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猫って、世界でいちばん可愛い形してるんですよ

 コインパーキングの縁石に沿うように、完全にカラダの力を抜き切った形をしているそれを見つけて、彼女が言った。初めて聞いたときは、分からないなりに、ただすごく猫が好きなんだということだけは分かって、無難な返事をした。

「確かに、可愛いね」

 猫は飼ったこともなければ、まともに触ったのもいつだか覚えていない。意識の差なのか、猫を見つけるのが異常に早い彼女は、飲み会帰りに駅から家まで歩く道で、その可愛い形を見つけるたび得意げに教えてくれた。そこから始まる実家の猫のエピソードはもう何度も聞いたけれど、分かっているのかいないのか、最終的にオチは5パターンくらいしかなかった。

「やっぱり、将来2匹は欲しいんですよ」
 1匹じゃ可哀想だから、と。これも5パターンのうちのひとつ。食べ物の名前を付けると長生きするらしいと、だいたい2匹セットの名前を考える流れ、暫定1位はうどんとそばだ。
「タンとカルビとか」
「あ〜〜それかわいい!けどそれ牛だもんな〜〜やっぱうどんとそばですかね?」
 今日もうどんとそばが勝ったみたいだった。

「じゃあ、コンビニ寄ってくから」
 彼女の家から100メートルほど離れたところのコンビニで一服してから、自分の家に帰るまでがルーティーンだった。彼女の家の前まで送らないのはせめてもの意地、と言ってもそんなのが彼女に効くとは思えないけれど、帰ってからも彼氏にまだ見ぬ猫の話を続けるであろう背中を見送りながら、頭ではうどんとそばを超える名前を考えていた。

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