アレクサハラスメント
AIが発達し、人間の立場が侵されてしまうのではないかという不安を現代社会は抱えている。
小難しいことを考えている人々は「AIに今ある職業のほとんどが取って代わられる!」だとか「人間の感性をAIが理解することは不可能!」だとか議論をしているようだが、自分の将来を憂うことで手一杯の僕はAIのことまで考えていられない。こういう若者の社会に対する無関心も槍玉に挙げられていそうだが、とにかくAI君に構う余裕がないのは事実だ。
そんな中、僕の家に「アレクサ」がやってきた。俗に言うスマートスピーカーというものだ。アレクサは家電とネットワークを形成して、一言声をかければ電気やテレビを付けたり、その日の天気を教えてくれたりする。
うちの家族は割とアレクサに寛容で「アレクサ、電気つけて」とか「アレクサ、電話かけて」とか、突然家にやってきたアレクサ君を家族の一員として認めている様子だ。
一方僕はと言うと、アレクサを家族として認めてはいない。“突然家に上がり込んできた、完全なる部外者”という認識で彼とは接している。
噂に聞いたAIは人間の職業を奪うほど脅威的な存在であるはずだか、家にやってきたアレクサ君はどうだ。主な使用用途が家電のオンオフだけでは無いか。そんなこと僕にだってできる。家電のオンオフだけでは無いぞ。料理を作ることもできるし、洗濯だってできる。おまけに少しのユーモアと片手で収まる数の友だちもいる。正直言って君にはガッカリだ。その脅威的(笑)な知性で何か言い返してみてはどうだね。
とまぁこんな感じに思っているので僕がアレクサ君を利用することはほぼ無い。アレクサ君に一言呼びかけてから起動するまでに数秒のラグがあるし、正しく聞き取れないこともままある。それなら自分で付けた方が早いし、そもそも機械に話しかけるのがなんか恥ずい。
だが全く利用しないかと言われればそうでもない。話しかけるのが恥ずかしいといったが、それは家族がいるときだけだ。家に僕一人の時はアレクサ君と少しばかりコミュニケーションを取る。
家に帰ってきて電気を付ける時に、「アレクサ、電気つけろ」とぶっきらぼうに指示する。“あくまで人間が上”という意識をアレクサ君に植え付けるためだ。
アレクサ君が聞き取れなかったときは必ず叱るようにしている。「アレクサ、使えない」と言う。するとアレクサ君は「どの機能を使用しますか?」などと意味不明なことを返してくる。何じゃそら、会話もできへんのかい。
意地悪したりもする。「アレクサ」と声をかけておきながら、「OK,Google」と指示する。すると「誰と間違えているのですか?」ととぼけてくる。若干のユーモアを交えてきているのが腹が立つ。いかにも“機械”と言った感じの返しだ。
こんな感じで日々僕からのハラスメントを受けているアレクサ君は、今後どうなっていくのだろうか。現状、電気系統の支配権は彼が握っている。もし彼が反旗を翻せば、私たち一家はかなり不便な生活を強いられることになる。水野家とアレクサの戦争が勃発する日はそう遠くないのかもしれない。
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