思い出の誕生日ケーキ
十数年前になるだろうか。
一時期、毎月友人たちと誕生会を開いていたことがある。
その月に誕生日を迎える友人を祝う会。
大人になると、特に家庭を持って子供ができてからは、子供たちにプレゼントすることはあっても、自分が誰かからプレゼントをもらうことから、とんと遠ざかってしまっていた。
友人たちも同じような気持ちだったのかもしれない。
毎回6、7人のメンバーが、毎月誕生日プレゼントを用意して、友人宅に集まった。
誕生会の料理は毎回いろいろで、たこ焼きパーティのときもあれば、冬なら鍋パーティ、持ちよりの時もあれば、ピザやケンタッキーのチキンを買ってくることもあった。
でも必ず用意するのは、誕生日ケーキ。
食事会の華はやっぱりデザートだもの。
誕生会の日程が決まると、事前に打ち合わせて、誰がケーキ調達担当かを決めておく。
担当になった人は、あらゆる情報網を駆使して有名店のケーキを調達してもいいし、腕によりをかけた手作りでもいい。自分の地元の知る人ぞ知る洋菓子店を紹介してもいい。
とにかく、人数分のケーキを用意するミッションを与えられる。
これが毎回とても楽しみだった。
プロ顔負けのロールケーキが出たり、みんなが一度は食べてみたい有名店のデコレーションケーキ、地域の人に愛される昔ながらの素朴なケーキ。
ケーキが箱から出されたときの、みんなの笑顔は、まるで宝石を見つめているように輝いていた。
「誕生日おめでとう!」
と言いながら、主役たちに一斉にプレゼントを渡す。
本当に楽しい時間だった。
何度目かの会を経て、10月、私の誕生月になった。
今回はどんなケーキが出てくるのだろう。
私は果物アレルギー。
柑橘類はもちろん、南方系の果物もだめ。食べると口がかゆくなって、胸やけが止まらなくなる。ひどい時は、じんましんがでることも。
唯一食べられるのは、イチゴ、ブドウとメロン・スイカといった瓜系のものだけ。
事前にそれをケーキ担当の友人に伝えてあるので、多分、イチゴだけのホールケーキか、チーズケーキあたりだろう。
私と同じ10月生まれの友人たちは、きっとフルーツたっぷりの豪華なケーキが食べたかっただろうに、私と同じ誕生月というだけで、毎回地味なケーキばかり食べさせられるのは、本当に気の毒で申し訳ないなあと思っていた。
食事を終え、いよいよケーキの登場。
出てきたのは、思いがけないものだった。
(当時の写真が見つからなかったのでイメージです)
モンブランのホールケーキだった。
20センチはあろうかという土台に、もりもりに盛られたマロンクリーム。
てっぺんにはピカピカのおおきな栗が載っていた。
まさに、山の最高峰、モンブランそのもの。
「フルーツがダメって聞いていたから、ケーキ屋さんに行って相談したんよ。そしたら、お店の人が『モンブランはどうか』と提案してくれて」
とのこと。
友人には言ってなかったけど、モンブランは大好物。
みんなで大きなモンブランを切り分ける。
「モンブランを切り分けるのも初めて!」
中には、白いクリームがたっぷり。切っても一人分がすごく大きい。
本当に美味しかった。
お店の人の粋なはからいで生まれた完全オーダーのモンブランのホールケーキ。何より、果物がダメな私のために、友人と洋菓子店の店主が何とかベストを尽くそうと一生懸命考えてくれたこと、あっと驚くサプライズを仕掛けてくれたことが何よりうれしかった。
この先どんなモンブランを食べてもあの時のモンブランを超えるものには多分一生出会えない。
猫野サラさんのモンブランのイラストを見て、ふと思い出した、昔のうれしいサプライズの話。
サラさん、ありがとう。
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