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【マイナースポーツは地方創生時代に、地方にとっての“尖り”になれるという話】

「スポーツ×地域活性化」「スポーツツーリズムで地方誘客」の事業をやってます、ルーツ・スポーツ・ジャパン代表の中島祥元(なかしまよしもと)と申します。
↓自己紹介記事はこちら。

先日こちらのツイートをしました。

こちらについて、自分の経験談も交えながら少し掘り下げてみたいと思います。

1.地方創生とは

まずそもそも、「地方創生」って最近よく聞くワードだと思いますが、厳密に言えば2014年9月に第2次安倍改造内閣発足と同日の閣議決定によって「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されたところから始まっています。この本部の通称が「地方創生本部」であり、第2次~第3次安倍内閣の「地域活性化」の取り組みが一般的に「地方創生」と呼ばれるようになりました。

内閣府のWEBサイトにはこのような記載があります。「地方創生は、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することを目的としています。」要するに、地方の市町村がそれぞれの特徴を活用した魅力あるまちづくりを行うことで、都市部への人口流出を防ぎ、地方から日本を盛り上げていきましょう、という風に解釈できます。

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*参考 内閣府「地方創生」web:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/

2.地方創生×(マイナー)スポーツの可能性

全国で様々な「地方創生」「地域活性化」の取組がありますが、「スポーツでの地域活性化」を掲げている自治体も、以前に比べるとすごく増えているように感じます。メジャーなところでいえばサッカーJリーグは現在J3までいれたら58のクラブがあるし、バスケットボールBリーグは48チーム。そういった「プロクラブ」がある地域にとっては、「プロスポーツクラブを活用した地域活性化」事業への取組がメインに進められていくことが多いようです。

しかしここで考えたいのは、全国に市町村は「1724」あるということ(2020年7月現在)。仮に野球、サッカー、バスケあたりまでを「メジャースポーツ」と呼ぶならば、ほとんどの市町村にはメジャースポーツのプロクラブはないわけです(県単位等広域のホームタウンのクラブの場合は、エリアに含まれている市町村は多いけど、その場合は逆に言えば隣町と同じになるわけで、“そのまち特有の尖り”とはしづらかったりするんじゃないかと思います)。

対行政、対自治体の仕事をしてきてもう10年以上になりますが、自治体の皆さんは「横並び」意識ももちろん強いんだけど、一方で「おらが町ならでは」の“尖った”シティプロモーションも常に考えている。そこにうまくアプローチすれば「マイナースポーツ(この呼称も賛否ありますが、あえて対比的に使います)」はハマるんじゃないかと思ったりします。

サッカーやバスケ、野球などのクラブや国際的な大規模大会の誘致ができるほどの財政規模ではないけれど、スポーツを活用した地域活性化がしたい、他のまちにはないオリジナルな取組をしたい、という市町村とうまくマッチングすることができれば。

何も全ての自治体に受け入れてもらう必要はない。「1/1724」でいいので「そのスポーツを熱烈に受け入れてくれ、資金他の支援もしてくれ、このスポーツと共にこの町を盛り上げていこう」と考えてくれる自治体を「1つ」見つけることが、大きな一歩になるんじゃないかと思います。

3.マイナースポーツ側がやるべきこと

じゃあ具体的にどうしていくか。「マイナースポーツを熱烈に受け入れてくれる地域を探す」ために、結構一番大切なのは「いかにこちらから営業せず、向こう(行政側)から声をかけてもらう状況を作るか」に尽きると思ってます。「入り口」の作り方がとても重要。

これも経験上、自治体さん相手にこちらから「営業」してしまうと、どうしても今後の関係性が「不利」になりがちです。自治体の皆さんは民間企業や民間団体からの「売り込み」には慣れているので。できれば「行政からの依頼」という形でスタートできたほうが何かと良いです。

また我々が売り込むべき「スポーツコンテンツ」は、例えば「ITシステムの導入」のように汎用性が高く、どの自治体でも一応は検討のテーブルに乗るような種類の商品ではなく、元々全ての自治体にマッチングする確率は極めて低い。こっちから「売り込み」「営業」するのはとても効率が悪いと感じます。それよりも、いかに分かりやすい「旗」を掲げて、必要な人に「見つけてもらう」か、「自治体側からの依頼」という形を作るかがものすごく大事だと考えています。

4.具体例:「全国大会の開催地」を探したい

より具体的に、「あるマイナースポーツの全国大会の開催地を探したい」という課題があったときに自分ならどう考えるかを書いてみます。ちなみにこれ、もちろん「正解」というわけでは全くなく、あくまでも「一つの考え方」という感じで読んでみてもらえればと思います。

■目的:●●●の全国大会の開催地・受け入れ候補地を探したい
希望条件:
・積極的に受け入れてくれる地域がいい
・できれば資金も出して欲しい
・できれば人(ボランティア)とかも出して欲しい
・できればその後も普及の取組なんかも連携できる地域がいい

■取るべき考え方
・まず一番大切なこととして、その大会を開催することで「開催地域」にどんなメリットがあるかを考え、それを分かりやすく明示すること(人がたくさん来ます、宿泊してお金落とします、ファミリー向けのこともできるので地域の人のお祭り的にもできます、とかでOK。可能な限りデータ的なエビデンスをつける。客観的な数字は常に重要)。
・行政的なトピックス、大きな流れも勉強して頭に入れる。例えば「地方創生」文脈ならば「地方創生本部」、観光部署へアプローチするなら観光庁、あるいはスポーツの部署ならばスポーツ庁の、基本戦略や地方自治体への方針やメッセージなどがWEBサイトに載っているので、それを読み込んで勉強する。なぜなら地方自治体はそういった中央省庁の「基本方針」を受けた施策をやっていくものだからです。今自治体が大きな方針で何をやりたいのか?を理解して、その文脈にあわせて「自分たちがやりたいこと」をうまく表現していく必要があります(自分たちがやりたいこと自体を変えるってことではありません)。
・上記の事柄を含んだ「●●全国大会開催候補地募集のお知らせ」といった企画書やWEBサイトを作る。このとき大切なのがこちらからの「お願い」的な書き方ではなく、あくまでも「開催地募集」という書き方がいいと思ってます。あくまでも「開催誘致をしたい地域があれば手を挙げて下さい。手が挙がった地域の中から条件を比較して、開催地を決定します。」みたいな感じにする(このへんの書き方はちょっと気をつけないと妙に偉そうに映ってもよくないんで注意‥)。
・それらの情報を、地方自治体の人の目につきやすいところに置いておく。WEBサイトを作ってWEBマーケ回すでもいいでしょうし、リアルな企画書を作って配布するでもいい。セミナーでもいいし、やり方は色々あります(この辺はかなり具体的なノウハウやテクニックとかにもなるんでまた機会があったら書きます)。

ば~っと書いてしまいましたが、要は
・自治体側が何を求めているかを理解して
・自治体側に提供できるメリットを明示して
・その情報を彼らの目のつきやすいところにおいて
・声をかけてもらうのを待つ

ってことになるかと思います。

ちなみに、そのスポーツの「プレーヤー、ファンからみたときの素晴らしさ」や「海外での成功事例(日本では全然だけど海外の一部の国ではめちゃくちゃ盛ん、みたいなやつ)」は、書いてももちろんいいですがメインテーマにするべきではないと思います。ほとんどの場合、少なくとも最初は「伝わらない」からです。

こうしたフローを経て「うちの自治体で導入(大会開催誘致)を検討してみたいんですけど・・・」と声をかけてくれた自治体さんを、何よりも大切にしましょう。「1/1724」かもしれないけれど、そのスポーツをどの地域よりも熱烈に歓迎して受け入れてくれ、今後長きにわたる「パートナー」となってくれるかもしれません。「地域のためになる活動」で、かつ「そのスポーツをプレーする、応援する、愛する人達も喜ぶ活動」の両立を続けていけば、必ずその地域での活動は拡げられていくのではないかと思います。そして一つの地域での「成功事例」ができれば、次のエリアへの横展開も可能になっていきます。

5.弊社の経験談

これ実は、そのまんま僕の会社でやってきたことでもあります。自分は自転車やランニング等の「ロード・スポーツ」を活用して地域を活性化していく仕事をしていますが、当初(10年以上前)なんかは、「自転車レースってこんな素晴らしいものなんで、普及・振興していきたいのですが、このまちで開催させてもらえませんか??」と頭を下げて「お願い」して回ってたんですね。

でも前述の通り、1724もある自治体の中で、興味を持ってくれ話を聞いてくれること自体がものすごく少なかった。電話かけまくったりもしてみたんですがめちゃくちゃ「打率」が低い。そこで考えたのが、これを進めることによって「開催地側」が得られるメリットはなんだろうか?ということ。それを明示して、向こうから「誘致」してもらうような形にすれば、効率も良いしお互いWIN-WINなんじゃないかと。

我々の事業は、サイクルツーリズム(=自転車を活用した観光振興)の全国横断プロジェクトで、「ツール・ド・ニッポン」といいます。こちら2011年、そうあの東日本大震災が起こった年に、「スポーツ(サイクリング)の力で日本を元気にしたい」を考えて始めたものです。当初は数カ所の自治体で受け入れてくれ「イベント開催」から始めたのですが、今は全国20以上の地域に拡大し、取組施策も単なるイベントだけでなく、人材育成やスマホアプリ開発、そして自治体さんへのマーケティング支援や政策提言までかなり幅広くやらせていただいています。

「入り口」は上記のような考え方で始め、今でもそのような考え方で取組を加速化しています。20以上の自治体さんとは非常に親密なパートナーシップを持たせていただいています。

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この「手法」で出会えた具体的な地域の一つが「茨城県かすみがうら市」さんです。元々2012年に弊社が立ち上げたイベントシリーズの開催を「誘致」してくださりそこから関係性がスタート。毎年開催している「レイクサイドサイクルフェスタ-かすみがうらエンデューロ-」は人気イベントとなり、毎年5000人ほどの来場があります。またイベント以外にもサイクリングのための拠点施設ができたり、スマホアプリを活用した取組をやったり、今年はサイクリングとキャンプを絡めた新規企画も実施予定。また加えて「かすみがうらアクティビティコミッション」という、自転車に限らず幅広くスポーツツーリズムで地域を盛り上げていくための団体を、市と観光協会、そして弊社団の共同事業ということで立ち上げる運びにもなりました。今後もかすみがうら市さんとは連携を深めて、スポーツツーリズムの新たな取組にチャレンジしていきます。

またちなみに、今回は対自治体・対地域という文脈で書いていますが、この考え方は対自治体に限りません。「自分たちがやりたいこと」を効率よく実現していくために「それによってメリットを得る人や組織を、いかに増やしていくか」はとても大切な考え方ではないかと思ってます(繰り返しになりますが、「自分たちがやりたいこと」自体を変えるわけではありません)。

これから普及振興、そして地域連携を強化されていきたい「マイナースポーツ」の方に、何か少しでも参考になればと思い、書きました。もし何かサポート、お手伝いできることがあればご連絡下さい。最後まで読んでいただきありがとうございました。

*Twitterでは「スポーツツーリズム」「スポーツ×地域活性化」分野での日々の気づきや情報、またスポーツビジネス経営者としての日常等を発信しております。

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