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休日のゴールデンリレー

休日を文字通りの休日として過ごすことができるというのは幸せです。何の用事もない見事にまっさらな時間に、昔から水辺が好きな私が近所を流れる糸田川沿いを散歩するようになったのは必然でした。水量はあまりなく、川幅も狭い非常に地味な川なのですが、遊歩道が整備されていて、お年寄りがベンチで寛いだり、近所の人たちが立ち話をしたり、若者がジョギングしたり、幼い子が自転車に乗る練習をしたりと思い思いの時間を過ごしています。春には見事な桜並木となるかと思えば、アヤメ、パンジー、ラベンダー、ユリ、コスモス、彼岸花、と季節それぞれの花がほぼ一年中川沿いを彩ります。

そんな川べりを遡っていくと阪急千里線の豊津駅に辿り着くのを知った時には驚きました。大阪メトロ御堂筋線江坂駅を北上して垂直に東に折れ、垂水神社前を通って商店街を突き進んで行くと豊津駅の方に出るということは、その前からわかっていたのですが、まさか糸田川を遡っても辿り着けるとは。私たちが住んでいる場所と比べて開発の速度が遅く、子供時代を思い起こさせる昭和の町並みそのままの商店街が今も健在で心が和みます。

そもそもこの豊津という町は、妻が習っているお茶の先生から美味しい和菓子屋さんがあると聞いて知ったのが始まりです。しかも、その名前が「ばってんや」というのが頭に引っかかっていました。糸田川沿いを歩いて、思いもかけず豊津駅に辿り着いた時にまずグーグルで検索したのがこの店でした。店先の地味なオレンジがかった茶色の暖簾に「ばってんや長衛」と書かれているのですが、正直なところそんな暖簾があるのに気づいたのはごく最近のことです。

ばってんや長衛

ここの店は餡が秀逸で、和菓子の種類に応じて、それぞれ豆の素材からこだわり、自然な甘味を引き出しながら、食感も見事に練り上げられています。夏の時期は水羊羹、秋には栗饅頭が我が家の定番で、長い道のりを歩くのが苦手な妻も、ばってんやに行こうよと言えば何とかなだめすかして豊津に向かうことができます。しかし大阪なのに何故ばってんやという屋号がついているのかと気になっていたのですが、お茶の先生によれば、先々代(?)がもともと長崎の出身だから、ということなのです。どのような縁で大阪に、しかも豊津に住み着くようになったのかはわからないのですが、ご近所にこのような美味しい和菓子屋さんがあるのはありがたい限りです。

ばってんやの次に向かうのが、花パン製作所です。実はこの店はその次に紹介するザワカリーに向かう途中で行列をしているのに気づいて見つけたパン屋さんなのです。阪神梅田1階のパン売り場で時々菓子パンが紹介されていたことがあったため、店の名前は以前から知っていたのですが、そのパン屋が豊津にあるとはこれまた驚きでした。ここのパンの特徴は生地にあると私は思っています。噛み締める度に広がる豊かな旨味に、小麦の穂がそよぐ光景が眼前に広がるようです。営業日は水~土曜日で、製作所とついているだけあって、恐らく日~火は商品研究を日夜重ねているのではないかと思わされる職人気質を感じます。今日も照り焼きチキンサンドやクロックムッシュなど5種類のパンを買ってしまいました。

花パン製作所

さて、真打はザワカリーです。何を隠そう、大阪に来て一番といっていいほど感動したのがスパイスカレーなのですが、ここ豊津にもすぐれものがありました。当時、糸田川を遡って踏切を横切り阪急豊津駅に辿り着くと我々を誘導するかのように看板を掲げていたのがザワカリーでした。豊津駅のホームに沿って奥に進むと銀行や美容院があり、その奥に器酒亭という居酒屋レストランがあるのですが、そこで昼時だけ間借り営業しているのがザワカリーです。季節に応じたその日ごとのお惣菜と豆のスープ、そして様々な香辛料が惜しみなく使われたカレーが盛られた絵のような一皿は、一つの具材でもその組み合わせによっても如何様にも楽しむことができ、口の中で繰り広げられるスパイスと食材のコラボレーションに尽きることのない喜びを味わうことができます。しかしながら勿論、食べることができる量というのは限られている訳で、最後の一掬いを口にした時の充実感と寂寥感の入り混じった複雑な思いというのは、表現のしようもありません。それが大阪生活最後の一皿ということになると・・・。

こうして、我々夫婦の大阪での休日のゴールデンリレーは完結しました。

絶品のスパイスカレー(於ザワカリー)


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