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World Coffee Research 新5ヵ年戦略②

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

前回の続きになりますが、今回のテーマではWorld Coffee Researchが公表した『新5ヵ年戦略』の内容を噛み砕きながら解説する内容となっております。

こちらの記事では、

・気候変動によるコーヒーの生産の危機に必要なコーヒー農業のイノベーションは何なのか?
・コーヒー業界と生産国政府の足並みの乱れによって不利な立場に陥っていく生産者を支援するべく、WCRは5ヵ年戦略を通じて農業研究の必要性をどうアピールしていくのか?

について詳しく解説しています。

ホームページで掲載されている資料と併せて読む方がおすすめですので、ダウンロードされていない方はこちらからどうぞ


4)変革してゆくコーヒー農業のかたち

4-1)気候変動は現下の危機である

WCRは『気候変動危機に直面する中でコーヒー生産エリアの品種の多様性を保全すること』を2021年〜2025年の戦略目標に掲げました。

気候変動は長期にわたりコーヒーに影響を及ぼす唯一かつ最大の脅威であり、すでに影響を及ぼしている国も多いです。

「エチオピアのある地域には、何千ヘクタールとは言わないまでも、何百ヘクタールもの枯れ木があります。」
「ここのコーヒーは世界的に有名で、何世紀にもわたってその地域でコーヒーが栽培されてきました。しかし、あらゆる(気候変動)シナリオのもとでは、さらに悪化していくだろう」。

(出典:The Guardian/Global warming brews big trouble in coffee birthplace Ethiopia)

つまり、この気候変動によって起きる影響を“将来の問題”として捉えるのは間違いなのです。

4-2)気候変動による3つの影響

すでに気候変動の影響で、コーヒーのバリューストリームにおいて多大なリスクが増えてきています。

・農園の経営計画を悪化させ、より困難でリスクをはらむものにしている。
・異常気象(特に熱波、干ばつ、洪水)の推移如何では、その年の収穫量が大きく減少する。

より小規模な農園を経営する農家ほど、気候変動による影響で経済危機や食糧不安にさらされ、コーヒー労働者に対する『物理的リスク』が高まる可能性があります。

こうした気候変動によって起こるコーヒー産業への影響には、以下の3つが考えられます。

①品質の低下
②生産性の低下
③経済的脆弱性の増大

この3つの影響は課題としてそれぞれ解決に向けて取り組み、WCRが提案した5ヵ年戦略の”3つの目的”の達成へと繋がっていきます。

4-3)気候変動対策となる“農業イノベーション”

気候変動によるコーヒー生産のリスクばかりが唱えられますが、一方でWCRは「これらの気候変動目標をイノベーション(農業変革)の設計に含めることにより、コーヒー農業のシステムは環境課題への解決策の一部としてもなり得る」と述べています。

また、イノベーションの設計に『気候変動に関する目標』を含めることで、生産システムにおける炭素隔離の拡大、排出量の削減、またはその両方を通じて課題解決を加速させることも可能です。

課題ごとにしっかりと的を絞って研究開発を進めつつ、あらゆる可能性を踏まえて行動していくことで、農家や各国が維持に努めている生産多様性が品質の低下、生産性の低下、脆弱性の増大などによって失われるという状況を回避できるのです。

例えば、コーヒーの生産によって発生する二酸化炭素の排出量を軽減し、さらに気候変動に対するコーヒーの耐性力、対応力を高めるにはどのようにすべきかという問題について考えてみます。

(画像引用:独立行政法人農業環境技術研究所/土壌呼吸:土から発生する二酸化炭素

地球温暖化に多大な影響を与える二酸化炭素は人間の活動によってのみならず、土壌からも大量に発生しています。

発生する原因の一つとして、植物の根の呼吸(根呼吸)が挙げられます。植物の根も新陳代謝を行い、酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しているのです。

もう一つの原因は、土壌の中の微生物です。それらの微生物は、落ち葉や枯死根、倒木などの有機物を取り込み、分解して、二酸化炭素を排出しており、この活動を微生物呼吸と呼びます。

微生物呼吸は、土壌から発生する二酸化炭素のうち、7割程度に相当すると考えられ、温度上昇によって指数関数的に増加するという特徴があります。そのため、地球温暖化によって温度がわずかでも上昇すれば、微生物呼吸が顕著に増加し、(光合成による二酸化炭素吸収が間に合わず)さらに地球温暖化を加速させてしまうという悪循環が想定されます。(参考:国立環境研究所/なぜ土から排出される二酸化炭素が増えるのか

・・・

この問題に対するアプローチとしては、コーヒー生産のシステムにおける炭素隔離(植物が光合成により二酸化炭素を吸収し、植物体中にセルロースやリグニンの形で炭素を貯めること)の強化や、排出量の削減、あるいはその両方を通じてコーヒー生産(農業)システムのイノベーションを図っていく必要があります。

そのアプローチの中には、気候変動が悪化していく中で現在最も安定したパフォーマンスを発揮できるコーヒーの品種を把握することや、気候変動により適応できる新しい品種を作り出すことも含まれます。

また、生産力を向上させ、農業による炭素排出の最大の原因である土地利用転換の代替策を生み出す努力も必要です。

このように、取り組みの段階で将来的な状況に関する優れた中期の予測指標を立てる機会を得られるのです。(参考:Perfect Daily Grind/Resolving environmental issues in coffee production…コーヒー生産における環境問題の解決について

4-4)岐路に立つコーヒー農業

しかしこれらの取り組みは、特に小規模コーヒー生産者の多くに対して、改良された種子・苗木の利用を積極的に促すような取り組みと併せて実施されない限り、十分な成果は期待できません。

コーヒー農業が直面している生産課題や機会に対し、これらのイノベーションがどう対応できるかどうかが、今後50年間のコーヒー生産の行方を大きく左右します。

・・・

気候変動による生産危機と価格の低迷は、各国のコーヒー農家にかつてないプレッシャーを与えています。そんな中、ほとんどの(小規模)農家は農園内の生産技術向上も、農園の経営を維持するためのサポートもあまり受けられていないのです。

その結果、グローバル化が進む中でコーヒーで生計を立てることが厳しい小規模農家はコーヒーの生産業から離れ、別の手段で収入を得るケースが増えてきています。

経済学者のジェフリー・サックス氏はこのコーヒー産業の供給リスクの懸念として、「このような統合は今後も続き、その結果、産地、味、品質などの生産多様性が低下し、小規模農家の知識や技術を得る機会がどんどん失われ、コーヒーの需要が減退し大幅な価格変動、市場の混乱が起こる可能性がある」と指摘します。

Guatemala Santa Clara農園で育つコーヒーチェリー

コーヒーという作物の世界的な価値の大きさに比べ、コーヒー農業研究への投資があまりにも少ないため、コーヒーは他の作物と比べて経済成長の原動力としては乏しい存在としてみられています。

今のコーヒー農家と農業システムは、広範な疫病の流行や数年にわたる干ばつといった地域的・世界的な大災害など、小さな危機の積み重ねに耐えかねない状況が続いています。

この転換期をうまく乗り切れるのはどの生産国のどの農家なのか?

風味特性、サスティナビリティ、そして事業に関して、コーヒーの焙煎業者や飲用者に対してどのような影響が及ぶのか?

この議題のベースにあるのは、国にとってコーヒーは農業全般に匹敵するほどの経済成長を示していないという事実があることです。

消費者が求めるような、需要の高いコーヒーに依存している事業者にとっては、この事実は明らかな警告となるはずです。

コーヒー農業の研究開発、そしてそのアプローチをどう戦略に適用していくかが、目標達成の成果に影響を与えるのです。

4-5)生産国政府の優先事項とコーヒー業界の優先事項

世界的にコーヒー産業、あるいは各国のコーヒー農業研究プログラムは、国際的な取引で得た生産税や輸出税が地域の研究開発に予算として再投資されることで成り立っています。

つまり、コーヒー業界に携わるすべての事業者(焙煎業者や農家)たちにとっても、自分達のコーヒービジネスはこの再投資に依存している状態にあるので、コーヒー業界が今後経済的な成長を見込めない限り今後数年間はこのシステムが続くだろうと言われています。

実際、一部の国においてはこの研究プログラムがコーヒー農家にとって種苗の主要な供給源となっています。

しかし、その研究を実施するための予算は、徐々に減少しているのです。

・・・

通常、国が取り組む農業全般における研究プログラムには、国の利害関係者(ステークホルダー)らによって設定された優先事項に焦点をあて、予算が割り当てられます。

つまり、どの分野に力を入れていくべきかの判断は国が行い、農業研究機関は与えられた限りある予算の中で、特に生産面に焦点を当てつつ各農業分野の価値を高めるために財源を集中させます。

しかし、コーヒーという分野においては、事業者や企業は品種開発や生産技術の発展に向けた投資に財源を当てたいとする一方、国にとってはコーヒー農業は近隣諸国との競争手段としての側面が強く、双方でコーヒー業界に対して優先させたい取り組みが食い違う“優先事項の乖離”が起きてしまっていたのです。

このような歴史的(政治的)な背景から、品種開発を含む技術設計において、コーヒー焙煎業者やコーヒー製品開発者が集中させたい分野に財源を十分に回すことができず、生産多様性への投資が制限されていたのです。


(引用:World Coffee Research/Strategy 2021–2025日本語版

“生産多様性の保全をするための生産国の競争力強化”と、”他生産国と渡り合うための競争力強化”は、国レベルからしたら同じように見えたとしても、生産側の立場では全く違う取り組みの内容となります。

その認識にギャップが生じたことによって、国は競争力の乏しい農業分野には積極的な投資の分配は行わず、事業者たちは貴重なコーヒーの供給源を得る機会をどんどん失ってしまっています。

しかし、投資が制限される中でも、研究プログラムが実現可能とする他国パートナーとの連携を通じた取り組みが例として挙げられています。

・安価なDNAフィンガープリント法などの新技術を国内の生産システムに適用し、コスト削減と苗木の品質向上の両方を実現。
・コーヒーの品種改良に新たなアプローチやツールを採用し、限られた遺伝資源を用いて品種改良の進展を加速させる。

これらのプログラム案は、この戦略にとっての大きなメリットと課題達成の可能性を見出します。

5)5ヵ年戦略におけるWCRの役割

5-1)WCRの価値提案

これまで述べてきたコーヒー農業の危機、供給リスクなどを踏まえて、WCRは5ヵ年戦略を通じて取り組むべき自身の役割ついて、以下のように価値を提案しています。

”WCRは、生産国の多様性を後押しするグローバルな研究開発プランを推し進める”
・コーヒーの経済的利益の拡大とその農家への分配を行う
・差別化された高品質なコーヒーの供給ルートを獲得したいと考えるコーヒー事業者にコミットする。

そのためにWCRは、以下の役割を担うことで今回の戦略における価値を示します。

①農家やコーヒー事業者、コーヒー生産国のニーズと利益を結びつけて調整
②業界と農家の双方のニーズを満たすようなイノベーションを生み出す
③それらイノベーションを可能にするとともに、コーヒーの利益に繋がる農業投資を拡大活用していく。

これらのWCRの役割について、解説していきます。

5-2)橋渡し役となるWCR

WCRはこの戦略を通じて、業界の市場需要と各国の研究プログラムの橋渡し役となることで、バリューストリームの両端(生産者から、焙煎業者・バリスタまで)を結びつけ、共通のビジョンを双方で明確にすることを提案します。

コーヒーの輸出に成功している国は多い中、その研究制度は実際には資金不足に陥っており、買い手や消費者から明確なニーズを受け止めることが難しい状況にあります。

この課題に対し、WCRは前項で述べたコーヒー業界と各国のコーヒー研究プログラムの優先事項を一致させることで、規模の大小問わずに農家、生産国、そして消費国のコーヒービジネスのバリューストリーム全体へと価値をもたらすことができるのです。


(引用:World Coffee Research/Strategy 2021–2025日本語版

この役割において影響を与える最も強力な方法の一つは、『技術を共同開発する』ことです。

例えば、コーヒー農家とコーヒー焙煎業者(コーヒーの2つの“エンドユーザー”)の両方のニーズに応える品種の開発に取り組めば、ユーザー主導の設計が確実に行われます。

このようにエンドユーザーに焦点を当てることで、農家は業界の意見(ニーズ)を聞きながら設計を進め、自身の農園の栽培環境でのパフォーマンスや、市場での販売に確固たる自信を持つことができます。

さらに、国レベルで研究開発の評価を得ることができ、気候変動に対応しうるコーヒーの新品種が開発され、広く普及する可能性が高まっていくのです。

5-3)テコの役割を果たすWCR

WCRの会員企業の主導的なポートフォリオ(世界最大のコーヒーブランドのいくつかを代表する、世界の200以上のコーヒー焙煎業者、小売業者、サプライヤー及び事業者連盟)によって、世界共通のあらゆるコーヒー研究の活動に追加のリソースの動員を可能にします。

つまり、各国のコーヒーの研究開発プランに向けて、国内外の官民部門に働きかけ、グローバルな共同投資を先行して行うという役割をWCRが担います。

この役割については、多くの国にとってコーヒーの輸出収入が重要な意味を持つことを鑑みて、共同投資によってコーヒー産業に価値がもたらされるとわかれば、各国政府はコーヒーの研究開発への新規投資を進めていく狙いがあります。

また、多くのコーヒー輸出国、特にアフリカとアジアの輸出国では、農業全般の成長を可能にする健全な環境が整い、コーヒー部門をより強力に支援するために必要な多くの材料も揃っています。


(引用:World Coffee Research/Strategy 2021–2025日本語版

この役割においてWCRは、以下の活動の必要性についても、各国政府に呼びかけます。

・強力なレバレッジ効果を働かせてコーヒー農業のイノベーションを加速させるため、主要な地域内において、各国の研究開発インフラの維持・強化の支援すること
・WCRのプログラムやパートナーシップの効果を高める可能性をもつ、先進的な研究資源の存在について

5-4)コーヒーの持続可能性を推進するWCR

全般的な農業の研究開発は、あらゆる気候変動、経済、地域環境などの問題を解決する鍵となります。

・生産性と収益性の向上
・気候変動対応性と適応力の強化
・温室効果ガス排出量の削減
・土壌の健全性と保全
…etc

研究の成果によっては、最小のコスト(財務、人材、自然資源的)で最大の利益を生み出すコーヒーの新たな農法を特定するのに役立ちます。

さらに、農業の研究開発によって生み出される知識、技術、資源、効率は、農業全体のバリューストリームを通じて各部門へと共有され、経済成長の支えとなるのです。

コーヒー部門においては、国連が策定した持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる重要な可能性にも成り得ます。

それには、コーヒー農業のさらなる進展、前向きなイノベーションが不可欠なのです。

例えば、

・農家が気候変動に適応できるよう支援する技術で、気候変動問題に正面から取り組む
・温室効果ガスの排出削減や農場での炭素貯留の改善といった気候緩和目標に貢献

など、実際はSDGsの17項目ほぼすべてがコーヒー農業と何らかの関連性を持っていますが、そのうちの8つ(=1、2、8、9、12、13、15、17)は、持続可能な農業開発を可能にするためのアップストリームの可能性を持つ、コーヒー部門での農業研究開発の成果によって特に影響を受けます。

WCRは、その取り組みを通じて、各国および業界の持続可能性を達成を支援します。

③へ続きます。


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