世界で1番じゃなくちゃダメなんですか?-キャリアを考える(8月12日加筆)

 1 求む!何でもできる人

 かつて、民主党政権だった頃、蓮舫さんがおっしゃいました。
「世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?」
 次世代スーパーコンピュータ開発の予算削減を決定した時に、要求予算の妥当性についての説明を求めた発言でした。
 これに対して、北海道大学名誉教授の鈴木章先生がおっしゃいました。「研究は1番でないといけない。“2位ではどうか”などというのは愚問。(以下略)」

 私は、研究者公募情報を見るのが日課になっていますが、それを見ていてこの上にあげた言葉をよく思い出すのです。
 ここ数年、大学教員の公募にもよくあらわれている風潮のようですが、どうやらこの現世で、大学教員として人より前に出ていくには、「世界一でなくてはならない(実際はそうでなくても、かけがえのない人レベル)」ようです。1つの事が突出してできるのは当たり前で、そのような人がいるのか(怒)と、ちゃぶ台ではなくス☆☆ツリーをほおりたくなるくらいに、あれもこれもできる人が求められているのが現状です。

2 誰でも出られるようになったゆえの高い壁

 昔はクラスで1番、村で1番でよかったのです。パイにむらがる人が少なく、仮にたくさんいても能力よりも身分、家格、伝統がものを言う時代でしたから。しかし、平等と引き換えにそれらが撤廃(薄まり)され、誰でも出られる世の中になった反面、コスパ重視で未経験お断り、すぐに結果を出さないと人間失格である世の中になりました。要は、雇用する側としては、あまり手間をかけたくなく、1人で複数のことができる人の方が人件費もかけなくてもよいからです。悲しくも、今、求められているのは、1人で何でも完璧にできる人=スーパーマンなのです。

 それでは、突出したものがないから、ゼネラリストになるのはどうだろうか?と思っても、研究管理的に全体をみることを主とする教員であっても、語学力の証明(TOEICなど)や情報機器の扱いといった新・花嫁道具的なものはもちろんのこと、やはりあらゆる事が完璧にできる事が要求されています。あまり、要求される業務に関係ないのにです。

 そして、ものすごいハイレベルな内容を要求されない仕事であっても、博士号(博士に匹敵する業績ではなく学位そのもの)と推薦状2通(業績を照会できる人の名前と連絡先2名、私の経験からは3名がMAX)という条件が付加されることもあります。実際の公募内容を見ますと、学位の記述は最初に来ているケースが多いです。批判を承知で書きますと、もはや、出来レースで決まっている人がいて、形式的に公募という形をとったとしか言えないような場合も多々あります。実例ですが、応募した翌日の午後に結果が封書で届いた例もあります。

 そして、めでたくスーパーマン認定されれば、高い給料をもらえるかと言うと、どうもそうではないらしく、”物件”の内容いかんでは、月給20万円にも満たない場合もあるのです。それならば、本人次第で拘束時間をコントロールできる裁量労働制かと言われれば、普通の会社員のようにがっちり8時間労働で、休日も危ういところもあります。最強レベルになりますと、専任であっても、月給の金額と社保の有無も最終段階まで公表しないというところもあります。実例ですが、業務請負契約にして、休暇制度と社保がないところもあります。

 大学教員やそれに準じる仕事=全て裁量労働制ではありません。特に、留学生がからむ”物件”は、がっちり8時間労働を覚悟してかかった方がよいでしょう。どうやら観察をしていると、研究よりも実務に比重がおかれる分野はそういった傾向があるようです。もし裁量労働制が許されるのであれば、そこはかなり条件がよろしいところであると言えます。留学生がからむ”物件”に関しては、大学教員といっても、学部所属ではなく大学の一部署の所属扱いになり、研究室はなく、授業以外の時間は事務職員と同様の業務をし、授業準備はできないところも実際にあります。大学とは言っても、小さい規模の日本語学校に近いイメージだと思った方がよいでしょう。

3 現状で前に出たいなら戦略が必要

 話は脱線しましたが、上記のような厳しい条件であっても、その道で生きていくと決めた人へ伝えておきたいことがあります。後ろ盾がなく、人からの紹介が期待できないのであれば、それなりの戦略を考えなくてはなりません。戦略のない戦は勝てません。研究内容を充実させることはもちろんですが、まず早い段階で進む方向を見定めて、それに必要なアイテムの入手方法を調べ、そこに自分をあわせてもっていくことが必要な能力になるのでしょう。RPGゲームではないですが、足りないものを把握して、アイテムを手に入れていくのです。あまりにその事に時間を割きすぎると、遠回りになってしまい、本筋にたどり着くまでにロスタイムが出てしまうので、そのあたりの見極めは必要ですが、試験とこの手の戦略は逆走して考えた方がよいのです。高速道路の逆走はけしておすすめできませんが・・・。

 結局、人事側としては天才タイプではなく、問題を起こさず無難な優等生タイプがほしいのかなと思ってしまう今日この頃です。ここからはけして誤解をなさらないで聞いてほしいのですが、上記で述べてきたように、人事側があまりスーパーマンばかりを求めると、身体検査済みの紹介物件(公募全体で見れば出来レース的な)で来た人だらけになってしまうと、視野が狭い私などは思ってしまうのです。

4 まとめ

 お題目やご真言のように何度も言うようですが、特に研究者の場合は自己マネジメントが勝負です。研究内容はもちろんのこと、語学力の証明(TOEICなど)や情報機器の扱い+「人脈とコミュニケーション力」・「時流を読み、自分の研究といかにマッチさせるか(需要と供給)」・「自己プロデュース力」がますます大切になるのでしょう。本来は自分が目指す研究に真摯に取り組んだ人間が、職を得る(地位もともなう)というのが望ましいのです。しかし、そういったことだけでは生きられなくなっているのが現状です。

 それでは、一体どうしたらよいのかということを、上記に書きましたが、中でも人脈・良い人間関係は、個人の能力を高める以上に重要なことだと言えます。N○○(特に朝○○か大○に出演して)と一度ご縁を結んだ芸能人が、N○○のドラマで目立った役についていなかったとしても、他局も含めて次から次へと仕事に恵まれる姿を見れば、仕事上も良縁というものが大切であるということが痛いほどわかります。

 自己プロデュース力に関しては、上記に述べた中では、おそらく、1番身につけるのが大変なスキルであると言えます。極端な馬力を使わなくても、まるで普通に息をするように、自分を自然に大きくアピールできる人がいる反面、節操もないくらいにそこら中に顔を出して露出度をあげなくてはいけない人もいるようです。自分を自然に大きくアピールできる人は、まさに先天的インフルエンサーと言えます。どぎつい例をあげると、自分で落としたゴミを拾っただけで、周囲の人に生き仏のように拝まれて、話題になるようなイメージです。

 最後に、研究者や自分の才能を表に出して生きる職業の人にとってのキャリアを広く考えてみます。「陰徳」というものを重んじる宗教の世界では、良いことは人に隠れて行う事が徳を積む(キリスト教では天に宝を積む)と言われています。しかし、どんなに良いことを行っていても、どんなに役立つ研究や仕事を行っていても、それを人が見つけてくれなければ、この世界(この世)では前に出ることはできません。悲しくも、他者の評価を得るという事が、この現世で中心的に生きるということですから。

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