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思い出が消えるところ

大勢のロシア人には、特にソ連時代に生まれた人には、ダーチャという場所は様々な連想が重なっているところです。「ダーチャ」は郊外にあって、普通夏に使われる庭のある一戸建ての家です。普段このような家の近くには森とか、畑とかがあって、雰囲気が町のアパートとは全然違います。ダーチャの連想というと、自然と休暇だけでなく、古き良き時代の思い出、居心地良さ、心細さ、何かを切望する気持ち 、悲しみなどの複雑な気持ちが頭に浮かびます。しかし、その気持ちの中で一番強いのは失踪の感じかもしれません。「ダーチャ」の意味を伝えることは、何世代もの子供時代を言葉で表すことになります。私の意見では、ロシアのダーチャは記憶と個人の歴史を重ねる場所です。その意味では、町のアパートより雰囲気を強く感じる場所です。
そういうダーチャの特徴も、人間の記憶の特徴もロシアのアーティストでイラストレーターのターニャ・イワンコワさん(Tanya Ivankova)の「33キロメートルのホーム」という絵のシリーズでは強調されています。記憶が体験をどのように変化させると、事実の断片しか残らなくなるのでしょうか?

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ターニャ・イワンコワさんはドライポイントとモノタイプを共に使って、まるでタルコフスキーの『鏡』のように散らかした非線形の幼少の思い出を完璧に描きます。

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アーティストは自分の作品のことをこう語っています:
「思い出は物じゃない。棚に置けない。思い出されたものがそのままに存在し続けるはずもない。何かを思い出したら、きっと勝手にその思い出を変更する。思い出の森は自由に生き伸びて、咲いて、枝をより合わせて、衰えて、死んでしまって、想像の地になる。33歳にもなると、幼少の思い出は朧気になる。このシリーズは私の幼少の思い出が消えるまでの最後に残ったものかもしれない。」

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ターニャ・イワンコワさんはモスクワのアーティストでイラストレーターです。モスクワ国立教育大学卒業後、British Higher School of Art and Designのイラスト学部を卒業しました。現在は誌面イラスト、表紙のイラスト、教師などの仕事をやっています。「描きに来て」というアートスクールの共同創設者です。自分の作品ではエッチング、モノタイプ、油絵、デジタルグラフィックなど、色々の技法を使っています。

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アーティストのホームページとインスタ:
https://www.behance.net/vilkin
https://www.instagram.com/tanyaivankova/ 





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