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ドイツの定住許可取得について

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2019年夏、ドイツの定住許可(無期限滞在許可) を取得しました。
ドイツに移住し、建築設計事務所で働き始めて21ヶ月後のことでした。

ここでは意外と知られていない、ドイツで被雇用者として就労開始から最短21ヶ月で可能な、「EUブルーカード保有者としての定住許可申請について紹介したいと思います。(2019年10月現在)

免責事項
この記事は、あくまで筆者個人の体験と各関連機関のホームページ等の情報を基にした内容です。必ずしも正確性を保証するものではありません。内容を参考にした結果、いかなる不利益が生じても、筆者は責任を負いません。予めご了承下さい。

ドイツの滞在資格について

日本人を含む、EU圏外の国籍保有者*がドイツに90日を超える長期滞在をする場合、滞在資格が必要となり、滞在許可を申請する必要があります。
*EU-欧州連合加盟国、EEA-欧州経済領域、またはスイスの国民以外

滞在許可には以下の分類があります。(ドイツ連邦移民・難民庁より)

1. 通常の滞在許可 Aufenthaltserlaubnis
2. EU ブルーカード Blaue Karte EU
3. 定住許可 Niederlassungserlaubnis
4. EU継続滞在許可 Erlaubnis zum Daueraufenthalt-EU

端的に言えば、1と2は期限あり滞在資格で、2は高資格外国人労働者向けに特化したもの、3と4は期限なし滞在資格で、4は3(ドイツ国内)に加えて他のEU圏(イギリス・デンマーク・アイルランドを除く)での滞在許可も認めるという違いがあります。(image: Berlin.com)

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1. 通常の滞在許可についてはここでは詳しい内容は省略しますが、ドイツ国内での学業・職業訓練・就労を目的とした滞在、家族の関係での滞在など、ほとんどのケースがこちらに当てはまります。就労に関しては一概には言えませんが、期限ありの雇用契約書等であれば通常1-2年、期限なしの雇用契約書等であれば数年分の滞在許可が下りるようです。それぞれ契約が続けば更新が可能です。

ちなみに私の場合、ドイツでの就労開始前にEUブルーカードに関する知識があまりなく、また就労開始の日程もせまっていたため、通常の就労目的の滞在許可を申請し、期限なし雇用契約書であったため3年更新の滞在許可証を取得しました。

EU ブルーカード / Blaue Karte EUとは

Blaue Karte EU - Wikipedia画像7

EUブルーカード」とは何なのか、そもそもあまり知られていないのではないでしょうか。アメリカの「グリーンカード」と名称が似ていますが、「EUブルーカード」は永住権ではなく、あくまで滞在許可の一種で、EU域外の高度技能外国人材(被雇用者)を対象とした、EU加盟国から発給される滞在許可証です。

(ドイツ大使館HPより)
2012年8月、EUの高資格外国人労働者指令実施のための法律が施行されました。これに伴い、高度な資格を有する外国人に対し、ビザ発給手続きや在留許可制度においてさまざまな緩和措置が実施されます。
「EUブルーカード」は、EUの高資格外国人労働者新指令に従い、EU加盟国から発給される滞在許可証です。

「高度な資格を有する」とありますが、これは基本的に高等教育課程を修了していること(4年制大学卒業)が条件となります。雇用契約書に記載されている職業(職名)と大学の専門分野が異なる場合は認定されにくいようです。専門的な資格を取得している場合はもちろんプラスとなります。(職業によっては資格や免許がなければ申請自体できない場合もあります。)

通常、外国人被雇用者としてドイツの会社で働く際には前述のように滞在許可 / Aufenthaltserlaubnis(+就労許可)が必要ですが、その際降りる許可は滞在理由として勤務先にそのままリンクしているため、仮に転職先のないまま退職した場合、学生やフリーランスや自営業などとしての滞在許可に自主的に切り替えたりしない限り、基本的にドイツに滞在できなくなります。(保有している滞在許可の有効期限まで滞在できる場合と勤務先の契約期限が切れたと同時に滞在できなくなる場合など様々なケースがあるようです。1年以上勤続した後退職する場合は失業者 / ジョブシーカーとして期限ありで滞在することもできるようです。)

EUブルーカードの場合、勤務先の制限がなく、さらにドイツだけでなくEU圏に幅を広げて就職(転職)活動をすることができます。

ちなみに、EUブルーカードのEU全体での発行の割合としてはドイツが8割以上を占めており、申請者の国籍としてはインド人が1/4を占めているそうです。(image : BAMF Central Register of Foreigners / Eurostat 2015)

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EU ブルーカードの申請条件 

image : Europarat
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申請条件概要
- ドイツの高等教育課程修了(大学/大学院)もしくはそれと同等の外国の高等教育課程を修了している
- 雇用契約書がある
- 年収条件(後述)をクリアしている

(参考:ドイツ移民難民局 , Berlin.de)

ただし、原則「被雇用者」に限られるので、自営業やフリーランスは申請対象外です。

申請に際して、まず外国人局 / Ausländeramtにて申請書類提出日を予約する必要があります。(私の場合3カ月先まで予約が埋まっていました。)

[ 申請書類一覧 ]
0. 申請書
1. パスポート
2. 証明写真
3. 支払い用ECカード
4. 職業に関する証明
  ・労働局からの承認 / 雇用契約書等 / 労働許可証
  ・過去3か月分の給与明細*
  ・ドイツの高等教育課程卒業証明書、もしくはそれと同等の教育課程
  を修了していることの証明
Anabinの印刷したものなど)
(上記書類が不足する場合、どのように生計を立てているかの証明)
5. 医療保険証明
6. 住居証明 / 賃貸契約書
- その他滞在目的を示す書類

*給与条件 (2019年10月)
指定専門分野:年収 41.808 € (月3.484 €)以上
その他の分野:年収 53.600 € (月4.467 €)以上

ここでの指定専門分野とは、数学・自然科学・IT・工学 (通称: MINT分野 - Mathematik, Informatik, Naturwissenschaften, Technik)などで、該当する職業としては、たとえばベルリンの場合、自然科学分野の科学者、数学者、建築家、インテリア、都市計画者、デザイナー、エンジニア、科学技術者、医師(歯科医を除く)などがあります。

上記の給与条件は申請する年度により異なるようです。2012年から比較すると必要最低年収は上昇傾向にあります。

申請が問題なく通った場合、有効期限4年の滞在許可がおります。(申請時の勤務先との契約が4年以下の場合、契約期限+3カ月に短縮されます。)

EUブルーカードについての内容は以上ですが、最後に通常の就労目的の滞在許可との申請条件との違いを比較して表にまとめました。
(下表: 2019年10月 筆者作成。以下詳細参照)
Aufenthaltserlaubnis - Beschäftigung, Blaue Karte  (Berlin.de )

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*上表にて高等教育課程証明等について通常の就労の場合、申請場所や申請者の条件によると書いてありますが、たとえばベルリンの申請条件としては「ドイツまたはドイツ公認の外国の大学の学位、またはドイツの大学の学位に相当する外国の大学の学位、または職業訓練の修了」という項目がありますが、デュッセルドルフの申請条件には教育課程についての項目が明記されていません。しかしこれも職種や雇用条件など個人のケースによるので申請者ごとに確認が必要な点だといえます。EUブルーカードに関しては同項目は上記にもありますが必須条件です。

ドイツの定住許可(無期限滞在許可)
/
Niederlassungserlaubnis

© Düsseldorf.de
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文字通り、無期限でドイツに滞在することができる滞在許可証です。ただし、6カ月以上ドイツを離れると失効してしまいます。

つまり、「定住許可」は厳密には「永住権」ではありません。
2004年以前のドイツの「外国人法 / Ausländergesetz」では外国人の滞在資格として「滞在権 / Aufenthaltsberechtigung)」という所謂永住権に近いものがありましたが、その後の「滞在法 / Aufenthaltsgesetz」では永続的滞在資格は「定住許可 / Niederlassungserlaubnis」となっているので、ここでは「定住許可」で表現を統一することにします。

「EU ブルーカード保有者」の定住許可申請

通常の定住許可、EUブルーカード保有者を対象とした定住許可、EU継続滞在許可の申請条件を比較して以下にまとめました。
(表: 筆者作成。以下参照先)

定住許可(一般)  Niederlassungserlaubnis (allgemein)  
定住許可(ブルー) Niederlassungserlaubnis für Inhaber einer Blauen Karte EU
EU継続滞在許可 Erlaubnis zum Daueraufenthalt-EU

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EUブルーカードの保有者の定住許可申請において重要な点は、前述の通常の定住許可申請条件であるドイツでの滞在期間と年金支払い期間を60ヶ月から21ヶ月に短縮することができるということです。語学能力条件が基準のB1を下回る場合でも基礎A1レベルの理解があれば33ヶ月に短縮が可能です。

ちなみに、EUブルーカード”取得後”21ヶ月ではなく、取得のタイミングにかかわらず、申請者の就労開始まで遡って換算され、”保険料の支払い開始から”21ヶ月*となります。

*就労開始時の給与が条件を満たしておらず、昇給などにより条件を満たすようになった場合、条件を満たした時点から21ヶ月となります。たとえば工学系技術者が3.000 €(申請条件となる3.484 €未満)の月収で半年働いた後昇給し、3.500 €(条件以上)の月収になった場合は最初の半年間は21ヶ月のうちに換算されません。ちなみに、昇給後がたとえば3.000 €から4.000 €などの場合、年間を通しての月収平均(3.500 €)が条件をクリアするので最初の半年分も換算されることもあるようです。(※申請する都市、申請者の条件、場合によっては担当者次第で異なるので一概には言えません。)

ちなみに通常の流れとしては、雇用主からの雇用契約>(通常滞在許可>)EUブルーカード申請>EUブルーカード受け取り>21/33ヶ月換算して定住許可申請、となるのですが、私の場合はEUブルーカード申請書類提出時に換算がすでに18ヶ月ほどだったので、あらかじめ担当者に定住許可を後々申請する意志があることを伝えたところ、EUブルーカード保有者になることを想定し、EUブルーカードと同時に定住許可の申請をすることができました。

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ところで、このような必要滞在期間の緩和はEUブルーカードの他にもあり、ドイツの高等教育課程修了者の場合は2年に、ドイツ人と婚姻などにより家族になる場合は3年にそれぞれ短縮が可能です。(上図: 筆者作成)

また、前述のEU継続滞在許可については基本的には定住許可に必要な申請書類と同等以上のものが必要ですが、定住許可申請におけるEUブルーカード保有者の緩和(滞在法 / Aufenthaltsgesetz § 19a(6))と同様の緩和があるといった記載が該当箇所(滞在法 § 9a§ 19a(6))に見受けられないので、EU継続滞在許可の申請には緩和なしの60カ月の滞在と年金納付は最低条件のようです。(ちなみに移民局の相談カウンターにてEUブルーカード経由の定住許可からEU継続滞在許可への移行について質問したところ、やはり必要書類として60カ月の年金納付証明が挙げられました。ただしこれも申請場所や担当者、申請条件によるのかもしれません。)

許可証の失効に関する比較
定住許可 : ドイツを6カ月間以上離れた場合
EU継続滞在許可 : EU圏* を12カ月間以上離れた場合
*イギリス・デンマーク・アイルランドを除く

つまり、EU継続滞在許可はより好条件の無期限滞在許可といえます。さらにEUブルーカードを保有していた者がEU継続滞在許可を取得した場合、上記の期限が24カ月間まで延長されます。


おわりに
長くなりましたが、このような申請のプロセスを経て、無事ドイツ定住許可を得ることができました。滞在許可に関する質問を複数人からされたことをきっかけに本記事を書くこととなりました。ドイツやEUでの就労に興味がある方、ドイツで学生をしていて就労する予定の方、ドイツですでに働いていて同様の申請をする方などの役に立てれば幸いです。

また別の機会に、ドイツ移住前に私が住んでいたオーストリアでの芸術家ビザの取得に関して、また専門である建築関連等についても少しずつ書いていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献一覧

ドイツ連邦移民・難民庁 BMMF
Aufenthalt in Deutschland - BMMF Bundesamt für Migration und Flüchtlinge
Blaue Karte EU - BMMF Bundesamt für Migration und Flüchtlinge

滞在法 Aufenthaltsgesetz - AufenthG
Aufenthaltsgesetz - § 18 Beschäftigung
Aufenthaltsgesetz - § 19a Blaue Karte EU
Aufenthaltsgesetz - § 9 Niederlassungserlaubnis
Aufenthaltsgesetz - § 9a Erlaubnis zum Daueraufenthalt – EU

Berlin.de
Aufenthaltserlaubnis zur Aufnahme einer Beschäftigung - Berlin.de
Blaue Karte EU - Berlin.de
Niederlassungserlaubnis (allgemein) - Berlin.de
Niederlassungserlaubnis für Inhaber einer Blauen Karte EU - Berlin.de

その他
Figures on the EU Blue Card - Federal Office for Migration and Refugees
Niederlassungserlaubnis-Düsseldorf.de
ドイツ連邦共和国大使館総領事館
JETRO 日本貿易振興機構
ドイツの滞在法-「外国人法」から EU「移民法」へ 戸田 典子
在日ドイツ商工会議所
anabin


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