【小説】 愛のギロチン 19
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「事業としては、どんなことを?」
大貫がどこかへ行ってしまった後、俺は聞いた。せっかく社長に話を聞く機会を得られたのだ。しかも、あの”うるさい”大貫抜きで。
「そうですねえ」と昭一は、人の良さそうな丸顔を天井に向ける。
「わかりやすい言葉で言えば、リサイクル関連事業です。ただ、再生業務を担っているわけじゃありません。私たちは、リサイクルの工程で使う機械を作っています。廃プラ梱包機、金属圧縮機、破砕機とか」
俺だってそれなりにキャリアのある求人広告営業だ。あらゆる業界のクライアントと取引してきたし、その中にはリサイクル業界の会社もあった。昭一から出た言葉にまったく聞き覚えがないわけではない。
カバンの中から小型の取材ノートを取り出し、メモをとりながら言う。
「圧縮機に、破砕機。なるほど、つまり御社はリサイクル用工業機械のメーカーなんですね。それらを作って、リサイクル会社に納入する」
自分しか読まないメモだから字は下手くそ極まりない。だが俺はこういう時の自分を少しだけかっこいいと思う。取材ノートを手に経営者にインタビューする姿は、はたから見れば新聞記者のように見えるかもしれない。
「ええ、仰るとおりです。ご覧の通りの小さな工場ですけど、おかげさまでいろんな企業さんに使ってもらってます」
昭一はニコニコしながらそう言って、まるで遠くの景色を見るように工場内を眺めた。優しげで、それでいて熱のこもった目。
ああ、社長なんだな、と思う。
急逝した先代、つまり父から会社を継いだのはまだ数年前だと言っていた。だが、きっとこの人には既に、この会社の責任者だという自覚があるのだろう。
そして昭一は俺に視線を戻すと、言った。
「大貫さんの仕事について、話したほうがいいですよね」
「え、あ、そうですね。今回の求人内容について、お聞きできればと」
昭一に対するまっすぐな好感が、あの口の悪いわんぱく爺さんのイメージに侵食されていく。俺はそれだけで思わずため息を漏らしそうになる。
「ギロチンの設計士だと言われて、驚いてしまったんですが」
俺が呆れ顔で言うと、昭一も可笑しそうにクスクスと笑う。
「そうでしょう。ギロチン、ですもんね」
「ええ。工業用ギロチンというのがあるなんて知らなかったもので。大貫さんはその工業用ギロチンの設計をやられているんですよね」
俺は再びメモに視線を落としながら聞いた。だがその後の昭一の言葉に、思わず顔を上げた。
「まあ、ギロチンだけじゃないんですけどね」
「あ……そうなんですか? 他のものの設計にも関わってらっしゃる?」
昭一は再び工場内に目をやった。あの遠くを見るような、どこか懐かしそうな顔。
そして、言った。
「多賀岡工業の製品は、ほとんどあの人が設計したものなんですよ」