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究極の小説「  」

「これが究極の小説だよ。」
彼は、真っ白な画面を見せてくる。
「何も書かないのが究極の小説ということですか。」
「違う。」
彼に即座に否定され、私は考える。
「・・・Whitespaceですか。」
「そうだ。」
Whitespace——空白のみで構成されるプログラミング言語。一見すると何も書いていないように見える。
「だとすると、どんなコードが書かれているんですか。」
「低エントロピー文字列生成だ。」
「低エントロピー文字列生成?」
「うん。エントロピーとは『乱雑さ』の度合いだ。」
「『乱雑さ』?」
「例えば、ポーカーでフルハウスとノーペア、どっちが『乱雑さ』が大きいかな?」
「ノーペアですか?」
「そうだ。つまりノーペアは、エントロピーが高くて、フルハウスは・・?」
「低い。」
「正解。そして、それを文字列に当てはめる。言語には、文法規則がある。だから、ランダムな文字列よりエントロピーは・・・?」
「低い。」
「正解。そして、このコードは、文法規則では無く、文字や記号に確率的な規則を与える。これは、言語ではない。しかし、統計処理をすると、まるで言語かのような結果がでる。」
「つまり、言語と区別がつかないということですか。」
「そうだ。しかし、完璧ではない。言語と区別する方法はまだまだあるだろう。私達の目標は、絶対に区別がつかないものを作ることだ。」
「それが、究極の小説であると?」
「そうだ。意味は無い。しかし、意味が無いということも決して証明出来ない。だから、あらゆる意味を持ち得る。」
パソコン部に入るか、と、彼は訊いてくる。
「入ります。」
そう、私は答えた。

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