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「死にたい夜にかぎって」にかぎって

■キミはもう読んだか。爪切男という異彩を放つ異才を



ネット上で「野良の異才」と言われている爪切男さん原作のドラマ『死にたい夜にかぎって』の放送が終わった。




なんだろうか、この見終わった後のさわやかさ。観終わった後の切なさ、脱力感が半端ない。

今なら期間限定でネットでも見られるので見ていない方はこの機会にぜひ見ていただきたい。そこに不器用なもの同士の純粋な愛情劇があるから。

流行りのドラマは嫌いだった。

イケメンと美女(このドラマに出ているのもそうだが)が「そんなことねえだろ」ってツッコミたくなるような都合の良い展開で好きだの嫌いだの言ったり泣いたり叫んだり、「闇の仕事しなきゃそんな部屋住めないだろ」ってツッコミたくなるような生活をしていたり・・・

そこはホラ、ドラマだから・・・

ではない、リアルな世界がそこにはあった。


主人公の浩史の『そうじゃないだろ!』行動の連続


人間ある程度年齢を重ねてくると、たとえば風呂に入っていたり、布団に入っていて急に昔のことを思い出し

ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!

と叫びたくなる夜もある。


なんであのとき、あんなこと言ってしまったんだろう

なんであのとき、一緒に行ってあげなかったんだろう

なんであのとき、話を聞いてあげなかったんだろう

なんで、なんで、なんで・・・

なんでが連続して、なんでがなんでを呼ぶ夜。


その自分にも身に染みて分かる『なんで』が原作にもドラマにもよく現れていてリアルなんだよね。初体験のくだりなんて、相手の胸や肌の質感まで紙面から伝わってくるようで年甲斐もなくドキドキしたものなあ。


■涙なくして観られないラスト


一緒に住んでいた彼女であるアスカを見送る駅のホーム。もちろん涙は見せまい!って必死に頑張るんだけど結局は泣いてしまう主人公浩史。もうね、切なくて仕方がないのよ。感情移入が半端なくて。


あの忘れられない3.11 東日本大震災のあと、アスカは浩史に唐突に別れようと告げる。


その辺から過去の自分とダブらせて見ていた


自分もそうだった。7年か8年ぐらいだったろうか。今となってはどうでもいいが一緒に住んでいた女性から別れようと告げられた。そのときの自分の心境と、原作、ドラマの浩史の心境とダブってしまうのだ。自分が悪かったのだろうし、別れようといわれて「なんで?」って思っている時点で女性からはもうアウト!なのだろう。


駅から3分ほどの中古マンション。結婚前提で、2人でお金を併せて購入し、非常に快適な生活を満喫していた中での青天の霹靂だった。「早くマンションを売りましょう」と毎日言われた。

不動産屋に一緒に行き、売却のための契約書を書き、そして内見のときは接客も行った。そのときには彼女はあまり家に帰ってこなかった。

自分はここを終の棲家にするつもりだったのに、誰だか分からないやつが自分の家をジロジロとデリカシーのない目でどんどん見ていく。自分の意思では抗いようのない波に翻弄されている気分。怒り、悲しさ、空しさ。


終の棲家にするつもりだったマンションの買い手は割と早く決まった。たぶん売り出してから2ヶ月かかってないかと思う。相手は大学教授だった。売却が決まり退去する日も決まり、それまでに引っ越しの準備をするために荷物をまとめている間も、新たな『主』はやってきて、リフォーム業者と色々とああしたいこうしたいと打ち合わせをしていく。初めは「どうもお邪魔いたします」なんて愛想も良かったが、最後の方は挨拶も何もなくひたすら業者としゃべるだけで、たまに『なんだまだいたのかコイツ』みたいな目でジロリと見るだけだった。


悔しかった。

たぶん、生きているうちでかなり上位にランクインするだろう。


売却の契約がまとまりマンションはもうその人の持ち物になったのだから、何ら文句のつけようもないのだけど、彼女といい、その大学教授といい

あからさますぎだろ・・・

と。

2人の間に終わりが近づく頃、急によそよそしくなった。


まるで『死にたい夜にかぎって』で、別れたけど行くとこないからまだこの部屋に住ませてください、とアスカから言われたように。

一緒に寝ることがなくなり、ときに風呂上りに裸で歩くこともあったのが、トイレやお風呂は見られないように厳重にカギをかけられた。別にのぞきにいっていたわけではないが過剰に警戒されている感はビンビンに伝わってきていた。食事も別々に食べるようになった。


そして、「別れましょう」からの終の棲家の売却。


あのときの切なさ、悲しさ、空しさ、やるせなさが一気に蘇って泣けて仕方なかった。さんには申し訳ないけども、ああ、こんな思いをした男は俺だけじゃなかったんだ、とも思った。だからこそ余計にこの作品を見ている間は自分の中でも大事な時間だったんだよね。


ちなみに、それから1年ぐらい経ったころだろうか。

その彼女からメールが。


赤ちゃんを出産した、と。


は?

頭の中が真っ白になった。意味がまったく分からなかった。こっちは泣く泣く別れて、終の棲家売って、そのときのことが忘れられなくて未だに一人でメソメソしているというのに。


つまり、好きな男が出来たから別れよう、そして2人の持ち物であるマンションを売りましょう、ということになったと。

「相手の人いたの?」

ブルブルと震える手でメールするとすぐに返信が。

『相手とは付き合っていない。ダメ人間だから。私は赤ちゃんと2人して毎日泣いてる』

え?え?えっ

いや、泣きたいのはこっちなんだが。

なぜ今になってそんなことをいうんだよ。俺がどれだけお前を忘れようと毎日努力したのか。何よりも俺はその「ダメ人間」以下ってことなのか。

『赤ちゃんを一緒に育ててほしい』

絶望しかなかった。また会いたかったというか、よりを戻したかったのは事実だけどまさかこういう形で一緒になりたいと言われるとは。

赤ちゃん?人間ですよ?

猫とか犬だって責任もって育てていかねきゃならないのに、何も血もつながっていない子どもを俺が育て・・・る?

そんなことがあってたまるか。


ドラマでは新幹線に乗るアスカを見送って終わっているが、原作では幸せになったアスカのことも書かれていて読んでいて本当に救われる思いだった。そして主人公である爪切男さんについては今さら言うまでもない。今乗りに乗っていて今後ますます活躍が約束されているであろう才能あふれる作家として、その姿を見られるのはこの上ない喜びです。

素晴らしい作品をありがとうございました。落ち着いたらマズイもの食べに行くのぜひご一緒させてください。




この主題歌もよかったなあ。歌の余韻からドラマが始まるのが素晴らしくて・・・




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