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アクセサリー屋さん、はじめました
2017年。
ちょうど4年前、わたしは社会人になった。
医療系の機械を作る会社で、研究補助の仕事だった。
コロナで有名になったPCR検査を担当し、日常生活なら誤差としか言いようがない小さな小さな単位の、小さな小さな数値の違いを毎日検討した。
言われた仕事を言われたとおりに正確にこなすことが重要で、わたしはそれが得意なようだったし、「仕事が早い」と褒められた。
もくもくと手を動かしていれば、きちんと毎日出勤していれば、月末にお給料が振り込まれた。
仕事でどんなに細かい作業をしても、まだ手を動かし足りないのか、休日にアクセサリーのリメイクを始めた。学生時代に集めていたピアスが膨大で、使ってない物がもったいないなあと思ったからだ。パーツを分解して、新しいピアスに作り替えた。
今となっては手を動かし足りなかったのではなく、頭を使いたかったのかもしれないと思う。アクセサリーのリメイクは、右から左の仕事とは違って、道なき道を開拓する作業だった。
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社会人1年目が終わろうとしていた3月、転職活動を始めた。心のどこかで憧れがあったライター職に、どうしても挑戦したくなったからだ。
誰かに見せるための文章は、学生時代の作文で書いたくらい。そんな自分にやりたいという気持ちだけでライターが勤まるのか、自信がなかったので、記事提出が必須になっている会社をとりあえず受けるだけ受けてみようと思った。
内定をもらったとき、不安はあってもなんとかやっていけるかもしれない、と喜びに満ちた。
一口にライターと言っても、種類は色々ある。
わたしはそれを分かっていなかった。とりあえず「ライター」という枠に飛び込みさえすれば、力がついたその先で、自分の書きたい記事が見つかるはずだし、そうしたらその記事が書ける会社に転職すればいい、と思っていたのだ。
内省的な性格も相まってか、記事を書けば書くほど、深い深い海の底に潜っていくような日々だった。
質より量を求められた。同時期に入社した彼女は、テンポよく記事をアップしていった。それは、誤字がとても多かった。それでもウェブの記事ならば、アップした後に修正が可能だ。
「とにかくたくさん記事を書けば、そのうち上手くなるから」
わたしにはそれができなくて、誤字はないだろうか、嘘の情報を書いてはいないか、細かいチェックポイントが自分の中で増えていくばかり。量をこなすことがストレスだった。
不眠症になって、仕事を辞めた。
憧れのライターという肩書を手にして、5か月だった。
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書く記事の内容が合っていなかったのか、社風が合っていなかったのか、そもそもライターが向いていないのか、原因が分からなかった。だから、ライターで転職しようとしても、面接でうまく答えられずに落ちた。
自分でもライターを続けたいのか自信が持てず、でも生活費は必要だったので、原因が特定できるまで、医療系の仕事に戻って繋ぐことにした。
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最悪な職場だった。
仕事内容が最悪だったのではない。最悪だったのは、職場で一番偉い人がありとあらゆるハラスメント行為を、ハラスメント行為だと認識していなかったことだ。
ぎりぎりの人数で自転車操業している職場だったので、後任を育てて辞めることが暗黙の了解になっていた。にもかかわらず、わたしの後任となる人をなかなか採用してくれず、辞める意思表示をしてから音沙汰なく3か月が経った。
そのうちにコロナの影響もあり、経営が悪化して、後任は募集しないと言われた。しかしそれでは現場が破綻することは明らか。偉い人にどうにか募集してもらえないかと交渉しに行ったところ、話が全く通じなくて、心が折れた。
「君が人を雇えと言ったせいで、ここが潰れたら、責任取れるの?」
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ほとほと会社に属することが怖くなってしまった。
新卒で入った会社を1年ほどで辞め、憧れのライター職に就けば5か月で不眠症になり、できることをしながら将来について考えようと思っていたら、ハラスメントの教科書を片っ端から実践しているかのような上司に捕まる。
何もかもが嫌になり、生きる気力がなかったので、しばらくニートをしようと決めた。ニートをすると決めないと、焦って転職活動をしてしまうことは目に見えていたので、「何もしないをする」堂々と周りに宣言して、外堀を埋めた。
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縁あって、海のすぐそばの町で3か月を過ごした。
今まで出会わなかった人に出会って、今まで言われたことのない言葉をもらった町だった。
「何もしないっていうのは、そういうことじゃないっすよ」
だらけることを心掛けて生活していたのにそう言われて、やっぱり少し心当たりがあって、ちょっと笑った。何もしないをするのは、わたしには難しいみたいだった。せかせかと掃除をして、もくもくと料理をして、読書をして、アクセサリーを作っていた。
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先日、アクセサリー屋さんをオープンした。
わたしの肩書はニートから自営業の卵になった。
準備している間、簡単に売れるわけないとか、そもそも世間に知られないまま消えていくんだとか、友達に報告するのがちょっと恥ずかしいとか、考えて、考えたけど、それでも手を止めなかったのは、何もしないが苦手なわたしの長所なのかもしれない。
できあがったアクセサリーがかわいくて、同じようにかわいいと思ってくれるだれかがどこかにいるなら、会いたい。
簡単に売れるわけはないし、世間に知られないまま消えていくかもしれないし、友達に報告するのはやっぱりちょっと恥ずかしいけど、細々と続けていくことだけはできる気がする。会いたいあなたに会えるまでは。
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オープンして1週間、初めての発送を無事に終えました。
宛名と中身が一致しているか、注文と商品を間違えていないか、封をしたとたんに不安が押し寄せる。そんな経験もはじめてのこと。
購入いただいた皆さまにとって、とっておきのアクサセリーのひとつになりますように。自分の手から離れてしまえば、そう願うことしかできなくて、実は儚いお仕事なのかもしれない。
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語彙力がなくて不甲斐ないのですが、とってもかわいいです。
少しだけ、覗いてもらえたら嬉しいです。
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