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梨があるところがいちばん安全です


 ダウンジャケットの潰れたフードが なんだか可愛くみえた 新幹線の2人席と3人席の間 まんまるの坊主頭を 100キロはありそうな大きな体にくっつけて 見かけよりも速いスピードで進んでいく その知らない後ろ姿を見送りながら 内心では 他人のフードを思考に入れる余裕があるのかと 余裕があると認識すると なんだか全部大丈夫な気がした

_______いつまで保つだろうか 次に不安が押し寄せてくるのは いつだろうか。
 好きな本に 又吉の「劇場」があるけれど その中の台詞を思い出す 怖いことも難しいことも多いような毎日が これからずっと続くのかと絶望する夜が 月に1、2回 生理より多い頻度でやってくる そのこと自体に嫌気が差すこともあれば 嫌気が差さる隙間もないくらい 不安でいっぱいになる時もある

 ある時は決めるのが怖かった やりたいことを達成するための目標が できなかったときの後悔を大きくするもののような気がして 決めるのが怖かった 決めるのが怖いから あまり考えないように 明確にならないようにしていた気がする

 ある時は変えるのが難しかった 気温や天気によって 1日単位でインナーやアウターを調節するとか 歯ブラシを替えるタイミングとか お風呂とご飯の順番を逆にしてみるとか 生活の中の応用が効かないタイプだった
 同じくらい変わるのも難しかった いつまでも子供のような気がして ひとりで外出するのが怖かった 自分には ひとりの人間としての輪郭みたいなものが 無いように思えた


_______ほんとに、今までよく生きてこられたね。
 サキちゃんに そう言われている気がした

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