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喪失感とどう向き合うか①

この仕事をしていると、大切な家族や友人を亡くされた方とお話をする機会があります。その喪失感の大きさは、僕の想像が及ばないところにあるのかもしれません。しかし、そういった方のカウンセリングをさせていただく機会がたびたびあり、その経験が何かの役に立てればなとも思うので、考えを書いてみることにしました。

大切な人を失った悲しみに対して、周囲にいる人は何か励ましたい気持ちになるかもしれません。しかし、相手の想いを考えると安易なことは言えず、言葉に詰まってしまうことがあります。はじめに断っておきたいのですが、心理士だからといって、こういう場面で心が軽くなるような気の利いたことが言えるわけではありません。多くの人が感じるのと全く同じで、悲しみの大きさに圧倒され、かける言葉が見つからず、話を聴くことしかできない場合もあります。

■ 悲嘆反応のプロセス

大切な人を失った方の心理的反応を悲嘆反応と言います。悲嘆反応に関しては学術的にも議論はされていて、どのような心理的過程を経て受容に至るのかが示されています。1つ例を出します。こちらはドイツの哲学者のAlfons Deekenさんが提示したモデルです。みんながこのプロセスで進むということではなく、あくまで一般論です。

 1.精神的打撃と麻痺状態
 2.否認(別れ、喪失を受け入れられない)
 3.パニック
 4.怒りと不当感(なぜ私が?)
 5.敵意とうらみ
 6.罪責感(後悔)
 7.空想形成ないし幻想
 8.孤独感と抑うつ
 9.精神的混乱と無関心
10.あきらめ→受容
11.新しい希望(ユーモアと笑いの再発見)
12.立ち直りの段階(新しいアイデンティティの誕生)

■ 受容を意識することで苦しさが生まれる

これ以外にも、いくつか心理的過程のモデルはあります。それらのモデルに共通するのは、最後には「受容」が位置付けられているところです。このようなプロセスを知らなくても、最終的には受け入れることができたら良いと思っている方は多いですし、本人も受け入れなくちゃと思っている場合が多いです。そして、そこが苦しさを生む一つのポイントにもなっています。

■ 1つ1つのプロセスを進めるのではなく、否定しない

そもそも感情というのは、どれも不必要には生まれません。大切な人が亡くなったのですから、当然、拒絶したい気持ちにもなりますし、落ち込みもします。不条理さに怒りを覚えることもあります。どれも必要があって出てきます。しかし、「受容するのが良いこと」という認識があると、それ以前の状態に留まることがいけないことのように感じる場合があります。そうすると、本来、必要があって生じている感情は押し込められ、そのことによって気持ちの収まりはかえって悪くなってしまうのです。

つまり、現実を受け入れられない時にはちゃんと拒絶する。怒りを感じる時にはちゃんと怒るということが大切なのです。どのようなプロセスを辿るかは個人差がありますし、されほど重要ではありません。それよりも、今、自分に生じている感情を否定せずに、肯定すること。これが最も重要なところだと思うのです。

今、まさに苦しい状態で、受容なんかとても考えられない、と思っている方もいるかもしれません。そんな方は、受容を目指す必要はないです。けれど、今、生じている気持ちをちゃんと肯定すると、自然と別の心境になっていくことはあります。


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