幸せってなんだっけ？

幸せってなんだっけ？　なんだっけ？ 
昔、明石家さんまが、キッコーマンのCMで「ポン酢しょうゆのある家さ」と歌っていた。イメージするのは、熱々のお鍋を囲んで、ポン酢しょうゆをつけながら食べる団らんの一コマではないだろうか？
このCMのこの歌が当時人気を博したのは、さんまさんがヘタウマで歌ったこともあるけれど、この言葉が真理だったからかもしれない。

先日、近所の書店をのぞいたら、おすすめ本コーナーで「幸せになる〇〇」といったタイトルの本を見かけた。売れているらしい。

私も、３０代はこの「幸せ」ってやつを延々と探していた。「幸せになる〇〇」なタイトルの本を読み漁り、幸せらしい人のブログを読み、彼らがプロデュースした「幸せになる」グッズを買ったり、己の境遇を親のせいにしてみたり、「本当の幸せ」なんて真っ青な鳥を探して、七転八倒していた。

住む家があって、仕事があって、家族がいて、みんな元気で、「ポン酢しょうゆのある家」ような生活があって、それ以上の何を「幸せ」だと思って、必死になっていたんだろう。

私が探していたのは「優越感」だ。
誰かより優れているという事実がほしかった。
「すごいね」って誰かに言われたかった。
ネットビジネスで億万長者になった人、書いたブログが本になった人、子供を東大に入れた人、有閑マダム、都会に住んでいる人、仕事で出世した人、美魔女、何でもいいから、「人より頭一つ抜きんでた人」になりたかった。
ただの承認欲求。

その根っこにあったのは「劣等感」
自分は人より劣っているという思い込みだ。
頑張らないで成功する人なんかいない。たいていの成功者は、泥臭い努力を積み重ねて結果を勝ち得てる。
私はそこをすっ飛ばして、綺麗なままで成功や優越感だけを手にしたかった。

曇ったガラスの箱の中に閉じこもって、自分の見たいところだけ、曇りをふき取って外を見た。キラキラ輝く人がこちらを見て笑ってた。でもほんとは、ガラスの向こうで、みんなちゃんと努力していたのだ。ガラスを全部綺麗にしないのは、彼らを通して、頑張りたいのに頑張らない自分を、自分の中に見つけるのが怖かったからだ。
だから、私は「できない」ことにした。「できない」と言い訳することを「劣等感」にすり替えて、自分をごまかしていた。
つまり、「劣等感」すら、自分が作り出したウソだった。
頑張るときに頑張らない、ただの「ずるい奴」だった。

承認欲求は今もめちゃくちゃある。
自分の書いたものをたくさんの人に読まれたいし、バズりたいし、「すごい」って言われたい。賞がほしい。悔しい！　羨ましい！　私だって！　と思うことばっかりだ。
でも、もう曇ったガラスの箱には籠らないんだ。

この数年で考えが変わったのは、打ち込むものを見つけたから。幸せってなんだっけと考える時間を、働くこと、暮らすこと、人に会うこと、書くこと、旅することで埋めた。
そしたら、幸せなんて見えないものを探す暇なんかなくなった。
ガラスの向こうの世界は、私が想像していた以上にいいところだった。

今、自分が幸せかどうかなんてわからない。
頑張っているなんて、お世辞にも言えないし、成功しているとも思えない。
ただ、自分の目の前に立ちはだかるものには、怖いけど受けて立つ、そんな覚悟がいつの間にか生まれていた。

みんな誰かに愛されている。
１００人いて１００人に愛されることは不可能だ。でも、１０人くらいは絶対自分を好きだと思ってくれている。人の愛し方はそれぞれで、自分の目には見えなかったりするけど、それでも信じてみよう。
その先はどうする？　愛してくれる１０人を大事にするのか、愛してくれない９０人を追いかけるのか。
私は９０人を追いかけていたから「幸せ」を感じられなかった。でも今は、１０人を大事にしたいし、報いたい。
余分はいらない。１００人に愛されたところでに全員に愛を返せない。１０人で十分。足るを知れ。

人に認められたいなら、まず人から受けた愛の数を数えよう。愛してくれる人に誠実でいよう。
傷つけられた数だけ数えるのはやめよう。

そして、幸せを忘れること。

ただ、当たり前に暮らすこと。

自分を必要以上に甘やかすでもなく、卑下するでもなく、ゼロの気持ちで淡々と暮らす。

これが結構難しい。
すぐに心に波風が立つし、時には嵐に見舞われる。言いたくないことを言ってしまって自己嫌悪に陥ることもしょっちゅうだし、傷つけることも、傷つけられることもある。
でも、そのとき「自分は幸せか」なんて己に問わずに、またリセットして歩き出せばいい。
努力したくなければしなくていい。でも、その時はちゃんと負けを認めよう。頑張りたいときは頑張ればいい。その時はちゃんと自分を労おう。
傷つけたときは反省し、傷ついたときは癒そう。
熱々のお鍋を大事な１０人と囲もう。
その繰り返しで、幸せとか、生きる意味とか考えないでも、パズルのピースみたいにちゃんと人生は埋まっていく。

幸せってなんだっけ？　
今、そう思える私は幸せだ。