があるといわれるお薬を飲むかどうかの判断をするよう、先月の検診で先生から言われていたのだ。
「再発が抑えられるなら、飲めばいいんでは?」
と思われるかもしれない。
でも、このお薬はホルモン剤で、飲み続けると副作用がある。
生理の5日目のような出血が止まらなくなるのだ。
多くの人は、数ヶ月ほどで出血しなくなるらしいが、中には数年経っても止まらない人もいるらしい。
それがわずらわしくてたまらないのだ。
前回手術までの2ヶ月ほど飲んでいたのだけど、ずっとだらだらと出血が止まらず、このまま貧血で倒れるんじゃないかと怖かった。
出血の量も、多かったり少なかったりで、寝ても覚めても気になって仕方がない。
温泉もプールも行けないし、旅行に行っても、なんだか落ち着かない。
女性の皆さん、ずっと生理中で生活しているとイメージしてほしい。
私のQOL(生活の質)を脅かす副作用なのだ。


その副作用が嫌で嫌で、ついに「できる限り、飲まない」と決めたのだ。

ちょっと前の私なら、きっと「じゃあ……飲みます」と言ったような気がする。
先生の困ったような、「本当にそれでいいのね?」とでも言いたげな様子を見て、判断を変えていたように思う。
それに、飲まずに再発して、再手術になれば「やっぱり飲んでおいたらよかったんだろうか」と悶々することは想像に難くない。
でも、今日はそうしなかった。

「飲んでも絶対効果があるんじゃないんですよね?」
「そうですね。絶対予防できるとは言い切れません」
「それなら、お薬は飲まずに、検診を定期的に受けて、様子を見ます。それで、どうしても薬を飲まないいけないとなったら、飲みます」
「そうですか……わかりました。もし再発したら、次は右の卵巣を全摘出することになるかもしれませんが、それでいいですか? お薬はいつからでも始められるので、飲みたくなったらいつでも言ってください」
「はい、そうします。よろしくお願いします」
そう言って、診察室を後にした。

病気になれば、治療については、お医者さんや看護師さんの判断に委ねるのが正しい選択だ。きっと病気を治療することに全力を傾けてくれて、これ以上病気が進行しないように、完治できる方向に向かわせてくれることは重々分かっている。
今回のことにしても、副作用はありがならも、薬を飲めば、再発の可能性が1%でも2%でも下がることは、先生の丁寧な説明からよく分かっているつもりだ。

だけど病気の治療は、自分QOLに直結するのも事実。
病気を抱えつつも、どんなふうに暮らしていきたいかということは、やっぱり自分で納得して、自分で決めた方がいいと思う。

数年前、夫の母が肺がんで亡くなった。がんが見つかって余命1年と宣告された。それを聞いて、当初義母は「苦しい抗がん剤治療はしない」と言っていた。しばらくは、義父も義母の判断を尊重していたが、そのうち義父が義母を説得し、抗がん剤治療を始めた。
義母は「副作用がでたら、治療を中止する」と義父と約束して、治療を始めたけれど、一回始めた治療は、途中でやめることはできなくて、結局、かなり副作用に苦しんでいるようにみえた。
抗がん剤治療の副作用せいか、がんのせいかは分からないけれど、義母は日に日に元気をなくし、外出できなくなり、趣味の書き物もカメラもできなくなって、長期の入院に嫌気を感じながら1年を過ごし、余命宣告どおり亡くなった。
あの時を振り返って思うのは、本当に抗がん剤治療は必要だったのだろうかということだ。義母は治療を嫌がっていた。だけど、周りに半ば押し切られるような形で治療を受けた。でも、その効果はついに現れることなく、義母は亡くなってしまった。
最終的に義母と義父の間で、どんな相談がなされて、抗がん剤治療に至ったのか分からないが、きちんと義母の意見を聞いてあげていただろうかという後悔がたびたびよぎる。

私の場合は、ありがたいことに、まだそこまで深刻ではない。
もちろん、卵巣がんになりやすい体質かもしれないという不確定要素はあるけれど、女性ホルモンが出なくなれば、病気が再発する可能性はぐっと下がるというものだから、閉経までこの病気をどうやり過ごすかという問題だけだ。
だからこそ、自分のQOLをどこまで守るかというのは、自分で責任をもって決めたかった。

先生の言う通りにお薬を飲めば、イライラ、ソワソワした生活を送ることが目に見えている。私はそんな生活をしたくない。
病気の不安はありながらも、定期的に検診を受けて、状態を確認しながら、できるだけ快適に過ごす時間を長く持ちたい。
それで、もし絶対、薬を飲まなければならないとか、再手術とか、がんになってしまったとしても、ちゃんと受けて立とうと思う。だれのせいでもない、自分が決めたことだから。

「では、3ヶ月後に検診しますから、来てくださいね」
先生の顔には「仕方ないわねぇ」という、諦めの表情が垣間見えたけれど、笑顔で診察室から送り出してくれた。
先生、わがままですみません。それ以外は、模範的な患者でいますので、お許しを。

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