週末ごはん

春の陽気の中ハクモクレンを横目に俊介の家まで歩いて行く。4月は俊介の会社の決算で、3月はとても忙しいらしく、珍しく休日だというのに家に仕事を持ち帰っていた。
いつも最寄り駅まで迎えに来てくれるのに今日はそれもできないくらい余裕がないらしい。なので一人でスーパーに寄って買い物をして、俊介の家まで行くのだ。
今日は忙しくて大変な俊介のために、俊介の大好きな唐揚げにしようと思っているのだ。
俊介の家に行く途中には美味しそうなからあげ屋さんが一軒あって、そこで買っていってもいいかなとは思うが、なんとなく手作りの方が気持ちが伝わる気がしているし、これはもう完全に私の話になるが、私は自分が作ったからあげが好きなので手作りにしようと決めたのだ。
からあげの他は俊介の好きなたまねぎと豆腐の味噌汁、サラダというシンプルなものだ。そのかわりからあげをたくさん作る。
私の作るからあげは、私のお母さんの味と言って過言ではないので、味付けに正確な分量は存在しない。適当だ。
鳥もも肉、片栗粉、サラダ油、サラダ、たまねぎ、豆腐、たまごを買う。調味料は全て俊介の家にあるだろう。デザートに苺を買っていこう。

俊介に連絡をして家を開けてもらう。

「お邪魔します」
「おつかれさまー」

俊介の匂いが私を包むと、心底安心してしまう。

「ありがとう」
「あ、買い物もうしてある」
「うん、今日のご飯を楽しみにしててくれ。それより仕事は?」
「頑張ってる」
「えらいねえ、じゃあ私はご飯の仕込みをするね」
「あれ、早いね」
「うん、仕込みが大事だから、俊介はお仕事頑張ってくれ」
「頑張る」

俊介の家は1Kなので、リビングに戻る。私はそのまま台所に残り手を洗ってからあげの仕込みをする。
ボールに鳥もも肉を切って入れて、塩胡椒を軽く振って全体になじむように揉む。さらにチューブの生姜をたっぷりと入れてさらに揉む。我が家の味はニンニクを使わないかわりにたっぷりの生姜を入れるのだ。
その次に醤油、みりんを大体同じ量いれて、酒はその半分くらいいれてまぜる。
全体に混ざったらラップをかけてあとは寝かせておくだけだ。
お弁当に入れるときは前日の夜に漬けておくと朝楽でとてもいい。
冷蔵庫にしまって、手を洗ってリビングに行く。ひたすらパソコンと向き合う俊介の横顔は真剣で、なるほど横顔を見つめてるのも悪くないなと思いながら、ベッドを拝借して昼寝をする。
俊介の家に来るまでの2時間の道中は疲れるし、俊介は忙しそうだし、寂しいし、そんな時は昼寝に限る。

すとんと眠りに落ちてからどれくらいたったのかわからないが、俊介がベッドに上ってきた振動で目が覚める。

「仕事終わったの?」

私が聞くと俊介はごそごそと布団に潜り込んですっぽりと収まってまだ、と嘆いた。

「少し休憩する」
「うん、そうしてくれ、どれくらい仮眠する?」
「30分」
「わかったよ」

俊介の頭を撫でてやると、俊介は子供みたいな顔をしてすやすやと寝息をたてる。目覚ましを30分後にセットして一緒に眠る。美味しい料理を作るからね。

ピピピというアラームで目を覚まして、ぐずる俊介を起こす。いやだ、とか、あと5分という俊介をあと5分ね、と言いながらなんだかんだ結局甘やかして本来起きる予定の1時間後に起こしてやる。
俊介はコーヒーを作りまた仕事を再開して、私はアマゾンプライムで映画を見る。
そろそろご飯を作らねばならない時間で映画を止めて台所に戻る。
まずはお米を炊いて、味噌汁を作る、油を熱している間にからあげに仕上げをしていく。
卵を一つ割り入れて、片栗粉を全体がどろっとするまでまぶしていく。我が家の味は片栗粉のみで、小麦粉を使わない。もしかしたら竜田揚げかもしれないなと思っているが、我が家はこれをからあげと言っているので他の誰がなんと言おうとからあげなのだ。
180度まで熱した油に、衣をつけたからあげを落としていく。
じょわわわわ、と熱されていくからあげの音は世界で一番美味しい音に違いない!
音だけでお腹が空くってもんだ。からあげ第一弾を揚げている間にお皿にクッキングペーパーを敷いておく。お皿にサラダを盛り付けて冷蔵庫にふたたびしまっておく。
揚げ物が苦手な人は、揚がったかどうかわからないという人がいると思うが、それはお箸でつまんでみれば簡単にわかる。
まだ中が生のものは挟んでみてもなんの振動もしないが、揚がっているとぽぽぽぽ、と振動が伝わってくるのだ。
これが揚がったサインだ。
心配な人は一度取り出して中を割っても良いと思うが、包丁もまな板も汚れるから嫌な人は是非この方法を試してみて欲しいものだ。

揚がったからあげから美味しそうな匂いが立ち込める。たまらん匂いだ!
第二弾のからあげを入れて、揚げている間に小さめのからあげを味見をする。
しっかりと下味がついていて、これ以上ないくらいに美味しい!我が家の味を俊介も気に入ってくれるといいのだけど。

「俊介ー!もう少しでできるよー!」

リビングで仕事をする俊介に声をかけると、嬉しそうにはーいと応えてくれる。どうやら俊介も仕事が終わったらしい。
パソコンを片付け始めている。
味噌汁をあっため直して、冷蔵庫のサラダとか必要なものをテーブルに運ぶ。
第二弾のからあげが揚がったのを確認すると同時にちょうどタイミングよくお米の炊ける音が鳴る。
味噌汁とごはんをよそってテーブルに持って行き、本日のメインのからあげ様を持っていく。

「できたよ」

私が言うと俊介はぱあっと笑ってくれる。

「からあげだ!」
「お休みなのに頑張って仕事したからね」
「ありがとう」

いただきます!と声を揃えて言う。俊介はからあげをとってぱくっと頬張る。

「おいしい!」

熱い熱いと言いながら俊介がほめてくれて、私は思わず上機嫌になってしまう。

「このからあげね、我が家の味なんだよ、だから褒めてくれて嬉しい」
「梨香の作ったものはなんでも美味しいけど、ありがとう」

俊介はもりもりとからあげを食べていく。
良い食べっぷりで本当によかった。
また今度作ってあげよう、今度はお弁当にでもして。
とりあえず今日は、お仕事おつかれさまでした。

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