そりぼね

どこでもないどこかが書きたい

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最近の記事

田舎の踊り手

大学合格を期に地元を離れた。 地元の村は物心ついた頃から行事に奉ずる踊りを習う。私の家は踊り手の講師として父が舞型の手本を公民館などで教えている。そんな家に数年越しで帰ったら、主観では折り合いの良くない父が腕を組んだ仁王立ちで出迎えてくれた。家の玄関の前だ。 「舞型を見る」 久々に再会する娘に易々と敷居を跨がせてなるものか、そういう気概があふれでていた。 帰郷して家にも入れて貰えず荷物だけ取られて公民館送りとなった。同じく帰省していた弟はいつの間にか運転免許を取得していた。田

    • 思い出したこと

      祖母が先に逝ってしまった。忘れっぽくなった祖父は思い出すように祖母を捜してた。家のどこに祖母が居て、何かをしていて、探せばすぐに見つかるし、出掛けるときは声をかけたはずだから、祖父は「いってきます」がないことを不思議がったのかもしれない。お墓に入ったけど、たぶん祖父にはそれじゃ足りない。目を見て聞きたいし、聞き逃したことを叱られることもあったろうから、とにかく祖母が足りない。 テレビの前の四角い座卓を挟んで上座に祖父が、下座に祖母が、それぞれの座椅子に座って向かい合って、時々

      • でてこない

        書こうと思うが書けなくてペンをいじる。 一文字では意味がない 二文字書こうと続かない 三文字書いて繋がらない 手元を見ていた目を上げて、本棚が恋しい。 言葉を拾いに席を立つ、並んだ背表紙を見る。 あの本も、この本も、読んだのに 言葉はガラスの破片になって肺にいる。 喉につかえて押し潰されて胸に戻って燻っている。

        • 釣り

          桟橋の始まりに立って抜けるような青空を見ていた。 水平線は陽炎でできている。桟橋の先端に座って釣糸を垂らす。仕掛けに寄ってくる小魚の群れで竿先が動いた。 糸を巻き上げれば仕掛けに光る生きたウロコ。白銀の腹にうっすら緑が見える。網があればもっと多く捕れるらしいが、道具より前に技術がない。今晩に食べるだけなら地道で充分だ。 ワタを抜いたら素揚げがいいか。酢醤油は3日くらいかかる。釣りたてを生食するにも青魚は避けたい。素揚げ、唐揚げ、手間はかかるが甘酢あんかけもいい。余ったら明日食

        田舎の踊り手

          聖女は召喚された

          聖女と神は結託して召喚者達を騙すことにしました。 飛び込んできた少女を聖女と偽って、本物の聖女は王宮から出ていきました。 偽の聖女は王妃になりました。 本物の聖女は世界中を歩きました。 世界が良くなって、聖女の力が弱くなった王妃様の前に旅人が現れます。 「君の小指を返しに来た。自由に歩けるし、走ることもできるよ」 王妃様は召喚された日に片足の小指を失って歩行が自由ではありませんでした。 王妃様は、あの日の召喚陣に飛び込んで脚を二つとも失っていましたが、聖女が神に取引を持ちかけ

          聖女は召喚された