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おやじパンクス、恋をする。#013

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

「知ってると思うけど、あたし、あの家に一人で住んでんだよね。親は別の所で暮らしてる。ときどき様子を見に来るけど、だいたい一人。だからさ、暇なんだよ」

 ほんと嫌になっちゃうよね、という感じで彼女は言った。

「やることなくて、いっつも窓の外をボーっと眺めてる。もう、あの窓から見える全部を思い出せるくらい、ずっと見てる。知ってるでしょ?」

 確かに、そうかもしれない。俺がいつ行っても、窓際にはこの子がいたんだ。でも、一人で住んでいるって、そんなこと、可能なんだろうか。俺たちはまだ、中学生なんだぜ。

 俺の表情をどう感じたのだろうか、彼女はパッと笑顔を作った。

「そしたらさ、なんかこっち見てるやつがいるんだよ、何度も何度も、チラチラって。あんた、あたしが気付いてないと思ってたのね。まさか、だよ。あたしはあの景色のプロだもん。全部見えてたよ」

「そ、それは……」

 先生に怒られるようなバツの悪い気分で、俺は俯いた。

「あたし一人で暇だから、そういうの、楽しかったなあ。あのビルにはたくさんの人がいたけど、そう、レストランじゃなくて、会社とかもいっぱい入ってたし、たくさんの人がいたけど、でも、あたしのことに気づく人はほとんどいなかった。もしいても、ちょっと見て、それでおしまい。あんたくらいのもんなの、何度も何度もこっちを見たりするのはさ。だから、土曜日になると、あ、あいつ今日は来るかしらって、楽しみにしてた。いつも六時に予約してたでしょう、あの窓際の席。別に直接顔を合わせてるわけじゃないのに、なんか友達が会いに来てくれたみたいでさ」

 俺は顔を上げた。彼女は少しだけ寂しそうに、笑っていた。

「なんで……一人なの」

 俺は聞いた。

「まあ、いろいろあるんだよ。あんたみたいに、幸せな家庭ばっかじゃないってこと。でも、私だってそんなに不幸なわけじゃない。一緒には住めないけど、お父さんもお母さんもいるし、お金とかもちゃんともらってるし。私の知っている子で、お父さんとお母さん死んじゃった子とか、家にお金がなくてバイトしてる子とかもいるんだよ。そういう子たちに比べたら、私はずっと幸せだよ。あの部屋もね、狭いけど居心地がいいし」

 彼女はそれまでより早口で言った。その早口加減が、何となく彼女の強がりを感じさせて、俺は何も言えなかった。

 太陽は思った以上のスピードで沈んでいき、俺たちを染めるそのピンク色の光が、どんどん濃く、暗くなっていった。あと五分もせずに、あたりは夜になるだろう。俺は妙な感覚を覚えていた。今すぐに彼女の前から消え去りたいという思いと、いつまでもこうして話していたいという思い。早く暗くなればいいという思いと、いつまでも沈むなという思い。

「ねえ」

 彼女が言って、俺は顔を上げた。

「なに?」

 今度は俺も、まっすぐ彼女を見て答えた。

「お願いがあるんだけどさ」

「お願い?」

 そして彼女は、ちょっと恥ずかしそうに、言ったんだ。

「もしよかったら、あたしと友達になってくれないかな」

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ


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