春の嵐#終
私達がそろそろ帰ろうとファストフード店を出た時、不意に雨が上がった。
空を見上げると雲間から一筋の光が差し込んでいた。
だんだんと濃い鈍色だった空は雲がハケて本来の青さを取り戻していった。
そんなとき、強い風が私たちの間を通り抜けて行った。
その風を追うように道路の先を見やる。
遠くの地平線には鮮やかな虹がかかっていた。
「うわぁ…」
不意に誰かが声を上げた。
声の方を振り返ろうとした瞬間視界に何かがよぎった。
桜だった。
はらりはらりと次々に桜は散っていく
まるで吹雪のように。
まるでなにかを祝福するように。
「和久井さん」
そう宮元さんに不意に呼ばれた。
彼女が近づいてくる。
どことなくこの光景に既視感を覚えた。
すっと彼女の手が私の方へ伸びて
「桜ついてる。」
そう言って私の肩に乗った花弁を払った。
彼女はそう言ってまた足を進めた。
だが私はそんな彼女を引き止めた。
「待って!」
そう言って彼女の手を掴んで強引に引き寄せた。
「宮元さんも花弁、乗ってるよ」
そう言って花弁を払った。
そうしてまた歩き始めた。
私がこの先宮元さんにこの想いを伝える日はきっと来ないだろう。
永遠に。
なぜなら彼女は異性愛者で。
私は同性愛者だからだ。
こちら側に引き入れるような無責任な事はできないのだ。
絶対に。
少し前を歩く宮元さんの背中に私は誓った。
花弁を落とした桜の木の枝からはすでに新緑が芽生えていた。
もうじき夏が来る。
春の嵐は過ぎ去ったのだ。
季節からも、私の心からも。
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