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SES企業の還元率の歴史(高還元SESの誕生の背景)

還元率とは何か?

還元率とは、SES企業がエンジニアにどれだけのお金を還元しているか、つまり給料として払っているかを示す割合です。例えば、還元率が高いと、エンジニアがもらえる給料が多くなることを意味します。逆に、還元率が低いと、エンジニアがもらえる給料が少ないことを意味します。

還元率の曖昧さ

ただ、この還元率には問題があります。還元率を計算する方法に統一されたルールがないため、企業によって計算方法が異なるのです。たとえば、

  • ある会社は、単純に「エンジニアが受け取る給料」だけを計算に入れます。

  • 別の会社は、「給料に加えて、社会保険料やその他の経費」も含めて計算します。

この違いにより、還元率が同じでも、実際にエンジニアが受け取る給与額が大きく異なる場合があります。これは、企業が自社を良く見せるために還元率を「水増し」することができるためです。この水増しの還元率が、現在大きな問題になっています。

では、いつからSES企業は還元率に、いろいろな経費を含めて水増しするようになったのでしょうか?その歴史を振り返ってみます。

第1世代(~2016年ごろ)

「還元率=給与」の世代です。

この時代のSES企業では、「還元率」は単純にエンジニアが受け取る給料の支給割合を指していました。

下記のブログ(ハトさんのブログ)の記事を借りると

「2016年以前。還元率=給与×還元率で表記している企業が多かった世代。たまに交通費を含むところもあったが、還元率=給与と考えて問題なかった。単価連動SES自体がそんなに多くなかった時代。大手求人サイトに掲載せず細々とやっていたところも多かった印象。」

『SESで働く』筆者:ハト

リツアンの創業は2007年です。リツアンは創業当時からエンジニア社員に対して単価を公開し、単価に対する給与の支給割合を「還元率」という言葉を使って示していました。

当時、リツアン以外に単価や還元率を公開しているSES企業や派遣会社があったかどうかは不明ですが、日本全国を捜せば、そのような会社があったとしても不思議ではありません。単価や還元率を公開することは、会社が誠実である覚悟があれば誰でもできることだからです。

ただ、2015年頃からリツアンは、こうした情報を公開する特異な会社として全国的に(少しは)知られるようになりました。ネットニュースや業界誌からの取材、そしてインフルエンサーのイケハヤさんや箕輪康介さんによる紹介などのおかげで、リツアンの知名度は上がりました。その結果、東京や大阪、遠くは沖縄からも新興のSES企業や派遣会社の経営者が訪ねて来るようになりました。この中には、次に触れる第2世代のSES企業の経営者なども含まれています。

第2世代(2016年~)

「還元率=給与+社会保険の会社負担」の世代です。

2016年ごろから、還元率に社会保険料の会社負担を含めるSES企業が現れ始めます。

先ほどのハトさんによれば「IT派遣平均が還元率60%。エンジニアにお金は出したくないが人はたくさん採用したい。そのためには他社より多く給料をだしているように見せたいという企業が社会保険料10%を加えて還元率70%とうたい始めた。」というように、還元率を水増しする企業が現れ始めました。

彼らは自らを「新SES」と称しています。

ただ、当時は還元率を公開する企業は少なく、とある新SES企業の代表者のSNS(旧:Twitter)を参考にすれば9社(内グループ会社2社含む)しかありませんでした(2020年3月現在)。

第3世代(2020年~)

「還元率=給与+社会保険の会社負担+その他経費」の世代です。

第2世代の成功を受け、多くのSES企業が誕生し、還元率をさらに高く見せようとする動きが加速しました。彼らを第3世代と呼びます。第3世代は、社会保険料の会社負担に加え、研修費用や健康診断費用などの「その他経費」を還元率に含めるようになりました。これにより、実際の還元率がさらに水増しされました。

この第3世代の動きに対して、第2世代は危機感を覚えます。SNS上で、第3世代の還元率を否定するような発言を繰り返すようになります。その発言を要約すると「第3世代の還元率はデタラメ。そもそも還元率の計算には統一ルールがない。あまりにも高い還元率は怪しい。」です。

しかし、一社が還元率を水増しすると、それに対抗するために他社も続くようになり、この水増しの流れをだれも止めることはできず、SESの採用現場では操作された還元率が支配的になりました。実際、この頃からSES企業の求人には「高還元」「還元率〇〇%」という言葉が頻繁に使われるようになりました。(※高還元SESという言葉が浸透したころ)

その結果、「還元率=給与」と理解していたエンジニアの中には、「入社後に期待を裏切られた」と感じる者が多く現れ、SES業界への不信感が一層高まる結果となりました。

このようにして、SES企業の還元率の歴史は変遷し、企業がエンジニアを効果的に採用するために還元率を操作する手法が進化してきました。

リツアンは、還元率を使用し始めた先駆の一社として、「エンジニアの待遇評価を透明化させ、会社に搾取されていると感じるエンジニアをひとりでも減らす」という目的を持っていました。

ここで言う「会社に搾取されていると感じる」というのは、現在の感じ方だけでなく、将来数年後に"いま"の状況を振り返ったときに「当時は搾取されていた」と感じることも含みます。特に社会経験が少ない若者は、他の状況(他社)と比較する機会が少なく、現在の自分の状況が良いのか悪いのかを判断するのが難しいのです。

しかし、ある時期を境に還元率は歪められた方向に向かってしまいました。この流れは現在のSES業界では支配的であり、こうなってしまった以上、これを止める方法はありません。個人的には、この状況に対してじくじたる思いがありますが、企業は最大利益を追求するものです。エンジニアの採用を最大化するために、還元率を都合よく使う企業が現れるのは避けられない運命だったと、自分に言い聞かせています。

ただ、これからSES業界へ転職を考えている方に向けて、これ以上「期待を裏切られた」という被害者が増えないよう、今後も継続して注意喚起していくつもりです。還元率の実態を知ることで、エンジニアが自分の待遇を正しく評価し、適切なキャリア選択ができるようになることを願っています。

追記:最近では第2世代や第3世代の企業に対して異議を唱える第4世代の新興SES企業が現れ始め、業界の健全化に向けた期待の存在となっています。


※リツアンが2016年以前から「還元率」を給与の支給割合として使用してきた証として、その歴史を補足として記載しておきます。
捕捉①:リツアン創業(2007年)以来、一貫して個人の単価、給与、還元率(単価に対する給与の支給割合)、マージン率を公開してきました。私自身が書いていたブログ(2015年~)などでも還元率を使用し、エンジニアが透明性を持って自分の待遇を評価できるよう努めてきました。


捕捉②:2015年ごろからネットニュースや業界誌で取り上げられるようになり、またインフルエンサーの「イケハヤ」さんや「箕輪康介」さんがリツアンを紹介してくれたことで、単価や還元率を公開している特異なSES企業・派遣会社として全国的に知名度が上がりました。


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