思い出したこと
祖母が先に逝ってしまった。忘れっぽくなった祖父は思い出すように祖母を捜してた。家のどこに祖母が居て、何かをしていて、探せばすぐに見つかるし、出掛けるときは声をかけたはずだから、祖父は「いってきます」がないことを不思議がったのかもしれない。お墓に入ったけど、たぶん祖父にはそれじゃ足りない。目を見て聞きたいし、聞き逃したことを叱られることもあったろうから、とにかく祖母が足りない。
テレビの前の四角い座卓を挟んで上座に祖父が、下座に祖母が、それぞれの座椅子に座って向かい合って、時々言い合って、私の見てないところだと小さく笑いあったりしたのかもしれない。お揃いじゃない座椅子が二人らしい。
納骨されて隣にいるけれど、形じゃなくて祖父は座椅子に座る祖母のところに「ただいま」を言いにいった。きっと「牛を見に行ってた」とか言って祖母に叱られているんだ。もう息子に譲ったのに心配性で落ち着かないのを祖母が困って叱っていた。きっとやってる。祖父は忘れっぽいからきっとやってる。
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