【小説】 愛のギロチン 12
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後輩に言われた言葉が頭から離れない。
ーー求人広告の仕事なんて、単なる枠売り。
確かに、そういう側面はある。
俺たちが売っているのは、版元が作った広告枠だ。
紙媒体にしろ、ネット媒体にしろ、その仕組みを作ったのは間違いなく版元で、俺たち販売代理店の人間は、その販売額を変えることすらできない。
お上から与えられた商品を、言われた通りの値段で売り、そのとして微々たる手数料をもらう。それが俺たちの商売だ。
だが、と思う。
求人広告の営業という仕事。それはそんなに価値のない仕事なのだろうか。後輩が言うように、「オサラバして当然」の仕事、業界なのだろうか。
ーー俺はそうは思わない。
思わないというか、思いたくない。
価値の有無はよくわからないが、俺はあの後輩が言うほど、この仕事が嫌いではなかったのだ。
確かに、単純な仕事だとは思う。求人のニーズがあるお客さんを訪ね、募集職種や労働条件を聞き、それを原稿にして掲載する。
それだけだ。
数万円の契約を必死で取りつけ、そのほんの2〜3割の手数料を利益として手に入れる。
もちろんそれは会社に入る金であって、そのまま自分の取り分になるわけではない。給与として懐に入る頃には、あってもなくてもたいして変わらないような金額になっている。
……それでも俺はこの仕事を、15年以上も続けてきたのだ。
そんなことを考えていると、電車はいつの間にか稲毛駅に到着していた。
モヤモヤした気分のまま改札を抜け、いつものコンビニで晩飯用の弁当と惣菜をいくつか購入して、家に向かった。まだ夕方の四時だったが、一人の晩飯のために外に出る元気もなかった。
アパートの前に到着し、ため息混じりに階段を登ろうとしたとき、上から声がした。
「おう、営業マン。待ってたぞ」
顔をあげると、大貫がいた。
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