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高還元モデルの限界?話題の還元率を下げる問題について。

はじめに

最近、還元率を下げた新SES企業が話題になっています。『還元率競争に終止符を』とYouTubeやnoteで高還元モデルの限界を呼びかけたため、高還元モデルのイメージが悪影響を受けています。

そもそも、高還元モデルが「儲からない」のは誰の目にも明らかです。しかし、「儲からない」けど「やる理由」は、それが社会に必要だからです。

前回のブログの記事でも書きましたが、「儲からないビジネスモデル」を還元率を「水増し」して「儲かるビジネスモデル」に変えたのは、今回終止符を呼びかけた第2世代の新SES企業自身です

私は今回のYouTubeやnoteを拝見し、還元率の水増しのカラクリが社会にめくられ、本来の儲からないビジネスモデルに戻ったため、もうこれ以上還元率競争はやめようと呼びかけているようにしか思えませんでした。

リツアンは高還元モデルで、創業から今日まで17年もやっています。いまも、むかしも変わらず同じ給与還元率です。

その還元率にさまざまな経費を水増しして競争を仕掛けてきたのは、後発の新SES企業です。

これまで水増し還元率で甘い汁を吸い、いざ儲からなくなると手のひらを返し「高還元モデルは利益が薄く、不況になったら企業は存続できないから危ない」との主張に当社は非常に迷惑をしております。しかし、これも熾烈なビジネス戦争ではよくあることなので、仕方ないことと受け入れています。

高還元モデルが儲からないことは、私たちは設立当時から理解していました。利益が薄い中で、どう持続的に成長していけるか、さまざまな施策を試してきました。それをしてきたのは、高還元モデルが社会に必要であると、私たちが固く信じていたからです。

これまでとこれからのリツアンの取り組みについて書いてみました。


過去の不況体験

リツアンは、これまで3度の大きな経済危機を経験しました。

・リーマン・ショック(2008年)
・東日本大震災(2011年)
・コロナ不況(2020年)

しかし、このような不況においても、リツアンは事業を拡大することができました。

その理由は、①商流が浅い、②経験者採用、③給与還元率が高いの3つの点があげられます。

派遣やSESで従事するエンジニアが、不景気と聞くと真っ先に思い浮かべるのはリーマンショック時の「派遣切り」です。ただ、この派遣切りの主な対象者は、製造業の工場労働者派遣に従事していた方です。製造業は輸出の急減や需要の低下に直面し、多くの企業が生産調整を余儀なくされました。この状況により、製造工場で働く派遣社員が契約終了になる、いわゆる「派遣切り」が多発しました。一方で、企業は不況時でも技術開発の手を止めません。その理由は、市場競争力の維持と景気回復時の成長の機会を逃さないためです。

この前提を踏まえた上で、不況になった場合、契約が優先的に切られていくのは商流が深い下請け企業からです。また、経験が浅いエンジニアから契約が終了する傾向にあります(捕捉1)。企業は経験豊富なエンジニアの契約を最後まで維持しようと努めます。理由は、これまでエンジニア採用に散々苦労してきた経験があるからです。

また、不景気の際には、技術派遣会社やSES企業に対して単価の見直しを要求することがあります。これは、企業が経験豊富なエンジニアを手放したくない一方で、予算を確保できない場合に取られる措置です。具体的には、現在の単価から10%前後の減額を求めることがあります。たとえば、現在の単価が100万円であれば、90万円に減額することになります。

人材業界に詳しいクライアント担当者は、この単価の減額がエンジニアの給与にどのように影響するかを理解しています。単価評価制度で働くエンジニアの場合、単価が減額されると給与(賞与なども含む)も減額されます。エンジニアの中には、給与減額についてクライアントへ相談する人も出てきます。そんな時、クライアント担当者はリツアンへの転籍を勧めることがあります。

一般的なIT派遣の給与還元率は平均して61.4%です。つまり、単価が100万円の場合、エンジニアの給与は61万4千円です。一方、リツアンの給与還元率は在籍3年目まででも68%と高い水準です。不況時に単価が10%減少して90万円になった場合でも、リツアンの還元率68%を適用すれば、給与は61万2千円となり、通常時のIT派遣の平均給与と同等です。このため、クライアント担当者はエンジニアに対してリツアンへの転籍を勧めます。実際に、東日本大震災やコロナ不況の際には、リツアンへの転籍者が増え、規模拡大に貢献しました。

リツアンが不況時でも規模を拡大できたのは、エンドユーザー、元請けなどの大手クライアントを営業開拓できたこと、未経験者や微経験者ではなく経験者を中心に採用してきたこと、高い給与還元率で運営してきたこと、の3つがあげられます。これらの要素はどれか一つでも欠けてはならず、3つがバランスよく維持されることが重要です。商流が深ければ契約が切られ、未経験者や微経験者ばかりですと待機社員が急増し、給与還元率が低ければ不況時の売上拡大は見込めません。

待機

リツアンは不況に逆に有利でした。ただ、これは会社全体の話であり、エンジニア社員個々に目を向けると、不況時に「待機」が発生する可能性は避けられません。エンジニア社員のひとりひとりにとっては、会社の成長よりも、こちらの「可能性」のほうが重要です。この待機発生の可能性を軽減するために、これから新しい仕組みを導入します。ただし、この仕組みについては会社の成長戦略のひとつですので、公の場での議論は行わず、社内のSlackチャンネルを通じてエンジニア社員と共有します。

ただ、明確に言えることは、会社の売上や利益を優先してむやみに人材を採用すると、待機期間の発生リスクが高まり、不況に対して脆弱な基盤を作ることになるということです。そのため、今後の「一般採用」では、現在以上に採用基準を厳格化する方針です。一方で、エンジニア社員の『目利き』を活かした「リファラル採用」は強化していきます。

待機保証

「新しい仕組み」と「一般採用の厳格化」により、待機発生のリスクは軽減されます。これにより現在の「待機保証60%」を平均賃金を基準としたものから、月給を基準としたものに変えます(厳密に言えば戻します)。

リツアンの現在の待機保証は「平均賃金」の6割です。平均賃金とは、過去3ヶ月間に支払われた総賃金を、その期間の日数(カレンダー日数)で割って計算します。これには基本給、家族手当、通勤手当、残業代などが含まれますが、臨時の支払い(退職金など)や3ヶ月を超える支払い(ボーナスなど)は除外されます。簡単に言うと、3ヶ月間の給料の合計をその間の日数で割ったものです。

これを今後は、「単価×68%」×60%に変更いたします。つまり、月給の実質6割を待機保証として改訂いたします。時期に関しては未定ですが、遅くとも2025年1月までには導入致します。社内Slackでエンジニア同士の交流・連携が深まれば、個人的には今日からでも導入してもいいと思っています。

待機の現状

待機社員の現状については、毎月平均して10名~15名のエンジニア社員が待機状態となっています。待機の主な原因は、クライアントの締め日によるものです。例えば、20日締めのクライアントで働いていたエンジニア社員が、次の月末締めの新しいクライアントで勤務を開始するまでの間、待機となります。その他のケースでは、基本的に2ヶ月以内に次の案件を決めることを目標としていますが、イレギュラーな事情で待機期間が長引くこともあります。また、当社の営業力の不足により、希望に適した案件を紹介できなかった事例も存在します。

※リツアンでは「シフト」を積極的に推進しています。シフトを進めると一定数の参画前待機が発生することは避けられません。ちなみに、シフトとは常駐先(クライアント)の変更を意味します。シフトのメリットは、エンジニアのスキルや経験が再評価され、単価の向上につながる点です。もちろん、シフトを希望しないエンジニアも多いため、シフトするかどうかは各自の自由意志に委ねています。

稼働率の計算方法は、各社で異なるため具体的な割合の公表は控えます。異なる計算基準に基づく稼働率の公表は「誤解を招く」恐れがあるためです。従業員数900名に対して10名~15名が待機社員であるという情報提供で十分だと考えています。ちなみに、待機社員の人数は、前期の従業員数が800名であった際も同じく10名~15名でした。これは、クライアントの新規開拓などの営業成果によるものと認識しています。

採用についての私たちの考え

待機に関しては、意見が分かれます。
①待機保証が手厚いから安心して働けると考えるエンジニアもいれば
②他のエンジニアの待機費用に自分のマージンが使われるなら、自分の給与に還元してほしいと考えるエンジニアもいます
当然、両意見のバランスを重視する方もいます。

どの意見を重視するかは企業の方針であり、それを選ぶのはエンジニア自身です。ただ、リツアンは②の意見を採用しています。これは、②の意見のほうがエンジニア社員の市場価値を直接反映できると考えているからです。

また、①の意見を選ぶのは未経験者や微経験者が多く、②の意見を選ぶのは経験者が多い傾向があります。

先ほども申しました通り、リツアンは今後一般採用の基準を厳格化します。一般採用とは、当社のエンジニア社員からの紹介、つまりリファラル以外の応募を指します。ホームページやLPからのエントリーがこれに当たります。

リツアンがリファラル採用を重視しているのは、エンジニア社員の「目利き」を評価しているからです。表現は不適切かもしれませんが、便宜的に言えば、採用には「実際に使ってみなければわからない」というギャンブル的な要素が多く含まれています。プロの面接官であっても、数回の面接だけで応募者の人柄や能力の核心を見抜くことは困難です。

この点、リファラル採用は、エンジニア社員によるフィルターを通るため経歴書に書かれている実力が本物かどうかを詳しくチェックすることができます。また、リファラル候補者が同じ職場で働いている同僚であれば、能力だけでなく人柄もよく知っているため、より信頼性の高い判断が可能です。

私個人の考えでは、セルフプロモーションが上手な人を誤って採用することで、彼らが頻繁に待機状態になり、その待機費用を賄うために他のエンジニア社員の給与還元が圧迫されるような事態は避けたいと考えています。②の意見を採用しているにもかかわらず、それでは逆方向に向かってしまいます。

つまり、「拡大を図るが、むやみに採用はしない」というのがリツアンの基本方針です。

未経験者や微経験者に対する新しいサービス

リツアンは経験者を中心に採用しており、むやみに採用を拡大しない方針を述べましたが、現在も、これまでも、未経験者や微経験者からの多くの問い合わせをいただいております。未経験者や微経験者は基本的には採用を見送らせていただいておりますが、「せっかくリツアンを選んでいただいたのに申し訳ない」という思いは、内勤社員一人ひとりが共通して感じていることです。

そこで、来期(9月)から「キャリアリターン採用(仮称)」を導入する予定です。この制度は、経験不足を理由に見送りとなった未経験者や微経験者が、数年後に再応募する際に特例措置で採用する仕組みです。具体的には、プロ契約の起算日を最初のエントリー日とします(「さよならマージン」は変わらず10年の在籍後、11年目から適用されます)。

例えば、2024年1月に初めて応募し、不採用だった方が3年間の経験を積んで2027年1月に再度応募し、採用された場合、通常であればプロ契は入社後3年経過した4年目から適用されますが、この特例では入社直後からプロ契を適用します。初回エントリーから2年後に採用された場合は、入社から1年間は給与還元率68%で働き、2年目からプロ契に移行することになります。

リツアンの給与の魅力はプロ契にあります。入社後3年間の給与還元率は68%(交通費別)ですが、プロ契の還元率はさらに高く80.8%で、20代でも年収750万円以上を目指せます。詳細は、当社のホームページや給与シミュレーションをご参照ください。

キャリアリターン採用を導入することで、これまで未経験者や微経験者の方に対して表面上は「採用を見送り」といいつつも、実際は「不採用で断る」というネガティブな行為が、名実ともに「再会を誓う」という前向きな行為に変わります。採用担当の内勤社員の精神的負担も軽減され、応募者に再挑戦を促すことで、お互いの建設的な関係がつづきます。

Terakoya tech2.0を始動

昨年(2023年)11月に「Terakoya tech」を主催しました。これは、外部機関の協力のもと、未経験者や微経験者向けのエンジニア養成無料プログラムで、AWSとFlutterの2コースを提供しました。実際に受講した約30名からの評価は高く、強い手ごたえと、本プログラムの意義を実感できました。

今後はこのプログラムを一部内製化し(引き続き外部機関とも連携し)教育の機会を提供します。具体的には、名称を「Terakoya tech 2.0」と変更し、未経験者や微経験者で採用が見送りになった方を対象に無料で学習の機会を提供します。

実は、Terakoya tech2.0はすでに試験的に開始されており、現在はJavaコースが進行中で、近日中にAWSコースが開講予定です。今後の学習プログラムは、エンジニア社員と相談しながら、科目数やコースの種類(初級、中級、応用)を増やしていきます。

また、このTerakoya tech2.0の他に社内教育プログラムの充実を図っていきます。

社内教育プログラムの開放

リツアンの周りには優秀な研究者が多数います。その理由は、東京オフィスが通称「KOMAD」と呼ばれ、東京大学の研究者や学生が自由に出ていること、そして京都オフィスは通称「BoCS」と呼ばれ、京都大学の研究者や学生が同様に出ていることにあります。 彼ら(彼女ら)はリツアンオフィスの空きスペースを活用して、日中は自習をし、夜間は教授を招いてゼミなどを開催しています。

特に、KOMADの歴史は古く開設して8年がたちます。当時「〇〇を勉強しています!」と語っていた彼らは、現在ではその分野の先端を歩む研究者に成長しています。リツアン社内教育プログラムは、その彼らの協力のもと実施します。

8月後半に予定しているのはAIの専門家を招いた「リツアンAI研修」です。AIに関しては、IT、機械、電気、通信などの分野を問わず、多くのエンジニア社員が関心を持っているため、第一弾目の社内教育プログラムをAIに選びました。具体的な研修内容については、これから精度を高めていく予定ですが、AI研修は一過性のものとせず数年間継続的に実施していきます。他の分野における研修については、エンジニア社員からの意見を聞き、それぞれの分野の専門家を招いて実施していく予定です。(もちろん研修は参加自由の任意研修です)

この社内教育プログラムに、採用を見送りになった未経験者や微経験者の方々もご招待する予定です。研修は参加しやすいオンラインで開催し、「学びの機会」を社内だけに留めるのではなく、多くの方と共有することで、「出入り自由な開かれた会社」という当社のミッションを実現していきます。

未経験者や微経験者の方へ

これまで述べた通り、リツアンは一般採用の基準をさらに厳格化します。そのため、未経験者や微経験者の方々には、直接ホームページやランディングページからエントリーするのではなく、まずはリツアンのエンジニア社員と連絡を取ってみることをお勧めします。X(旧:Twitter)のDMやブログの問い合わせフォームを通じて、彼らとは気軽にコンタクトが取れるはずです。

リツアンの実態(リアルな話)やエンジニアとしてのキャリアについて、彼らと相談してみてください。私たち内勤社員は、会社のポジティブな面を強調したり、採用目標を達成するために、時に執拗に勧誘してしまうことがあります。しかし、エンジニア社員なら、同じエンジニアとしての立場から、応募者にとってより公平で客観的な意見を提供することができます。

エンジニア社員との会話を通じて「もう少し経験を積む必要があるね」という結論に至った場合、即日採用とはなりませんが、Terakoya tech2.0や社内教育プログラムへの無償招待など、教育の機会を提供して皆さまの成長を支援します。そして、エンジニアとしての経験を積んだ後に再エントリーして頂ければ、「キャリアリターン採用」という特例措置を用意し、最大限の給与評価で皆さまをお迎えします。

※リツアンに興味がある方がいれば、一度エンジニア社員に話を聞くだけでもお勧めします。話を聞いた上でエントリーすれば、その日を起算日として登録し、将来入社する際に有利(プロ契以降が早まる)に働きます。

補足)一部の方から「リツアンは経験者だけを採用して、未経験者や微経験者の育成を放棄しているのか?」とのご指摘を頂きましたので、お詫びと補足説明のブログを掲載いたしました。簡単に要約いたしますと、リツアンは未経験者や微経験者の方の教育に関しては積極的に推進しています。ただ、採用に関しては行っていますが、慎重に進めています。未経験者が「未経験可」との求人広告を信じ転職したものの、実際の仕事が「いわゆる家電量販店への派遣」のように、スキル向上に繋がらないケースを避けるためです。リツアンでは、未経験者に対しても、テスターやコールセンターといった初心者向け案件ではなく、実際に技術力が身につく環境を提供しています。(2024/07/24現在)

信用の蓄積

リツアンが創業から17年間で大切にしてきたものは「信用の蓄積」です。当時は非公開が常識であった、単価、マージン率、給与還元率を公開したのも、業界一の高い還元率を提供しつづけているのも、クライアントからの社員引き抜きを容認しているのも、エンジニア社員の立場に立ったgiveの精神を美徳としているからです。

当然、リツアンの17年間の歴史の中には、私たちの言葉足らずで誤解を招いたことや、営業力不足で案件を紹介できず退職された方もいます。すべての方に誠実に対応できたかと問われれば、言い切ることはできませんが、誠実であろうと努めてきたことは事実です。もちろん、誠実であったかどうかは、最終的には受け取り手の感じ方によるものです。

ただ、その取り組みの一つの指標として、現在転職口コミサイトで高い評価をいただいております。超大手有力企業の中で、当社のような中小企業が名を連ねることは場違いであり恐縮しますが、会社の急成長や利益よりもエンジニア社員の利益を優先してきたことが間違いではなかったことが確認でき、安心しております。

その結果、リツアンの採用の6割強がリファラルです。残りの4割弱もエンジニア社員が実体験をつづったブログやSNSの投稿をみて応募してきてくれます。つまり、求人サイトなど外部のリソースに頼らない「自前採用」が実現できています。

また、リファラル採用は、エンジニア社員だけではなく、クライアントからも定期的に紹介を頂いております。毎月の平均は算出していませんが、期の変わり目で多い月を抽出すると、今年の3月(2024年)は10名もの方を紹介して頂きました。

日本一の給与還元率と言い切れる理由

リツアンは、10年在籍で11年目以降からのエンジニア社員から利益を取らない「さよならマージン」を導入しています。派遣会社が派遣社員から利益を取らず、どう運営するのか?社内外から疑問の声があがっておりますが、先日のブログでそのカラクリを説明いたしました。

簡単に言えば、リツアンは派遣会社(SES企業)でありながら、職業紹介の「転職エージェント」でもあります。つまり、ハイブリッドなビジネスモデルで会社運営をしております。私たちは10年在籍のエンジニア社員からは毎月の派遣マージンは頂かない代わりに、転職が決まった際は有料職業紹介事業としての成功報酬を頂いております。

少し踏み込んだ話しをしますと、派遣・SES業界の平均勤続年数は他業界より短く、上場している大手技術派遣会社やSES企業でも平均勤続年数は10年前後です。その理由は、多くのエンジニアが長期間、派遣社員(SES社員)として働き続けることを望んでいないからです。

勤続年数が10年前後であれば、大手競合他社が禁止している正社員転職を逆に推奨し、転職成功時には報酬を得ることがビジネスとして賢明です。「さよならマージン」は一見無計画に思えますが、業界の平均勤続年数を考慮して取り入れられたものです。その結果、エンジニア社員は10年在籍することで実質マージン(会社利益)がゼロとなり、プロ契約時よりさらに年収が上がります。そしてリツアンは成功報酬を得ることができるという、双方にメリットがある制度ができあがりました。

そして、この「さよならマージン」の最も重要な点は、リツアンがこれをもって『給与還元率が日本一』であると断言できることです。エンジニア社員から実質的な利益を取らないため、給与還元率は名実ともにNo.1です。

還元率を下げた新SES企業の話し

リツアンが採用している高還元モデルについて、競合他社の経営者からは「経営基盤が脆弱である」との批判を受けることもあります。また、最近でもある新SES企業が還元率を下げたことがSNSで議論され、高還元モデルの限界が話題になりました。

しかし、リツアンはこのモデルで17年間もの間、経営を続けてきており、その間に3度の大きな不況を経験しています。その期間中、競合他社が売上を減少させる一方で、リツアンは着実に売上を伸ばしています。

今回話題になっている議論では、以下の重要な前提が抜け落ちています。①還元率を下げた新SES企業は「株式上場」を目指し急成長を求めていました。②急成長を支えるために、未経験者や微経験者を積極的に採用していました。③さらに、契約が脆弱であるが締結しやすい商流の深いゾーンへ派遣していました。その結果、契約解除が頻発し、待機者や離職者が急増しました。

このため「高還元モデルの限界」というよりは、「急成長を急ぎすぎた結果、待機者や離職者が急増し、その費用や採用広告費を賄うために、還元率を下げて(エンジニア社員の給与を下げて)利益を確保しなければならなくなった」という粗末な経営判断が原因です。

リツアンは株式上場を1ミリも考えていません。その理由は非常にシンプルで、単に必要がないからです。株式上場により得られる主な利点は、資金調達能力の向上にあります。多額の資金が手に入れば、たとえばプロモーションや採用広告に多くの予算を割り当て、より多くの応募者を獲得し、結果として会社が成長する可能性があります。しかし、リツアンの場合、既にリファラルを主軸にした採用戦略が確立されており、求人サイトなど外部のリソースに頼らない「自前採用」のシステムが構築されています。

さらに、上場によって得られるもう一つのメリットは、株主としての私が利益を得ることです。しかし、私はお金に正直関心がありません。銭湯での朝風呂や時折の美味しい食事で十分満足しており、これ以上の贅沢は望んでいません(お酒もやめましたし)。

リツアンは株式上場に伴う株主からの介入や、株主への説明責任、投資家向け広報(IR)などの内勤部門を必要とせずに運営が可能です。また、株式上場企業としてしばしば求められる売上や利益の追求という外部からの圧力に左右されることなく、企業としての自由な経営が行えます。このため、リツアンは外向きの成長よりも、エンジニア社員へのサービス向上や内部の成長に注力できます。

今後

日本のIT業界には約140万人のエンジニアがおり、その70%に当たる約100万人がSIerやSES企業で働いています。さらに、2030年には最大で約80万人のIT人材不足が予測されています。にもかかわらず、日本のIT人材の平均年収は36,061ドルで、世界72カ国中26位に位置しており、この低い年収は「働いても正当な報酬が得られない」という現状を示しています。この背景には、多重下請け構造が定着し、中抜き再委託が一般的になっていることが影響しています。

リツアンは創業以来、この「中抜き=マージン」に異議を唱え、公明正大にこの課題に取り組んできました。しかし、日本のIT市場においては、リツアンはまだまだ知られていない無名に近い現状です。

今後、リツアンは「給与還元率=日本一」という『事実』と、口コミサイトでの高評価という『実績』を基に、積極的に会社の存在感と成果を市場にアピールすることで、SES市場でのシェア獲得を目指します。これから獲得していく広大な市場を目の前にして、収益性が高いか低いかのビジネスモデル議論は生産的でないと私は考えています。

そもそも、リツアンは創業当初から「積小為大(小を積めば、則ち大となる)」というビジネスモデルを掲げています。この理念は、個々のエンジニアからの利益が少なくても、その積み重ねが大きな力となるという考え方に基づいています。それを掲げた理由は、派遣やSES業界では、エンジニアの労働が直接的な収益源だからです。そのため、ブランドバッグのような高級消費財と異なり、高い利益率を追求するのではなく、エンジニアに対する公平な報酬の提供が求められます。

今回の新SES企業による「自社の失策を責任転嫁する」ような発言は、高還元モデル全体がマイナス評価を受け、創業より17年間地道にこのモデルで運営してきた当社としては、大変迷惑しております。

追記①:少し先の話ですが、1年後から準備を始めて、5年以内に新しい会社を設立する予定です。この新会社は、技術派遣やSES業界でハイエンドなサービスを提供します。在籍しているエンジニアの上位層を新会社に移して、その会社に高い付加価値を持たせ、高価格帯でのサービス提供を目指します。

新会社を設立する目的は、高単価を実現するためには、エンジニア社員の市場価値だけに頼るのではなく、会社としてのブランド価値も必要だからです。

人材業界のブランドとは、「間違いのない人材を紹介する信用力」です。間違いのない人材とは、技術面だけではなくソフト面も含まれ、その定義に関しては今後エンジニア社員と協議を進め決めていきます。

いずれにしてもエンジニア社員本人の市場価値では単価90万円の評価を、新会社の付加価値を加えることで100万円の単価に引き上げる施策を、いろいろと考えていきます。

追記②:リツアンは技術派遣やSES事業の他にも、フリーランス事業も行っています。個人的には、今後フリーランス事業を拡大していきたいと考えています。ただ、最近エンジニア社員と話していると、一時のフリーランス熱が冷めつつあるのを実感しています。「リツアン・フリーランス」については、後日ブログ記事で詳しくご説明させていただきます。

ここまで長い長いブログを読んで頂きありがとうございます。
私が伝えたかったことを簡単に要約すると次の通りです。

要約

『高還元モデルは?』
① 経営者にとっては
・高還元SESは利益が薄い「儲からない」ビジネスモデルです。
・高還元モデルを実施することは容易ですが、その持続は困難です。
・経験豊富な人材を採用し、商流が浅い大手クライアントとの取引が必要になります。
・このため、新設のSES企業が急速に成長することは現実的に不可能です。
・急成長していると語る新設のSES企業は、どこかで問題を抱えている可能性が高いです。

② エンジニアにとっては
・高還元モデルは未経験者や微経験者には適していません。
・経験豊富なエンジニアに適しています。
・特に、他のエンジニアの待機費用に自分のマージンが使用されず、自分の給与に還元されることを望むエンジニアには適しています。

③ リツアンで働きたいと望む未経験者や微経験者へは
・即日採用は難しい場合がありますが、
・「Terakoya tech2.0」や社内研修プログラムを通じて成長を無償でサポートします。
・採用基準に達した場合は、「キャリアリターン採用」という特例措置を用いて、給与を最大限に評価します。

補足1:リーマンショックの際の稼働率は、大手技術派遣会社を参考にすると、最大で20%ほど低下しました。前職の同僚や部下からの情報によると、待機者の多くは新卒者から経験3年の微経験者、そして年齢が高いエンジニア社員(年齢とスキルが比例しない方や常駐先での勤務歴が短い方)です。技術派遣では、毎年数百人の新卒者を採用します。技術者の在籍数の推移を見てもわかるように、毎年4月に数百人の在籍者数が増え、翌年3月に向けて在籍者数が減少し、再び4月に数百人増えるという階段式で技術者派遣会社は成長しています。他業界の平均年齢が40代と高いのに対して、技術派遣会社の平均年齢は30代中旬と低く、エンジニア社員のボリュームゾーンも若手が多くを占めています。この傾向からもみてとれるように、未経験者や微経験者は不況には弱く、待機のリスクが高まります。

※SES企業や技術派遣への転職に際して、業界の裏事情を詳しく解説した『SES/技術派遣 転職虎の巻』を作成しました。これからITエンジニアを目指す方々が業界をより深く理解する手助けになることを願っています。


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