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World Coffee Research 新5ヵ年戦略①

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

World Coffee Research(WCR)は、コーヒー生産者の生活向上を目的とし、2012年に設立されたコーヒー研究機関です。

この機関が発信するコーヒーの研究成果は業界において非常に有益で発展性のあるものであり、我々コーヒー業界に従事する者たちにとっては消費者や自国のコーヒーシーンに共有するべき重要な情報が多く掲載されています。

さらに、その研究成果の多くは、コーヒー生産者に安定した生計を立てるための改革をもたらします。

このWCRが、気候変動危機に直面したコーヒーの未来を維持していくための計画『新5ヵ年戦略』を発表しています。

WCRのレポートは定期的に更新されており、日本語版資料がホームページにてPDFで閲覧できるようになっていますが、普段なかなか目を配ることが難しいため、我々の記事を通してより手軽に、そしてより多くの人に、コーヒー産業で今起きている情報を獲得していただけたらと考えました。

今回のテーマでは、World Coffee Researchの活動と併せて、この新5ヵ年戦略の内容を少しずつ噛み砕いていきながら、今コーヒー業界が抱えている課題、そしてコーヒー生産をより良い未来にしていくための方法を紐解いていきたいと思います。

資料はこちらでダウンロードできますので、よろしければ併せてご覧ください。


1)World Coffee Research(WCR)

1-1)World Coffee Researchの使命

『Grow, protect and enhance supplies of quality coffee while improving the livelihoods of the families who produce it. ー コーヒーを生産する家族の生活を向上させながら、高品質のコーヒーを栽培し、保護し、供給を強化する ー 』

(出典:World Coffee Research/About)

World Coffee Researchの活動理念はこのように掲げられています。

WCRはコーヒーのバリューストリームに携わる全てのコーヒー事業者や、農業関連各機関や生産重点国(各国研究機関と協働しながら研究を行う11ヶ国の重要なコーヒー生産主要国)などのパートナーたちと連携をとりながら研究を行い、地域ごとに適した、より優れた品種を農家に提供し、利用できるようにデータリソースを共有、生産者へのサポートを行なっています。

全ての原点となるコーヒーの『品種』とその『知識』が、コーヒーの生産から消費までを取り巻くバリューストリームにどれほど影響を与えているのか、研究の成果や活動を通じて、その重要性について示しています。

1-2)コーヒーの気候変動対策 / 新品種の開発

コーヒー業界では現在、温暖化や気候変動の影響によって起こる『2050年問題』への対応策が進められています。

アラビカ種のコーヒーが栽培できる土地は今後数年で劇的に縮小すると予想されていますが、それに反してコーヒーの消費需要自体は年々増加傾向にあり、早急に解決に向けて取り組まなければなりません。

しかし、気象パターンの変化、気温の上昇、新たな病気や害虫の蔓延など課題は様々。その上、コーヒーは成熟するのに2~3年かかる樹木作物であるため、課題の解決には膨大な時間と費用がかかります。

その間にもし課題解決の切り札がみつからなければ、数十年のうちにアラビカ種の供給が壊滅的に減少する可能性に直面しているのです。

・・・

このような喫緊の課題に対処するため、WCRをはじめとする各国パートナー研究機関は、“F1ハイブリッド”と呼ばれる新しいコーヒー品種の開発に取り組んでいます。

このハイブリッド品種は、以前ROUTEMAPでも取り扱い、noteだけでなくインディーズコーヒーフェスなどさまざまな機会でその将来性について発信してきました。

しかしこのハイブリッド種に関しては、将来のコーヒー産業を救う救世主的存在として開発が進められているにもかかわらず、コーヒー市場全体から見ると精製プロセスやハイブランド種ほどの認知度は無く、将来性と市場ニーズのギャップがまだまだ大きいように感じました。

コーヒーをエンドユーザーへ届ける我々ロースターやバリスタが、WCRや各コーヒー研究機関が発信する研究成果を市場全体に共有していく必要があります。

1−3)私たち(消費国)の使命

World Coffee Researchは常に品種の多様性に重点を置き、コーヒー農業における改革を推進、そして農業研究開発(R&D)に焦点をあてて、気候変動危機に直面したコーヒーの未来を維持し、コーヒー生産者の安定した生計を立てるための改革もたらす取り組みを現在進めています。

この新5ヵ年戦略の計画書は、英語版だけで無く日本語版やスペイン語版でも発行されています。つまり、主な消費国でコーヒーを提供する我々事業者も、WCRの使命と活動を自国のコーヒーシーンに共有し、消費を促すことで彼らを支援していかなければならないのです。

この計画は2021年に発足し、この記事を執筆時点で2023年の7月。5ヵ年戦略はすでに折り返しを迎えています。計画の進捗や成果はWorld Coffee Researchのホームページ(英語ですが)でご覧いただけます。

Guatemala Santa Clara農園

コーヒーに携わるより多くの人にこの記事を読んでいただき、今後のコーヒー産業全体、そしてバリューチェーンに居る全ての人たちがより良い未来へ向かっていくためのきっかけとなることを願います。

2)新5ヵ年戦略

2−1)5年ごとの計画

なぜ5年ごとの戦略計画なのかというと、コーヒー農業の研究はコーヒー作物の時間軸(コーヒーの木から実が収穫されるまで通常3〜5年かかる)に縛られているためであり、WCRは通常5年単位で研究議題を計画します。

2020年、WCRは広範な(農業研究分野などを中心とする)コーヒー業界より意見聴取の作業を実施。

意見聴取の結果を踏まえて、WCRの取締役会メンバーと他の専門家たちによるディスカッションの結果、2021年に『品種の多様性を強化するための生産国の競争力の強化』と題して、今後5年間の新しい戦略を発表しました。

この戦略について、WCRのJ. Vern Long CEOは、このように述べています。

「この戦略は、私たちが優先地域に根ざし、コーヒーの長期的な将来のためのコーヒー品種に焦点を当てることを再確認します。」
「WCRの戦略は、コーヒー農業研究開発の改革の隔たりを埋めるための投資に焦点を当て、農家に利益をもたらす改革を生み出し、サプライチェーンの消費者側のいったんにはしばしば見えない課題に焦点を当てている。この事は消費者には見えないかもしれないが、多様な品種のコーヒーの継続的な利用可能性と、これらの素晴らしいコーヒーをもたらす農業コミュニティにその機会を促進するには非常に重要です。」

2−2)戦略の焦点

この計画には、達成に向けての狙いが大きく分けて2つあります。

① コーヒー農業の革新の推進を通じて、気候変動に直面した品種の多様性を支援することを優先する。
② 品種の多様性を優先することで、コーヒー飲用者が求め、コーヒー業界が拠り所とする風味の特異性をコーヒー業界は獲得することができる。

前項でも挙げられていたこの”品種の多様性”は、今回の戦略における重要な鍵となります。

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2021年〜2025年の戦略に掲げたWCRの目標は『気候変動危機に直面する中でコーヒー生産エリアの品種の多様性を保全すること』であり、そのためにコーヒー農業のイノベーションを加速させ、戦略的対象のコーヒー生産各国(後述)の生産性、収益性および品質の向上に取り組んでいく必要があります。

なぜ、コーヒーの”品種の多様性”が、この戦略の焦点となっているのでしょうか?

2−3)”品種の多様性”の保全

多様性が失われる場合に起こるリスクには、例として2点挙げられています。

①生産量減少による供給負担
…コーヒーの全体流通量のうち約70%は小規模農園が生産するコーヒーであり、その地域ごとに現れる風味特性にニーズが生まれ、日頃コーヒーを楽しむ人たちの元へと届きます。

しかし気候変動により全体のコーヒー生産量が減少すると、コーヒー消費者(または事業者)が求めるユニークなフレーバーのコーヒーを入手することが困難となり、ニーズに対する供給面の安定が失われ業界全体にとって重大なリスクが生じてしまいます。

②利益の集約
…農業の生産性、収益性および品質向上の恩恵を享受するのが、生産において十分な環境、条件が整った農家に限定されてしまい、各国のコーヒー輸出収入による利益の分配も一部に制限されてしまいます。

・・・

高品質なコーヒーの安定供給を確保するため、そして生産地域ごとに生じる格差の是正を図るために、複数の産地で農業イノベーションを加速させる世界的な取り組みを連携させる必要があります。

それを実現すれば、コーヒー農家や事業者、生産国に十分に利益がもたらされ、消費者の関心を高めることへとつながるのです。

2−4)コーヒー農業の可能性

現在栽培されているコーヒーは、今後30年間にわたり気候変動の影響をまともに受けることが予想され、コーヒーなどの樹木作物、農家たちはかつてないほどの危険にさらされており、今ほど大きな試練を迎えたことはないと言われています。

しかしその一方で、コーヒー農業は、世界の気候変動緩和目標に大きく貢献する可能性も秘めているとも言われています。

その根拠については後述となりますが、コーヒー農業とコーヒービジネスが今後繁栄していくために必要なのは、気候変動目標を達成するための”生産対応力”を構築し、創造的な”農業改革”を推進することです。

この5ヵ年戦略を通じて、WCRは生産国の多様性を後押しするために農業の共同研究開発の取り組みを調整することで、そうした目標の達成やバリューストリーム全体における利益の分配に大きく貢献します。

3)戦略の目的とアプローチ

3-1)5ヵ年戦略の3つの目的

WCRは3つの目的を推進する農業研究開発プログラムを通じて、戦略目標の達成を目指します。

①生産性、収益性、気候対応性の向上を促進
…気候対応力のあるコーヒー生産の生産性を高め、農家の経済的サスティナビリティの根幹とも言える農家の収益性を高める。

②市場分野全体のコーヒーの品質の向上
…多様な市場分野(アラビカとロブスタの両方を含み、コマーシャルコーヒー、プレミアムコーヒー、スペシャルティコーヒー)についてコーヒーの品質の可能性を高める。

③気候変動緩和目標の促進と供給リスクの軽減
…戦略的に選択された南北アメリカ、東アフリカおよびアジア諸国の競争力を強化し、対気候変動緩和目標の達成に向けたイノベーション議題を推進することで、サプライチェーンのリスクを軽減する。

今まで述べてきた、WCRの狙いや戦略目標は、下図で相互的に関連してきます。

(引用:World Coffee Research/Strategy 2021–2025日本語版)

WCRの使命である『高品質のコーヒーの安定供給』は、世界のコーヒー業界にとって極めて重要な課題であり、『コーヒー農家の生計を支え、向上していく』ためには安定した業界の存在が不可欠です。

その実現に向けては、以下のような課題に対処していかなくてはなりません。

〈コーヒー生産の主な課題〉
・気候変動危機
・価格の脆弱性
・農家にとって使いやすい技術の限定的な可用性・アクセス性
・市場における新たなトレンドや機会
…etc

各課題の対処には、農家とコーヒー業界、双方のニーズに応える農業イノベーションが必要になります。

WCRが立てた新5ヵ年戦略は、こうしたニーズに応えるものであるのです。

では、WCRは具体的にこの戦略を通じてどのようにアプローチしていくのでしょうか?

3-2)WCRのアプローチ

・WCRの立ち位置
この戦略において、WCRは自らを業界市場の需要と各国の研究プログラムの“架け橋”として位置付け、他の農業作物において実証済みの実績のあるツールや手法(ユーザ主導の設計を含む)を用いて、コーヒー農業の研究の進展を加速させます。それにより、農家や消費者を含めた世界の業界のために価値を高めることを狙います。

・WCRの支援と貢献
この計画で協働する重点国には、提唱活動や直接/間接的な研究、調査を通じて、適切な農業イノベーションの設計・提供が行われるように支援。

さらにWCRは、主要国の競争力強化、高品質のコーヒー供給に係る重大な脅威への対処能力の向上、およびコーヒー農家の対応力と収益性の向上に大きく貢献することを目指します。

②へ続きます。


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