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変わらなくていいから、ダイエットすることにした

毎年、夏の健康診断で体脂肪計に乗る。
乗りながら、看護師さんとお話する。
「私、体脂肪率が高いんですよねー」
「そんなことないでしょう! ……あら!?」

100%の確率で、体脂肪計を二度見される。
私の見た目は、まあ、ちょっとぽっちゃりくらい。
体脂肪って、30%を超えるとやや肥満らしいから、多分、看護師さんは、私の体脂肪率を30%弱くらいと見積もっているのだろう。そのつもりで、体脂肪計を見て、その結果に「ええ!?」と驚いて、見直すようだ。
「わ、割とありますね……」
語尾に「(汗)」が付いたような言い方。

おっしゃるとおり、「割と」どころか、かなりあります。
結果は、39%。きっちり肥満。これ、相当ヤバイ。

体脂肪率が30%を切っていた時代なんて、自転車で40分かけて大学に通っていた18歳の頃くらいだ。思春期以降、最高に痩せていた。

物心がついた時から、ずっとぽっちゃり体型だ。
運動は小さいころから苦手だった。
鉄棒も跳び箱も全然できなかったし、ドッジボールではすぐに外に出された。
体育の授業で「うまくできた」と思った記憶はない。

一方、食べることは大好きだ。
母が料理好きの専業主婦だったこともあって、家に帰れば手作りのホットケーキやドーナツ、おかき、あられ、羊羹なんかが、毎日のように出された。
学校であったことを母に話しながら過ごすおやつタイムが楽しくて、ついつい食べすぎた。それなのに、夕食も美味しかったから、全部残さず食べていた。
今も、趣味は料理とお酒とスイーツ。

思春期が来て、女性ホルモンのせいでどんどん体は丸みを帯び、脂肪をまとって、気がつけば、新幹線が駅を通過するくらいの速さで標準体重を通り越し、ぽっちゃり体型と化していた。

体型は母親に似るというが、そのセオリー通り、母親も肥満体型、妹も肥満体型、そして私も……。それは、母親と同じな食生活を送り、母親と同じように動くからだと思う。私たち3人とも運動は嫌いだった。
でも、体型のことなど一切気にならず、私は幸せに暮らしていた。

自分が太っていたのだと自覚したのは、小学校6年生の時だった。
そして運動が決定的に嫌いになったのも、ある事件からかもしれない。

私の通う小学校で、6年生を集めて新体操クラブを作るという話がでた。
当時は、新体操を題材にした少女マンガに人気が出たりして、子供である私たちにも新体操という競技が認知されはじめた時代だった。
新体操のキビキビとした動きの中にある美しさとか、カラフルなリボンやボール、レオタードとか、女子のキラキラや憧れを集めたようなこのスポーツに、私は心を奪われていた。真似したくて、自宅の床の間で、棒に布をくっつけ、リボンようにして振り回してみたり、ドッジボールをボールに見たてて、家の庭で投げて飛び跳ねてみたりしてた。
先生の話によると、小学校に新しくできる新体操クラブは、数ヶ月後の県大会出場を目指しているという。
憧れの新体操ができる!!

「クラブに加入したい人は、まず、明日の練習に来てみてくださいね」
もちろん私は、勇んで、朝の練習に参加した。
歩く練習から始まった。背筋をしゃんと伸ばして歩く練習。ただ体育館の中をぐるぐると何周も歩くだけの練習。
それだけだけど、来るべき、リボンやボールを使った練習を想像してワクワクした。自分が、大会で演技している姿を想像して、テンションが上がった。どんな辛い練習もがんばってやろう! と思っていた。

次の日、先生から体操クラブに入部できる子が発表された。
そう、昨日の練習は、クラブ入部者の選抜のための練習だったのだ。私はてっきり全員入れるものだとばかり思っていたのに、そうではなかった。
新体操の見込みのある子だけが選抜されることになっていたのだ。
そして、私は落とされた。
選ばれたメンバーを眺めると、スマートでスタイルのよい、Sサイズ、Mサイズの子ばかりだった。Lサイズの子はどこにもいなかった。

「私って、デブで見苦しかったのか……」

人生で初めて「体型で選別される」という経験をした。
太っていては選ばれない。
太っていると美しくないから、運動することも許されない。
それ以来、新体操の真似事は一切やめた。
以前にも増して運動が決定的に嫌いになった。

中学生になった。田舎の中学は生徒が少ない。生徒が少ないと先生も少ない。先生が少ないと部活の顧問も少ない。そんな「風が吹いたら桶屋が儲かる」論で、私の通う中学には、テニス部と剣道部と、男子野球部しかなかった。もちろん、文化部はひとつもない。
運動が嫌いな私が、中学校で放課後に打ち込めるものは何もなかった。  
いや、嫌いというより、もはや「恨めしい」存在になった。

「若いうちから、ダイエットなんて、体によくない」
という母の教えから、ダイエットすることもなく、体重はどんどん増えていった。
あっという間に、ぽっちゃり体型から肥満体型に変わっていた。
標準体重から、実に10キロオーバー。
生まれたての従姉妹を抱いた写真は、もはや肝っ玉母さんのような貫禄だった。
買い物に行っても、自分の体型に合う洋服のサイズはない。時はバブル景気まっさかり。当時流行っていた女の子雑誌、oliveやnon-noには、華奢で可愛い女の子が、それはそれは可愛くて色とりどりのお洋服をまとって、私の方を見ている。
見つめられる私は、自分の体型に合う服をなんとか探し当てて、着ているだけ。おしゃれもへったくれもない。
同級生は、お気に入りの洋服屋さんを見つけて、そこへ足繁く通い、気に入りの洋服を着て闊歩している。なのに、私は……。

惨めだった。かっこ悪い自分を晒しながら、外を歩くのが嫌だった。
だから、学校が終わるとそそくさと家に帰り、母が作ったおやつを食べ、自分の部屋でマンガとコバルト文庫(当時流行った少女小説)を読みふけり、録画したテレビアニメを見る生活。家から出て行くのは、週に2回、塾に行く時くらいのものだった。その塾でさえ、私は浮いた存在だった。暗黒の中学時代だった。
自分の存在に自信を持てなくなったのも、この頃からだった。

高校生になったら、思わぬ出来事があった。
自転車で高校まで通うようになって、10キロ痩せていた。
自分では全然気づかなかった。近所のおばさんに「あんた、痩せたわね」と言われて初めて気が付いた。
そういえば、ブラジャーのホックが授業中に突然外れたことがあった。
あれは、アンダーバストが痩せて、ブラジャーが合わなくなっていたからか!
やった! 私、痩せたんだ! 
だがしかし、それに気づいたころには、受験生になっていた。
受験勉強で、おしゃれもへったくれもなくなっていた。残念。

大学生になって自動車の免許を取った。大学1年の夏休みだった。
秋になると、初心者マークを貼って、父のお下がりの軽自動車を運転して大学に通った。自転車に乗らなくなった。みるみる太り始めた。

あっという間に、中学時代と同じ体重に戻った。
当時付き合っていた彼氏(現在の夫)は、ぽっちゃり好み。
私の振り袖のような筋肉のかけらもない二の腕をつまんでは、いいねぇという。
私が「太った。ダイエットしなくちゃ」と言っても「それでいいじゃん」と甘やかす。
多少の体重の増減はあれ、もう、かれこれ20年、そうやって甘やかされ、ぽっちゃり体型で生きてきた。相変わらず運動なんかしない。

小学校6年生に太っていたと自覚した時から30数年のうちに、時代は変わった。
多様化の波に乗って、洋服のサイズ展開は広くなり、探せば自分に似合うぴったりサイズの洋服を見つけることができるようになった。

世の中のいろんなことを見知り、太っていることも痩せていることも、人生を楽しく生きることにおいて、何の意味もないということに気づいた。
だから、今の自分に満足している。

だが、しかし!
人間、寄る年波には勝てない。
アラフィフ目前、白髪だらけの髪の毛、老眼の進む目、更年期、体のあちこちにガタがくる年齢になった。
とうとう子宮内膜症の手術まで受ける羽目になった。

幸い、今のところは人間ドックの血液検査の結果は、コレステロールも中性脂肪も、血糖値も正常範囲とはいえ、じわじわと悪化の一途をたどっている。

運動が嫌いで食べることが大好き。趣味は料理とお酒とくれば、今後自然に痩せるはずはなく、血液検査の数値が良くなるとも考えられず、このまま行けばメタボリックシンドローム一直線だ。

悔しいことはもう一つある。
夫は20代から痛風を患っている。学生時代と独身時代の食生活が原因か、体質なのかはわからないが、結婚式直前に発症して以来、痛風の原因である尿酸値を薬で下げる治療をしている。
夫も私同様、運動もせず一日中パソコンとにらめっこし、晩酌のビールを楽しみに生きている人。血液検査の結果も最悪、脂肪肝と診断されていて「僕は絶対長生きできない」なんて言って、私の健康診断のA判定結果を恨めしそうに見ていた。
私も夫より数値がいいことに優越感を持っていたし、夫の不健康をバカにしていた。
そんな夫が、数年前、突然「水泳を始める!」と言いだした。
それから、本当にスポーツジムの水泳教室に通いだし、泳ぎ方をマスターした。今も、週2、3回ジムのプールで泳いでいる。
おかげで、血液検査の結果が、みるみる良くなり、脂肪肝も克服、どでっと出ていたお腹も、すこし凹んできた。最近じゃ「筋トレもしようかな」なんて言い出す。

夫につられてスポーツジムに入会したことがあった。
器械で筋トレして、エラロバイクを30分ほど漕ぐ。これを週3回ほどやった。運動嫌いの我ながら結構頑張っていた。
「嫌そうに漕いでますねぇ」
エアロバイクを漕ぐ私の横にインストラクターがやってきて言った。
それがショックで、ジムをやめてしまった。

このままでは、私のほうが早死にしてしまいそうだ。
体脂肪を落として、筋力をつけ、血液検査の結果を改善しなければ、私は長生きできなさそうだ。

夏の健康診断では、体脂肪率のほかに、「あなたの体年齢」を教えてくれる。
実年齢43歳だった去年。49歳だった。プラス6歳。
確かその前の年は47歳。実年齢との差、プラス5歳。
実年齢との体年齢の差がじわじわ広がっている。あな、おそろしや。

痩せたら綺麗になるとか、おしゃれが楽しくなるとか、そんな理由はもうない。
元気に健康に楽しく生きるための、セーフティネットとしてのダイエット。
やらねば、命に関わる。

運動が嫌いなんていっていられない。
運動しなければ、メタボになって、健康寿命が縮まるのだから。

それから、もう一つ。
痩せた自分が見てみたいという好奇心。
自分の筋肉、肉のない膝や膝、段のない腹、肉に隠れない顔。
物心ついた時から、見たことのない自分のパーツたちを見てみたい。
痩せた自分はどんな姿をしているのか、痩せた自分はどんなことを話し、どんなことを書いているのか、それが見てみたい。
今と全然違わないかもしれない、全然違うかもしれない。
どっちでもいい、会ってみたい。

もともと、ダイエットとは英語で「常食にする」という意味だそうだ。常食にすること、つまり毎日食べるもの、やること、考えること、全てを健康にすることがダイエットということか。

自分を変えたいからダイエットする時代は終わった。
変わらなくてもいいし、変わってもいい、そう思う今だからできるダイエットがあるんじゃないかな。
いや、もはや生きるためだし。

だから、今日からダイエットはじめます。
そして、経過報告をnoteにすれば、ネタがつきないななんて、邪なことを考えたりしている。

さて、早速ウォーキングしてきましょうか。


サポートいただけると、明日への励みなります。