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ウジェニー皇妃のレース ー ブロンド ー その2

 私は東京と大阪で活動している、アンティークレースを研究する研究会『Accademia dei Merletti』を主宰し、「アンティークレース」についての考察や周知を行なっています。


第二帝政の花

ー ファッションリーダー

 スペイン貴族のウジェニーはフランス皇帝として即位していたルイ・ナポレオン・ボナパルトと1853年に結婚し、フランス皇妃の地位に登りつめました。

 皇妃となったウージェニーはその美しさと優雅さで知られ、そのエレガントなファッションリーダーとしての姿は友人であったメッテルニヒ侯爵夫人により紹介された服飾デザイナーのフレデリック・ウォルトのデザインしたドレスを身に纏い人気画家のウィンターハルターの描いた数々の肖像画によって今に伝わります。

ナポレオン3世と皇妃ウジェニー

ー ウジェニー皇妃のストール

 ブロンド・レースで作られたこのストールはそのウージェニー皇妃が所有したものと伝わっています。

ウジェニー皇妃のために製作されたブロンド・レースのストール ( 19世紀中期 )

 ブロンド・レースとしては非常に珍しいナポレオンを象徴するモチーフと共に皇妃が好んだ新ロココスタイルによりデザインされています。

 この大きなストールはブロンド・レースにより19世紀の中頃に制作されたものです。ブロンド・レースは18世紀から19世紀にかけてフランスで製作されたボビンを用いた連続糸技法によるレースで、シルク糸を使用したことによりその光沢のある自然な絹の色合いからブロンドと呼ばれました。

 当初はこの自然色のシルクを使用したブロンド・レースですが、後にはスペインなどでは黒色のシルクを使用したスパニッシュ・ブロンドなども製作されるようになりました。

 ブロンド・レースはフランスでは1744年頃からノルマンディー地方のカーンで製作が始まりカーン製のブロンド・レースは質の高いレースと見做され人気となり、またフランス以外にもフランドル地方やバルセロナ、イギリスのイーストミッドランドでも作られました。

 ブロンド・レースがシャンティイと同様にフォン・サンプル、フォン・ド・マリアージュやフォン・シャンなどのグランドが用いられたボビンレースですが、シャンティイやリールと比べ繊細さに欠けていたために18世紀中期には人気のレースとはなりませんでした。

 しかし19世紀に入ると多くのボビンレースがその地位を機械製レースに追われ衰退していく中でハンドメイドのブロンド・レースは注目を集めました。

 1810年代から1830年代にかけて王族の衣装を飾り人気に拍車がかかり、機械製レースが発明された最初期に模造が始まりましたが人気は衰えず、機械製レースがハンドメイドとして売られるような事態となりました。

 1840年代以降はブロンド・レースの人気に翳りが見られ、以前のように大量に作られなくなっていきました。このストールはそのような時代に製作された特別なレースで、ブロンド・レースではあまり見られないロココ調のデザインが珍しく特徴として際立っています。

洗練されたバラの花のモチーフに帝冠を戴いた「N」のイニシャルと
ボナパルト家の蜜蜂がデザインされています
非常に洗練されたデザインと上質なシルクはカーン製の可能性が考えられます
さまざまな番手のシルク糸を使用して製作されています

 帝冠を戴いた「N」のイニシャルと蜜蜂の紋章はナポレオンによって採用されたボナパルト家を象徴するものとして、ナポレオン1世の第一帝政の宮廷で使用される様々なものにデザインされました。

 このブランド・レースはそのナポレオン1世の甥で、のちにフランス皇帝に即位したナポレオン3世の皇妃のウジェニーのために製作されたものです。

 その1の記事で書いたようにウジェニーは10世紀に遡る有力貴族の家柄であるグスマン家の一族であり、13世紀から続くアンダルシア貴族ポルトカレーロ家出身のモンティホ伯爵の娘でした。父親のドン・シプリアーノは熱烈なナポレオン支持者として知られ、ナポレオンの兄でありスペイン国王となったジョゼフ・ボナパルト麾下の軍人として従軍した経験も持っていました。

 父の死後テバ伯爵の爵位を相続しテバ女伯爵として知られたウジェニーは1853年にフランス皇帝として即位していたルイ・ナポレオン・ボナパルトと結婚しフランス皇妃の地位に登りつめました。

フランツ・クサヴァー・ウィンターハルターの描いた『 フランス皇妃ウジェニーの肖像 』 ( 1853年 )
オルセー美術館蔵

 王妃マリー・アントワネットを信奉したウジェニーの好みにあわせ考案された新ロココスタイルは、第二帝政時代にヨーロッパ中で大流行します。

 花綵模様・真珠繋ぎ・薔薇の花などルイ16世時代に好まれたモチーフを使用してより洗練されたものとして昇華されています。


おわり


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