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映画「ウエスト・サイド・ストーリー」(2021)鑑賞後の雑な雑感

映画館で往年の名作のスピルバーグ監督のリメイク版をあまり予備知識なく見てきた。

最近、Netflixで「コブラ会」シリーズで、ハリウッドが昔のヒット作をじょうずに生かして、陳腐にならずに新しい息を吹き込んでくれてたのが楽しかったので期待はしていた。リメイクはともすればかなり残念なこともあるけれど、むかし親しんだかつての名作がどんな新しい解釈で生まれ変わってくるんだろうととても楽しみだった。

結論、2時間半、期待以上に楽しめた。

感想を書くというよりも、まったく勝手に、僕の妄想で、このリメイクがどうやって構想企画されたか、思いを馳せてみた。


架空の製作企画会議

スピルバーグは、会議にそろった面々を前に言った。

「今、我々が抱えている一番重たい問題はなんなんだろう?2021年の今、観てくれる人たちの心を揺さぶるテーマとはなんだろう?そこからスタートしてみたい」

ハリウッドの精鋭のクリエイター達の議論が始まる。

「では私から。わかりきった話だけど出発点としては、2つ挙げるとしたら、パンデミックと、米国社会の分断」

「パンデミックに疲弊した心には、やはり、また人々が、がやがや集って、大声で歌ったり、踊ったり、そんなのがいいだろうね。人間やっぱり、密に集って楽しむのが生きている証みたいな」

「となるとおのずと答えがでるね。ミュージカル。大自然というより大都会だな。建物のなかでのアクロバチックな踊りがあって。ジャズとかラテンとか強いビートのある」

「スマホ中毒の現実から心を解き放つには、デジタルじゃなくて、特殊効果じゃなくて、アナログだな。となると時代は情報革命前の時代」

「名作のリバイバル、リメイクを狙うとしたら、当時の主人公の俳優がまだ存命のぎりぎり1960年代以降かな。スターウォーズとかコブラ会みたいに当時の主人公をカメオ出演させたいな」

「米国社会の分断そして和解の模索というテーマではなにが思いつくだろう?」

「分断され、いがみ合い、水と油のように決して交われないような2つのグループの抗争の物語とか?」

「反発しあう同士、殴り合い、傷つけ合い、殺人も起こる悲劇、そしてどん底からの魂の救済。。。それも安易にすぐ仲良くなれるではだめで、突き落とされるような悲劇、みんなが結末を知っているような古典的な悲劇で、物語はその悲劇の結末へと突っ走る。でも、最後に一抹の救いがあるような話がいいな」

。。。それまで黙っていたスピルバーグが言う。

「それって、ウェストサイド物語じゃね?」

皆、大きくうなずく。

「NYを舞台にプエルトリコ系とポーランド系の若者ギャングの抗争事件を背景にロミオとジュリエットのプロットの愛のミュージカル。1961年のロバート・ワイズ監督作は名作中の名作だけど、実は、オレ、ひとつ不満におもってた点があったんだよね」

「プエルトリコ系のシャークの役者がさ、普通の白人で顔をドーランでちょっと浅黒くしたみたいので、スペイン語なまりもないんだよね。マリアもナタリー・ウッドだったしね。あれ、ちゃんとやりたいね。それに、アカデミー助演女優賞のアニータ役のリタ・モレナ、今年90才だけどこないだあったらお元気だったから出演交渉できるかもしれないな。よし!これで行こう!」

なんていう会話があったはずは全然ない。ちょっと調べたら、映画の企画はコロナ禍前の2018年頃から始まっていたようで、スピルバーグさんは昔からミュージカルをひとつ監督してみたかったということらしい。大御所らしく、20世紀のアメリカのミュージカルの最高峰といっていい、これをリメイクしてみたかったのでしょう。でもコロナ禍の最中に、よくぞ、あの超密で狭い体育館で歌い踊りまくるシーンを撮影してくれました。感動。

すべてが、とてもよかった。ずるいなあと思うのは、でてくる曲をこっちは知っているので、物語の進行とともに、TonightとかMariaとかSomewhereとかのメロディーがぐぐっとくる。金がかかっているセットは素晴らしい。臨場感がすごくある。50年代?のリンカーンセンターあたりの再開発前のブロードウェイから西の60丁目くらいのあたりが再現されていて、体育館でのダンスシーンも凄い。あの赤のブロードウェイ線の地下鉄とか、クロイスター寺院とか、絵になるなあ。大御所レナード・バンスタイン作曲の数々が、交響楽団の素晴らしい演奏で、ジャズありラテンビートありの名曲がていねいに再現されてるし、ダンスはさらに研ぎ澄まされた動きになっているような気がした。

そして、主人公マリアちゃんがやってくれました。唄まで、スペイン語・プエルトリコ訛りで歌ってくれた。とーない、とーない、いっおーびがんつーない、あいそーゆ、あんだわー、うぇんたうぇ。ぜーらー、ぷれいす、ふぉーらす、さむでー、あ、ぷれいす、ふぉーらす。文字では書き表せないけれど、boricuas(プエルトリコ人の俗称)ならではの巻き舌が可愛いアクセントながらも、ものすごい歌唱力の唄。

なんだか、コロナや、社会の分断の現実を吹き飛ばすような、名作のリメイクでした。

しかし、オリジナルもロミオとジュリエットのプロットだから、つくづく、シェイクスピアって凄いなあと思う。なにか人生というか社会の、普遍的でとても深いものを物語として残してくれている。 

あと、どうでもいい点だが、名曲Mariaの出だしの半音でつながるので、カムカムエブリバディの主題歌のイントロを思い出した。あの半音、いいな。■








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