見出し画像

川俣碧は増殖する

僕と川俣碧は、高校の同級生だった。同じ文芸部に入っていた。彼女は小説のアイデアが思いつくと、体から赤ちゃんが分裂する体質だった。その赤ちゃんにペンを持たせると、小説を書き始め、書き進めるにつれて成長し、書き終わると川俣碧になる。
こうして川俣碧は増殖した。
幸い、部室は無限に広かった(もちろん、実際に測ることは出来ないが、小説で無限と書いてあったら無限である)ので部屋がいっぱいになることは無かった。
彼女は、今でも部室で増殖しているらしい。そして、服が不足しているらしい。
僕は、様子を見にいくことにした。
部室に入る。懐かしい。机と床に書いてある文字は彼女の居た痕跡だ。それを頼りに進んでいく。1km程歩くと一人の裸の女性が見えた。大人びた雰囲気の8頭身の女性。川俣碧は、4頭身だ。しかし、この姿を僕は知っている。
「合体したんだね。」
「合体ではない。弁証法的統一だよ。」
彼女はこちらを見ずにそう答える。
「裸、見られてもいいの。」
「今の私にとって人間など虫も同然。君は、虫に裸を見られるのを気にするかね。」
そうですか、と言いながら、僕は彼女の胸を触る。彼女は顔を赤らめ、20人程に分裂する。
「な…なにをする!!」
彼女は、こちらを睨む。
僕は笑いながら言った。
「よう、久しぶり。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?