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第13話 ハンティング

小腹が空いた師匠と僕はあてもなく歩いた。

「こうなったら人間に頼らず狩りでもするか〜」
「か、狩り!」
「成功するかわからんがの。おら母ちゃんに教わってないからな〜」
「僕もです」
「狩りはな、母猫から教わるもんなんじゃよ」
「へ〜」
「母猫は殺した獲物を子猫の前で食べて見せるんじゃ。そうする事で獲物=食べるを教える」
「ほ〜」
「次に半殺しの獲物を子猫の前で仕留めるんじゃ」
「ひ〜」
「ここで仕留め方のテクニックを教えるのじゃ。猫は生まれながらに獲物を捕まえたい本能がある。だが、その獲物を仕留めて食べるには母猫の教育が必須なんじゃ」
「そうなんですか〜」
「遊んでて殺してしまう事があっても食べない猫がよくいるのは食べ物と認識してるか、してないかの違いなんじゃよ」
「なるほど〜」
「子猫は母親に生きる術を教わるわけだから、一緒にいる事がいかに大事な事かわかるじゃろ?」
「はい」

「まぁ〜。島の先輩猫の狩りをよく見てたから……イケると思うんじゃがの〜」
「僕、初狩りです!」
「そうか、そうか、そうだろな〜」
「何を狩ります?」
「そうだな〜」
「フナ虫は食べれるんですか?」
「げ!フナ虫食べたいん?」
「いや〜食べたくはないですけど、島猫さん達は食べるのかな〜と思いまして」
「食べんわ!フナ虫は食べると言うより遊ぶもんじゃわ」
「ですよね〜」

「師匠!カニがいます!」
「カニか〜。ハサミ持ってるやん」
「はい」
「手挟まれたら痛いやろ〜」
「じゃあ、やめときましょう!」

「たまにな、漁師が小さい魚を捨てて帰る事があるんじゃよ」
「え〜!」
「ないかの〜」
「あるといいですよね〜」

「おっ。ハトがおるぞ!」
「鳩食べるんですか?!平和の象徴ですよ!」
「わかっとるわい」
「鳩はないですよ〜」
「いたから言ってみただけじゃい!」

「あっ。ネズミが通ったど!」
「ネズミはたくさん病気持ってますよ?お腹壊しますよ?」
「でも猫と言ったら昔からネズミじゃろ?」
「そうですけど……。師匠、ミッキーとミニー知ってますよね?」
「あぁ、夢の国にいる奴らじゃろ?」
「彼ら、ネズミですよ?ミッキーやミニーのご親族、食べれますか?」
「いや、そう言われるとな……」
「やめときましょう!」

キョロキョロ獲物を探し彷徨っていると、師匠がポロっと口にした。

「やっぱりオラ達には狩りは難しいかもな」
「安全なカリカリがいいですね〜」
「そうだな〜」
「お腹空きましたね〜」
「よし、ここは意地を張らずに人間様に頼ろうではないか!」
「はい!そうしましょう!」

師匠のはからいで僕達は島に1軒しかない民宿へと向かった。

「昔は何軒もあったんだがの〜」
「そうなんですか〜」
「釣り人が減ったのか、魚が減ったのか、オラにはわかんねぇこっちゃ」
「スーパーで魚買えますしね〜」
「そういう問題か……?」
「違います?」
「……。猫ブームかなんかでよ、この島にどっと観光客が来るようになってな、1回閉めたんだけど、また開ける事にしたんだと」
「へ〜」
「猫目当ての人が泊まってるわけだからよ、話が早いってわけさ!」
「なるほど〜。さすが師匠!」

僕達は民宿前でウロチョロ、にゃあにゃあしてみたが、なんの反応もなかった。
しばらくすると、ガタガタと音を立てながら戸がゆっくりと開いた。

「なんだぁ〜?どうした〜?」

その太く低い声はここの民宿の亭主であった。

「残念だな。お客さんはもう寝ちまったよ。なんせ始発の電車に乗って来たもんだからな、もうお疲れなんだとよ〜」
「にゃあ〜 (チッ!)」
「お前さん達のお陰で、また民宿やれるようになったんだからな〜。ちょっとはお礼しないとな」
「にゃ!(?!)」
「ほれ、今日の刺し身の残りだ」

師匠と僕は小さな船の上に乗せられた刺し身を思う存分に味わった。

「ん〜」
「んまい、んまいな〜」
「僕、ぶっちゃけ、ぶつ切りよりこうやって刺し身になってる方が骨がなくて食べやすいし、血がなくてグロくないので好きです」
「ぶっちゃけるな〜」
「そうですよね〜、すみません。ぶつ切りも有り難いけれど……どっちかと言うと……刺し身派なんです」
「ま、オラも断然刺し身派だ。内緒だぞ」
「はい!」

豪華な夕飯を食べ終わると、僕達は民宿の玄関前にあるベンチに座りリアル招き猫として夜を明かす事にした。