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玄関にお菓子をひとつ

包み終わったお弁当を、玄関へ置く。
ついでに、あめやチョコレートも一つ、二つとお弁当のそばに。

ペコちゃんの棒付きキャンディ、塩飴、ピーナッツチョコ、ミニブラックサンダー、駄菓子、時には、お土産で頂いたおまんじゅうやクッキー。たまにはカロリーメイトなんかも。

玄関のドアがバタンと閉まる音がする。
二階の寝室の開け放した窓から、かすかな話声が聞こえてくる。
見ていたテレビを消して、そっと窓の外を見下ろすと、息子と友達が、お菓子の包みを開けながら談笑している姿が見えた。
さっき玄関に置いておいたお菓子たちだ。

学校の臨時休業で、しばらく見ないうちに、お友達がちょっと大人顔になっていた。うちの息子は……あまり変化がない。しいて言えば、髪型が美容院に通うようになって多少、今っぽくなった程度か。

毎朝、お弁当と一緒にお菓子を置くようになったのは、いつからだろう。
そうだ、娘が学校にお菓子を持っていくようになってからだ。
「お菓子ポーチ」と名付けた手のひらサイズのトイプードルの毛みたいにもこもこした巾着ポーチ。確かジュースか何かのおまけでもらった。
ポーチをつまみ上げながら娘が言う。
「ママ、こんなちっちゃい袋、かわいいけど使い道がないよ」
「学校におやつを持っていく袋にすれば?」
思い付きでそう言ってみたら、気に入ったようで、戸棚にしまってあるお菓子を、ぎゅうぎゅうに詰め込んで、学校に持っていくようになった。
お菓子ポーチは、女の子たちのおしゃべりに花を添えるいい小道具になっているらしい。

毎日、ポーチにお菓子を補充するせいで、我が家の戸棚は、小さなお菓子でいっぱいになった。そして、スーパーで小さなお菓子たちを買うのが、すっかり私の楽しみになった。

さて、このお菓子たち、娘だけじゃなく息子も楽しむ方法はないか。
小さなお菓子ポーチを持たせても、息子の、教科書を無造作に放り込んだ巨大なリュックサックの中で、お菓子たちは無残に粉々になるだろう。
それに、毎朝、誘いに来てくれる息子のお友達にも、何か我が家に寄ってくれる楽しみをあげたい。
そうか、毎朝、食べて行ってもらえばいいのか。

それから、弁当と一緒に玄関に2種類ほどのお菓子を置くようにしている。
男子高校生が玄関先で、小さなお菓子をパクついている姿は、ちょっとかわいい。息子の学校での姿を少し垣間見れるようでうれしかったりもする。
変わったお菓子を置いたときの、息子の反応も面白い。

息子も高校3年生。あと数か月で我が家を出ていくかもしれない。
お弁当とお菓子を、玄関から持っていく日もいつかはなくなる。
さみしいけれど、それでいい。子供が大きくなったっていう証拠。

「ああ、そういえば、高校のころ、毎朝玄関にオカンがお菓子を置いてくれてたな」って思い出してくれれば母は本望だ。

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