ろび太

色々駄文を書きますので、よろしければご覧ください。

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最近の記事

ニャンコ先生

 俺様は猫である。名前はもう無い。  あったけど忘れた。  記憶にあるいっとう最初の場面は、母ちゃんの少し骨ばった腹に包まれて、にゃあにゃあと鳴いている夜。  北斗七星というのか、南十字星というのかは知らないが、今にも降ってきそうな夜空の星がたまらなく怖かった。  綺麗だなんて、これっぽっちも思わなかった。  暖かくて、暑いくらいの夜だった。  次の記憶は雪の日。  道路の端っこに追いやられる、血まみれの母ちゃんと兄ちゃんと弟。  みんな、ぴくりとも動かなくなって、恥ずか

    •  ――かの文豪、夏目漱石は「I LOVE YOU」を和訳した際、「月が綺麗ですね」と訳したってご存知ですか? 英語教師でもあった漱石が、「私は貴方が好きだ」と生徒が和訳したことに対し、「日本人はそれほど直接的な表現は好まない。『月が綺麗ですね』ぐらいがよかろう」と言ったとか言わないとか――  「へえ、そんな話があるんだ。HBさん、ありがとうございます。なるほどなあ。でも今時の若い子だと、『あなたが好き』って言うよりは、逆に『月が綺麗ですね』って言う方がハードル高そうな気がし

      • 千年ババア

         入口の崩れかけた木戸をくぐると、正面に母屋が見える。  母屋の周囲をぐるりと取り囲むように背の高い雑草が生い茂っていて、まるで来るものを拒んでいるようだ。  肩のあたりにまで届きそうな草を手で押し分けながら、カズヒコは今くぐった木戸の方を振り返る。  「おい、早く来いよ」  見ればユウタは「やっぱりやめようよぉ」と、木戸の前で泣きべそをかいている。  ふうっと鼻から大きく息を吐くと、「いいから行くぞ!」とカズヒコは引き返し、ユウタの腕を引っ張った。  前々からみんなの間で

        • エビフライ

           『お父……さん』  『……まだ、俺の事、お父さんって呼んでくれるのか?』  『どこに行っても、どんな風になっても、私にとってのお父さんは……お父さんだけだよ』  『な、夏美……』  くっ、と声が漏れそうになり押し殺すが、滲んでくる涙と鼻水は抑えようがない。  良いドラマだ。実に良い。親子の絆とはかくありたいものだ。  この役者もしばらく見なかったが、こんな自然で哀愁漂う芝居をするようになったとは。人間、歳を重ねるというのも悪い事ばかりではない。  「なにこのドラマ。ちょ

        ニャンコ先生

          魔女

           僕の前には魔女が座っている。  別に知り合いではない。友達というわけでも、ましてや無二の親友でもない。それでも魔女はにやにやと口許に不気味な笑みをたたえて、アイスティーをストローで吸い上げた。  「私、魔法が使えるの。信じる?」  ごくりと喉を鳴らしてから、さっきからもう何度目かになるそのセリフを、再び魔女は僕に投げかけてくる。  癖っ毛の、その夥しいボリュームの髪で隠された目をじっとりと向けられているような気がして、僕はテーブルに目を伏せた。  「あのう、僕、そろそろ行

          タイガーマスク

           「ちょっと、しばらく留守にする」  まるで旅行に行く報告をするかのように、チャコちゃんは彼にさらりと告げた。  チャコちゃんは彼より十ほど歳上で、二十歳を少し出たばかりの彼は、仕事のイロハから酒の飲み方、果ては女性の口説き方まで、実に様々な事を彼女から教えられた。  恋多き人で、彼が知る限りでも三年の間に五人の男性と代わる代わるに付き合ったのだから、恋人とは呼べない相手も含めれば本当はもっといたのかもしれない。  男性と別れるたびにチャコちゃんは彼に酒のお供を命じる。

          タイガーマスク

          日曜日

           ツイていない日というのは、何をやってもツイてない。  久しぶりに『ギックリ腰』というセルフ軟禁状態になるような病に襲われて、ようやく痛みを気にすることなく動けるようになったのに、作りかけの小説の続きに取り掛かろうとパソコンを開けば画面が暗いまま立ち上がらない。  気を取り直して大好きな稲妻系のチョコレートを齧ると、爽快な歯ごたえと共に奥歯の詰め物がとれた。  ドライヤーが火を噴き、お気に入りのジーンズのお尻の辺りに破れを見つけながら、外出の支度をする。  家の前で犬に吠え

          ペテン師

           稀代のペテン師は21世紀を待たずして、それはそれは潔く鮮やかにブラウン管から姿を消した。  その立て板に水の口先三寸に、訳知り顔で頷く人を振り向きもせず。  背中で舌を出しながら。  20世紀と共に。  あの頃、少年は、どんな事柄もつらつらと流暢に語るそのペテン師にえもいわれぬ怖さを感じていた。  土曜日の深夜。ブラウン管には、いつものようにペテン師と、そのペテン師にいつも踊らされる落語家のやりとり。  なにか凄いものを見ている気がして、だけどもそれはただ面白くて、少

          ペテン師

          線香花火

           あと少ししたら、バスが来る。  都会へと帰って行く人を乗せる高速バスが、遠く向こうの方にぼんやりと見えてくる。  「裕ちゃん。来年はさ、手持ちだけじゃなくて打ち上げの花火もしようよ。パーッと派手なやつ。ねっ? 約束ね」  裕ちゃんは分かったとも何とも答えない代わりに、フーッと大きくタバコの煙を吐き出した。  「タバコもそろそろ時代遅れだよ? 少しは減らしなよ。もう良い歳なんだから」  昔から何を言ってもただニコニコと笑うだけだったけど、そのニコニコした顔が好きだか

          線香花火

          うらぼんえ

          子供の頃、毎年、8月の13日にはお寺に行って、納骨堂にお参りした。 住職のじいちゃんと父や母が雑談をしてる間、納骨堂の裏手の林で、カブトかクワガタがいないか探しながら、いつもよりも濃い線香の匂いと、微かに混じった甘い果物の匂いが、好きだった。 帰り道、父と母はきまって 「爺ちゃんたち背負っちょうき、重たいやろ?」 と笑った。 なんで、爺ちゃん達が自分の背中に乗っかってるのか、そもそも、お盆ってなんなのかもよく分からなかった。 家に帰れば仏壇にお参りして、 「ほら、爺ちゃ

          うらぼんえ

          ヤキニクデイズ5

          前回までのあらすじ ふたたび、浜辺でイジメられている亀を助けた主人公。 助けてもらった亀はひたすら感謝して、 「あのー、出来ればお礼とかしたいんスけど、息とか長く続く方っスか?」 と言われ、、、。 入れ歯のとれたエンジェル 今やマスクは、日常生活に欠かせない必須アイテムになった。 着けていないと、場合によっては、四次元ポケットを持っていないドラえもんぐらい冷たい視線を向けられることもあるので、注意が必要だ。 ノーマスクで能天気に過ごしていた日々が懐かしい。 世の中が、

          ヤキニクデイズ5

          Mother

           時々、さだまさしさんの曲を無性に聴きたくなることがある。  特別、ファンというわけではない。  それでも有名どころの曲は、結構知っている。  『精霊流し』とか『関白宣言』とかの代表曲というべき曲はもちろん、『無縁坂』とか『主人公』とか『雨宿り』とか『フレディもしくは三教街』とか『道化師のソネット』とか。  小さい頃、母はよくラジカセでさださんのカセットを聴いていた。  母は、さださんの曲が好きだった。  洗濯物を畳むとき、草むしりのとき、針仕事や台所に立つときも、い

          ヤキニクデイズ4

          前回までのあらすじ 小学生の頃、のび太が食パンをくわえて 「遅刻だ〜」 と学校に行っている姿に憧れて、一度マネをしてみた事があります。 送り出す母の悲しそうな顔を、今も忘れられません。 母さん。 あなたの息子は、無事に43になりましたよ。 今では、朝はもっぱらおにぎりですよ。 トイレのアヤ子さん 店のトイレは、個室が2つ。 一応、男女は分けられてたけど、これといって何の変哲もないTOTO便器が置かれているだけの、つつましい普通のトイレだ。 たしか、当時は今よりも珍しか

          ヤキニクデイズ4

          ヤキニクデイズ3

          前回までのあらすじ 最近、仕事中におしゃぶり昆布ばっかり食べてます。一日2袋ペースです。 オススメはファミマのおしゃぶり昆布紀州梅です。 毎朝買います。しゃぶ中です。 クリスマスに焼肉を ホール担当のミカちゃんは、流行りに敏感だった。 茶髪に両耳ピアス、制服にはルーズソックス、私服には厚底を履いて、華原朋美のマネが上手い、長与千種似のたくましい女の子だ。 ミカちゃんは、暗算がとにかく早くて、5ケタぐらいまでなら2、3秒で暗算出来ていたように思う。 レジ担当になると、レ

          ヤキニクデイズ3

          ヤキニクデイズ2

          前回までのあらすじ とある浜辺で子供達にイジメられている大型の亀を助けた主人公。 助けた亀から「ねぇ、、、ウチ、来ない?」と誘われて・・・。 ショーシャンクのゲンちゃん キッチン担当のゲンちゃんは、いわゆるフリーターで、ロックンロールに情熱を注ぐ22歳のバンドマンだった。 メタリカとかブラックサバスとかアイアンメイデンなんかが大好きで、バキバキのメタル信者かと思いきや、長渕を愛聴したりもしていた。 長渕を真似してたのか、頭にバンダナを巻いたスタイルがゲンちゃんのお気に

          ヤキニクデイズ2

          ヤキニクデイズ

          窓から投げたスーパーボールを、キムタクがカッコよくキャッチした96年。 僕は客が投げてきたおしぼりを顔面でキャッチしていた。 修羅の国、福岡。 その最奥にある筑豊は、選ばれし修羅たちが集う街と言われる。 この街の片隅の焼肉屋では日々、修羅たちの怒号が飛び交っていた。 高校2年の冬。 その街で僕はアルバイトに明け暮れた。 当時、僕は某ハンバーガーショップでのアルバイトがほぼ決まっていた。 そんな時、病気のおっかさんとお腹を空かした弟や妹をもつ友人が、血眼になって働き口を探

          ヤキニクデイズ