そんな映像作品を待っている。

僕の中学時代の社会の先生は、吃音症を持っていた。

社会の「しゃ」なんかははまだ良いのだが、文頭に「さ」が来ると、「さ、ささささささ」としばらく2文字目を発することができない。

先生の授業はとても面白かった。

50分の授業で生徒にたくさんの質問を投げかけ、その都度先生は生徒が手を挙げる瞬間をよく見ていた。

ペーパーテストの結果だけではなく、生徒一人ひとりの授業に対する姿勢をしっかり見ていて、年度の後半あたりからは、手を挙げて正解した生徒にポイントを差し上げますというクイズ番組のようなシステムまで作り、授業は大盛り上がりだった。

勉強は苦手だが、挙手だけは得意だった自分は、この先生に授業を受け持ってもらって良かったと今でも感謝している。

2つ前の記事に出てきた「今日は1時間丸々ナポレオン特集」も、実はこの先生の企画(そう、授業というか企画)だったのだ。


気がつけば誰も、先生の吃音なんて気にしていなかった。

そんなことより、芸術鑑賞会で外部の音楽家たちになぜか混じってシャカシャカ鳴らすだけの楽器を陽気に振っているかと思いきやリズムがズレまくっていて全校生徒からの総ツッコミと大笑いをくらっていたり、卒業式の時に女子生徒から靴下をプレゼントされ、泣きそうになっていたり。普通に、生徒から支持され慕われる先生だった。

発話に難があれば生徒に話を振れ。

発話に難があれば生徒をよく見ろ。

発話に難があれば世界地図を描け。(横長の黒板に、下書きなしで綺麗な世界地図を描ける特技を持っていらっしゃった。これも生徒は大盛り上がり。)

きっとたくさんの知恵を絞って、人気者の先生へと進化していったんだろう。

島田紳助さんが芸能界にいらっしゃった頃、彼が司会の番組に出る準レギュラーはだいたいどの局も同じ人(ほぼ吉本の芸人さん)だな、とよく思っていた。

だが自分はずっとそれを肯定的に捉えていて、「確実に面白い番組を作れる、視聴者に届けられる」自信のある布陣を組んでいるんだと勝手に推測していた。

信用取引、それは面白い授業をしてくれる先生の質問なら、間違えても良いから一応手を挙げてみようと思わせる社会の先生と自分との関係だって似たようなものだ。

コミュニケーションが円滑に進み、なおかつ演技力がある人気者を優先して映像作品に出すことも、信用取引の1つなのは仕方がない。

これから先、才能や人として魅力のあるろう者の役者さんと、映像作品を作る人々との間に強い「信用取引」が生まれる日を願ってやまない。

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