書評 ゼロ金利との闘い 植田和男
上記の書は、著者の日銀総裁が就任を機に復刊された。出されたのは2005年。日銀の審議委員として、金融危機の最中の98年から05年にかけて、金融政策に関わった。デフレ対策にどのように臨んだかを検証して1冊だ。
冒頭では、マクロ経済・金融情勢、ゼロ金利周辺の金融政策について、概観的に取り上げており、その後、自らが携わった日銀の金融政策について、時間を追って触れている。中盤において、時間軸政策の導入とその議論の過程、効果について分析している。終盤では、いわゆる失われた10年についてのマクロ経済学的な視点からの検討や、構造上の問題と金融政策についての考察を行っている。
日銀のゼロ金利政策は、政策金利をゼロにすることにより、銀行がただ同然で資金を調達できるように促し、企業への融資をしやすくし、景気刺激効果を狙ったものだ。1999年、短期金利の指標である無担保翌日物のコール金利を史上最低の0.15 %に誘導することを決定。この時、当時の速水優日本銀行総裁が「ゼロでもよい」と発言したことから「ゼロ金利政策」と呼ばれるようになった。この、ゼロ金利・量的緩和継続の長さに注目した政策が「時間軸政策」。一定の条件が整うまで、金融緩和をと宣言することで、市場に安心感を与え、中長期金利を安定させる狙いがある。
同書が出た後に、リーマン・ショックが起き、米国でゼロ金利政策が採られるようになった。その後、EUなどでも同様の政策がとられた。そして、日本では、16年に黒田東彦総裁のもと、デフレ脱却のために掲げた2%のインフレ目標達成のため、マイナス金利を採用した。これも含めて、いわゆる日伝統的な金融政策が黒田総裁のもととられてきたが、著者が総裁に就任して、どのように修正されていくか注目される。今後、どのような政策を採っていくのかを考察するうえでも、極めて参考になる1冊である。