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社畜プロモーション最先端事例

2012年5月6日発行 ロウドウジンVol.4 所収

ここまで、栄養ドリンクを中心としたテレビCMの変遷とそこに浮かび上がる社畜像の変容を紹介してきた。一方、広告の舞台もテレビからウェブへとその裾野を広げている。その中でも注目に値する最先端の社畜プロモーションを紹介したい。人材派遣業、もとい社畜産業最大手のスタッフサービスである。

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1981年創業の人材派遣会社。会社の電話番号である「0120-022-022」をもじった「オー人事、オー人事」と「○○に恵まれなかったら」のキャッチコピーとともに、チャイコフスキー弦楽セレナーデが鳴り響くCMで一躍有名となった。人材派遣会社なので、そのCMは視聴者を直接雇用することになる。すなわち視聴者は消費者(=お金を払う)ではなく、生産者(=お金をもらう)になっているという捩れた構造を持っている。

003022.jp (テレビCM+ウェブ連動)

スタッフサービスのCMは面白さ重視であるものの、派遣社員の募集が目的であるため、正社員ひいては企業社会を風刺したものが多く、我々の関心を集めてやまない。特にサイボーグ009を題材とした本作では、面白さを重視した結果、派遣社員までも風刺の対象に成り下がっている。

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正社員サイボーグ003
石ノ森章太郎のライフワーク的コミックを原作とした、2012年秋公開予定映画『009 RE:CYBORG』(神山健治監督)のキャラクタであるサイボーグ003(フランソワーズ・アルヌール、CV斎藤千和)を起用した正社員モデル。強化された視覚と聴覚を武器に「間違ったがんばり方」をしている。

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①たくさん電話が鳴り響くオフィス。強化された聴覚でそれらを同時に処理する003だが、そのひとつにあった部長の不倫電話をもばらしてしまう。

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②部長への愚痴をこぼす課長と廊下を歩いている際、曲がり角で部長と遭遇することを察知した003は、課長の後頭部を殴り気絶させて事なきを得る。

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派遣社員サイボーグ022
多部未華子演じるサイボーグ022は「より自分らしく生きていく」ために、サイボーグであることを隠しながら?働いている派遣社員モデル。腕をガトリング砲に変形させたりと、状況に応じて肉体をトランスフォームさせることが可能。その特殊能力で「正しいがんばり方」をしている。

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①プレゼン直前、大量の資料準備が間に合わず慌てふためくオフィス内。022は右腕のガトリングからクリップを連射し一瞬で資料を綴じ終える。

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②お通夜状態の飲み会、「幹事盛り上げろ」と無茶振りをする部長から幹事を庇い、顔面を変形させる完璧な物真似芸で場を爆笑の渦に包み込む。

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③タクシーが大渋滞に巻き込まれた上、携帯の電池切れで遅刻の連絡すら出来ない窮地。左腕の中からバッテリーを取り出し携帯を充電する。

 本動画ではオーバースペックを持つサイボーグを主役に据える事で正社員の盲目的に空転するがんばり方を批判しているのだが、話のディティールについても考えさせられる点は多い。003が電話の応対をする場面など交換機(PBX)普及以前の電話交換手を連想させる。文明の進歩による人間から機械への作業主体移行の流れが逆転し、人間と機械の中間であるサイボーグが活躍するというなんとも皮肉めいた展開だ。

 その一方で022も「正しいがんばり方」をしているとはいえ、その内容はクリップ留めや宴会芸、携帯の充電などの雑用ばかり。自分と同じ仕事で高額の給料を貰っている正社員と一緒に、自腹で職場の飲み会に来て盛り上げるのが良い派遣社員だと言っているようなものだ。顧客の企業が派遣社員に求めるものを反映しているということなのだろうが、正社員や社会だけでなく、自社の商材である派遣社員すらも貶める事を厭わずに笑いを取りに来るスタッフサービス。その姿勢には頭が下がる。

 更に言えばサイボーグが派遣社員だと、雇用ではなくリースの契約となる。よって更新も再リースとなり、給料は以前の1/10程度になるのでは……などと深読みが可能であり、映画とのコラボレーションでシナジー効果を出すだけには留まらない、スルメのような広告に仕上がっている。

グッジョブ、私!

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Facebookと連動したインタラクティブムービー。視聴者のFacebook上の情報(名前、職・学歴、友人関係等)を映像中に取り込むことにより、リアリティ溢れるストーリー仕立ての映像コンテンツになっている。

 本作では「もし派遣社員になったら?」というIF展開が繰り広げられる。最大の特徴は、物語の舞台がFacebook上のステータスの変化と投稿内容を中心に描かれる点。もちろん、Facebook上に表示される個人プロフィールはその映像をみている「あなた」のものである。

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 派遣社員になって三ヶ月後。Facebookの職業ステータスが現在のものから「派遣社員」に変わると、友人(これももちろん、あなたの実際の友人だ)からの大量の「グッジョブ!」(実際のFacebookにおける「いいね!」に相当)とともに華々しく派遣社員生活がスタートする。その後も順風満帆な派遣社員生活がFacebookの投稿を通じて描かれる。良い同僚、良い上司に恵まれながら、自分自身のスキルアップも実感できる。さらに正社員時代にはなかった時間的余裕を利用して合コンに参加すると、そこで運命の出会いが……。順調な交際を重ねながら、Facebookの恋愛ステータスが「独身」→「交際中」→「婚約中」→「ラブラブ」というように変化していく。これらのイベントが発生する度に、Facebook上のリアル友人から「グッジョブ!」が、まるでなにかのウイルスに感染しているかのように増えていく。ついにはリアル友人のステータスも「ただの友達」から「親友」に軒並みアップデートされる。クライマックスは、過去に実際に投稿した写真に混じって、このストーリーの中で出てきた恋人やデート写真等が走馬燈のように流れていく。ムービーはここで終わりを告げ、最後に「派遣は自由な時間を持てる働き方。派遣もありかなって思ったら、さっそく、登録してみる」という文字とともに、スタッフサービスへの派遣登録ページに誘導される。

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バナー広告ギャラリー

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大学の就職課の掲示板にでも貼ってもらいたい、粋な付箋風広告。

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含みのある良いコピーだが、その種の経験はむしろ社畜向きかも?

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時には駄洒落も使用されるが、絵入りでなお分かり辛く、苦しい。

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神は日曜日を作り、神 に作られた人間は休日 出勤を作った。Amen。

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定時で退社が望まぬ退職にまで繋がり得るのが正社員のツラい所。

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正社員になる事を斡旋・肯定するかのようなバナーと、結局派遣を勧めるバナー。白目のないうろの様な瞳を見つめていると心にかすかな恐怖が芽生える、ブラックな絵本の如き味わい。

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