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書評 イスラム2.0: SNSが変えた1400年の宗教観 飯山陽

年末から年始にかけて読んだ同書。その最中に米国による空爆でイラン司令官の殺害事件が起き、イスラム圏をめぐる動きが、2020年代以降も世界の波乱要因になりそうな勢いで、何ともタイムリーだなと感じた次第である。日本国内にいると、まだまだ遠い存在に感じるのがイスラムで、世界中でそれをめぐるさまざまなテロや紛争について、あまり実感が湧かないのも正直なところだ。

2001年に米国の同時多発テロが起きたころ、自分はまだ20代後半だったが、当時縁のあった新聞記者の人の誘いで、日本でイスラムを研究している学者の方の話を聞く機会に恵まれた(学者の方の名前は失念)。その時に、実はイスラム教徒の数が、今増え続けているという話をしていて、印象に残った。それから18年近くが経ったが、同書ではこの傾向が続いている点を指摘、イスラム教徒の信者が2070年には、キリスト教徒と拮抗する勢力になるとしている。

イスラム教徒が増加している背景として挙げているのが、副題にある「SNS」を使ったソフトな形での布教だ。世俗国家で多様性を尊重してきたインドネシアにおいて、宣教師のユーチューバーが影響力を有しているほか、現地でアイドルグループとして活動していた女性が、いかにイスラムの教えに忠実に生きることで、良くなったかを動画を通じて拡散しているなどのエピソードが盛り込まれ、SNSを使ったソフトパワーが、今後のイスラム教徒の増加において、カギを握っていることを感じさせる。このほか、欧州やエジプトでの動きや、日本人がテロの犠牲になったバングラデシュなど、各地のイスラム教徒をめぐる背景などがわかるようになっている。

アラーのみが神で、そのもとに自分が生きているとする考えが大前提にあることを踏まえたうえで、日本人が今後、イスラム教徒とどう付き合っていけば良いかを、最終章でわかりやすくまとめている。著者が強調するのは、とにかく相手方の信仰、生き方に「土足で入り込む」ような振る舞いはしないことだ。最後にこれまでのイスラムをめぐる世界で起きたテロなどの年表を見ると、日本でも翻訳者が殺害され、犯人が捕まらないまま公訴時効となった「悪魔の詩」事件や、仏の風刺をめぐるテロなど、すでに多くの事件が起こっているにもかかわらず、軋轢を起こし続けていることに驚く。ましてや、今後SNSを通じてさらに教徒が増加するなかで、相手と一線を画しながら過ごしていくことはますます重要なことのように感じた。

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