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#118 伝統工芸と、空気の研究~伝統工芸が生き残っていくために~

『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。

お知らせ

本題に入る前にお知らせをさせてください。
ソーシャルグッドな紙の作り方や使い方を提案するプロジェクト「Paper for good」第1弾の商品がリリースとなりました!
紙からできた、地球にやさしいピクニックシート「CITON(しとん)」です。
職人が一枚一枚手で揉んでシワを付けた和紙が4枚重なった贅沢なシートで、まるで綿が入っているかのような座り心地です。
色は、自然をイメージさせる淡いブルー、ピンク、グリーンの3色展開です。
シートを入れるオリジナルのバッグも付いており、ギフトにもピッタリです。
この「CITON」をもってピクニック行く場合と持って行かない場合で、満足度に5~10倍の差が出るとも言われています。
1月30日から予約開始となっており、ご予約いただいた商品は、5月から順次発送予定です。
番組の概要欄に、オンラインショップのURLを貼っておきますので、ぜひチェックしてみてください。

さて、本題に入っていきたいと思います。

テーマ設定の背景

今回は、紙とはちょっと外れたテーマでお送りしたいと思います。
その名も『伝統工芸と、空気の研究』という難解なテーマでお届けします。
ちゃんとわかりやすく説明していきますので、ちょっと長くなると思いますが、中身はめちゃくちゃ面白い中身となっておりますので、是非最後までお付き合いください。

まず、このテーマでお届けしようとした理由についてお話しておきたいと思います。

まず1つ目の理由は、僕自身が伝統工芸に携わっているから
僕は、福井県越前市というところで、和紙の加工という、かなりマニアックなお仕事をしております。
なので、伝統工芸というワードは、日常茶飯事で触れているんですね。

それから2つ目の理由
先日、圓というPERIMETRONのメンバーで結成されたチームが本を出すということで、新刊完成イベントに行ったこと。PERIMETRONと言えば、King Gnuでおなじみ常田大希率いる、日本を代表するクリエイティブグループです。
実は2年ほど前から、越前の伝統工芸にクリエイティブ面で関わっていただいています。
元々は福井県の地域活性の事業で彼らとの関わりが始まったんですが、なんと福井に自費で拠点を構えて、事業期間を終えた今でも活動を続けてくれているんです。
そんな彼らの福井県での活動の足跡を記録した書籍の完成を記念して、イベントが行われました。
実際に彼らとお話をして、書籍を読んで、とても感銘を受けました
これが2つ目の理由です。

「空気の研究」とは

それでは、中身に入っていきたいと思います。
まず、「伝統工芸」は分かるけど、「空気の研究」って意味が分からないですよね。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、山本七平という方が書かれた書籍『空気の研究』から引用させていただいています。

山本七平さん、日本を代表するような評論家で有名なので、ご存知の方も多いかと思います。

にしても、「空気」を研究するって、なかなかすごいですよね。
これ、山本七平さんが研究しているから良いものの、知らないおじさんが「おれはぁ、空気について研究しているんだ」と言ったら、ヤバい人だなぁ、ってなりますよね(笑)

ちなみに、ここで言う「空気」というのは、酸素とか二酸化炭素のような気体を意味する「空気」ではなく、「空気を読む」の「空気」です。

先に、10秒でこの本をまとめておきたいと思います。
「日本人は、諸外国と比べて、その場の「空気」で判断を下すことが多く、時にそれは大きな危険な結果を呼ぶ。それくらい、「空気」は怖い存在。だから、「空気」から解放されて、判断を下すことが重要だよね。」
これが、この本のまとめです。

日本島国で、ほぼ単一民族のような国家です。
そうですよね。普通に生活をしていたら、圧倒的に日本人と接することが多いですよね。

それは、良い面も悪い面も生みます。
外国の影響を受けにくく、国民がまとまりやすい。これは良い面です。
一方で、同調圧力が生まれやすく、空気で判断することが多くなる。これはどっちかというと、悪い面です。

空気的判断の失敗例

さて、「空気」で判断して失敗した事例として、『空気の研究』著者の山本七平さんは、戦艦大和の沖縄特攻を挙げています。

戦艦大和と言えば、太平洋戦争のときに、日本が莫大な投資をして手に入れた戦艦です。
当時、世界最強の戦艦と言われていました。
しかし、世界最強とは言われているものの、戦艦大和はなかなか出番がなく、出撃の機会を待ち続けていました。
そして、戦争も終盤になってきて、日本が負けてしまうんじゃないか、という雰囲気が流れてきたその時、軍司令部は戦艦大和の沖縄特攻を指示します。
この時の状況を詳しくお話しします。

1945年(昭和20年)4月5日。第二艦隊司令長官の伊藤整一は、戦艦大和の沖縄特攻を命令されます。
伊藤はこの無謀な作戦に納得がいかず、受け入れません。
なぜなら、沖縄に到着するまでに、アメリカ軍に攻め落とされることが、明らかに分かっていたからです。それは、命令を受けた側だけでなく、命令を下した側も分かっていたことでした。そう、作戦が失敗すると分かっていながら、当時の日本軍は沖縄特攻を命令したわけです。
しかし、当初は沖縄特攻の命令を受け入れられなかった伊藤整一は、これを受け入れることになります。
伊藤は、海軍兵学校時代の後輩である連合艦隊参謀長・草鹿龍之介中将から「一億総特攻の魁(さきがけ)となって頂きたい」と言われると、「そうか、それならわかった」と納得するのです。
その後の結果はご存知の通り、作戦は失敗に終わり、約3,000人の乗組員が犠牲となりました。

物事の判断基準には2つあると言います。
「論理的判断基準」「空気的判断基準」です。
その名の通り、論理で物事を判断するか、空気で物事を判断するかの違いです。

先ほどの戦艦大和の例は、明らかな「空気的判断」です。

勿論、悪い例ばかりじゃありません。空気的判断による良い例もあります。
例えば、明治維新
明治維新は、明らかな空気的判断ですが、結果的に国としてはいい方向に行ったと言えます。

しかし、著者の山本七平さんは、この「空気的判断」に警鐘を鳴らします。

空気的判断を打破する方法

では、そんな空気の存在を打破するためには、どうしたらいいのでしょうか。
山本七平さんは、「水」だと言います。

「水を差す」という言葉がありますが、その水です。
簡単に言うと、「空気を読まない」ということです。

一旦整理しましょう。
この本が言っていることは、「日本人は、物事を判断するときに、空気に流されがち。それは、とても危険なこと。だから、空気を読まないようにしましょう。」という、言われてみれば当たり前のことを言っている訳です。

日本人は、反対の意見を言うことを、とてもネガティブに捉えます。
そうですよね。会議の場で、みんなの意見がまとまっている中、「いや、僕はそう思いません。こう思います。」というのは、あんまりやりたくないですよね。
でも、これって、例えばイギリスとかアメリカの文化では全く逆なんです。
さっきのようなシチュエーションで自分の意見を言うことを、英語では「controversial」と言って、「議論を呼ぶ」という意味で言います。
日本では「波風をたてる」みたいなネガティブなイメージで捉えますが、イギリスとかアメリカでは「当たり前と思っていたことを考え直して、アップデートしていく」っていう良い意味で捉えるんです。

伝統工芸と、空気の研究~伝統工芸が生き残っていくために~

で、僕が今回言いたいことはここからで、山本七平さんが言った「空気的判断」が、伝統工芸の世界でも、ものすごく根付いていて、変えていかなくちゃいけないなぁ、ということです。

PERIMETRONのメンバーの方々が、福井の伝統工芸に携わって書かれた本の中身を読むと、いい意味で「空気を読まない」言葉がつらつらと書かれています。
誤解のないように強調しておきますが、僕は、彼らが発する「空気を読まない」言葉をめちゃくちゃポジティブに捉えています。
正直、「外部の人間が分かりもしないのに、何を言っているんだ」という声が出てもおかしくないくらい、ストレートな言葉で書かれています。

でも、さっきの話でいうと、彼らの言葉はまさに「controversial=議論を呼ぶ」、つまり、伝統工芸のアップデートに繋がる言葉なんです。
ちなみに、彼らは「伝統工芸なんて言葉、使わなきゃいいのに」とも言っています(笑)

もう一度強調しておきます。
僕は、彼らの言葉をポジティブに捉えています。

伝統工芸の空気的な支配には、勿論いい面もあると思います。
空気的な支配によって、グルーヴをつくって、まとまること。これは良いことです。

でも、未来に進める判断をするときは、空気を読まないことも重要です。
それは、戦艦大和の失敗からも分かることで、伝統工芸が生き残っていくためにとても大事なことだと思います。

日本人にとって大事な伝統工芸を未来に残していくためには、日本人が苦手な「空気を読まない」ことが重要なんじゃないか、という、僕の意見でした。

という訳で、今回は以上となります。
本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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