ひつじ

趣味で小説にもならないような文章を書いていこうと思ってます。

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最近の記事

空っぽの街

僕は今日酔っ払っている。 1週間前の仕事のミスが今日発覚して上司に怒られたのだ。僕はもう飲まなきゃやってられないね、と思い、仕事が終わってすぐに良く行く定食屋で酒を飲んだのだ。調子が良くなって来た僕は2軒目、3軒目と梯子をして、まんまと終電を逃したのだ。 12月の風が酔った身体に心地よくてタクシーを捕まえることなく千鳥足でステップを踏みながら歩いていた。 僕は今仕事を辞めようかどうか悩んでいた。そんな時に起きたミスは僕の心に深く刺さり辞める決心をするかどうかまで来ていた。将来

    • 聖痕

      私の好きな人は神様に愛されているのだと思う。あなたは穏やかに生きている人だ。争いや諍いを嫌い、良い意味でも悪い意味でも我関せずを貫いている。良く言えば平和主義だが悪く言えば事なかれ主義だ。 あなたはとても優しい人だ。あなたは無関心さで持って話を聞くので余計なアドバイスは言わないし、他言することもない。そのかわりあなたは自分の悩みや愚痴も言わないし、深い話をすることはなかった。 あなたはお年寄りや動物にとても優しく、真夏の炎天下の元で犬を散歩させる人を見ると怒り、電車では席を譲

      • 大寒波

        「ううう、寒いよー」 「そんなに着込んでだか?本当に寒がりだなー」 「君が元気すぎるんだよ」 若いっていいなあ。私の近所の可愛いお友だちは元は東北出身のお陰か、最強の寒波に見舞われていると言うのに全然寒さに堪えてない。私なんかヒートテック着て服を3枚も着て上着を着て、タイツを2枚履きして靴下を履いてるのに寒い。断然寒い。雪がちらちら舞っているのに素足なんかさらしている。 「おらの実家ならこれくらいの雪当たり前だ」 「こっちでは雪が舞ったらもう交通が麻痺しそうで怖いの」 「

        • 飴は君にあげる

          白く細い手首だ。横顔に無駄な肉はない。瞼は茶色と緑のシャドウが輝き、長くマスカラを塗った派手な目と、赤い口紅が毒々しく華やかだ。 幼なじみの彼女は隣で窓の外をじっと食い入るように見ていた。流れていく景色にも瞳は揺らがず、ただじっと見ている。 派手なメイクと白い肌に不釣り合いな目の下の隈を俺はじっと見ている。 銀色の電車は無機質な表情の人を乗せて走る。帰りの駅まであと15分くらいだ。 何かをたくさん話す日もあれば、こうして何も話さずじっとしている日もある。大抵は携帯をいじるかう

        空っぽの街

          キラキラしてた

          朝から憂鬱だった。カーテンの隙間からもれる光があんまり青いからだ。最近は天気が悪く薄暗かった。それが心地好かったと気付かされる。のそのそとベッドから出ればうすら寒い空気が足をヒヤリと撫でていく。携帯を手にする。着信が入っていた。 「もしもし?」 まだ起きていない声帯を震わせる。君の声が耳に馴染まない。 「ちょっと、あんたいつまで寝てんのよ」 君の声が鼓膜を揺らす。その声は大きくうんざりしそうだ。 「ごめん。なに?」 「何って、あんた最近外出た?」 「出てないけど」

          キラキラしてた

          耳鳴りするほどの静寂に

          体育座りの格好で朝焼けを待っていた。大音量のヘッドフォンからはかき鳴らされているギターやただ打ち付けられているだけの、歌詞に意味なんかない曲がリピート再生され続ける。蛍光灯に照らされる私はなんだか滑稽だ。 夜が怖いと思うのはどれくらいぶりだろう。その時もこうやって朝焼けを待っていた。一人の部屋に静寂はあまりに重くて、何も考えないですむように洋楽にして、歌詞なんか聞き取れないようにした。閉めきられたカーテンの隙間から覗く夜はさっきと何も変わらない。時計を見ると成る程、さっきか

          耳鳴りするほどの静寂に

          calling

          お互いの為という言葉を使ってあなたは別れ話を切り出した。お互いの為なんていう言葉は、どちらか一方の為でしかない、都合の良い言葉だ。しかしそれを受け入れるしか選択肢を与えない。あなたはひどく狡猾な人だ。 確かに愛し合っていた、はずだった。誰よりもあなたを理解していたつもりだった。あなたはそれが怖いと言った。 「いつか君を傷付けてしまうと思う」 あなたはそう言った。優しい言葉だ。そして狡い言葉でもある。 「君は君で新しい人を早く見つけて幸せになってほしい」 なんて傲慢な言

          炭酸ガール

          昨日梅雨が明けた。蒸し暑かった空気から、からりと快晴になった空を見ながらうちわを扇ぐ。梅雨明けと共に気温は跳ね上がり、最高気温35度を叩き出している。それなのに俺のアパートのクーラーが壊れた。修理を頼んだが来れるのは明日になるらしく今日一日はこの暑い部屋で過ごさなくてはならない。 「暑いぞー!」 彼女はタンクトップに短パンという格好でうちわを扇ぎながら訴える。その首筋には汗が伝っている。 「んなこと言ったってしょうがねえだろ」 扇風機がかたかたと鳴りながら部屋の空気を

          炭酸ガール

          誕生日

          こんなに長く生きるとは思わなかったなと思う。 15年前の私は25くらいまでに死んでいるだろうと思っていた。気付いたら25をとっくに超えて30になろうとしている。30歳。なんて重たい響きなんだろう。 周りの友達はみんな落ち着いてしまった。私は死ぬと思っていたので彼氏もいないまんまだ。 希死念慮を抱えたままずるずると生きている私は一体なんなんだろう。 昔はもっと生きていたいと思うきらきらした瞬間もあったのに、今ではそんなこと考えもしない。昔は生きたいと思うかわりに自殺未遂までした

          素晴らしい世界

          つまんない、と煙草の煙と一緒に吐き出した言葉にちくりと胸が痛んだ。つまんない。人生が、人間が、携帯が、この部屋が。煙を吸っては吐いての繰り返し。この状況を望んだのは間違いなく私なのに。つまんない、なんて、言ってはいけない。 今日は会社の同僚とデートの約束だった。ガードの固い彼と、やっとこぎつけたデートだった。女の子らしくしようと、パンツスーツからスカートに変えて、煙草も止めて、髪の毛を下ろして、兎に角必死だった。やっとの思いでここまでこぎつけたのに、彼は他の女の子にもデート

          素晴らしい世界

          秋めいて冬

          夏が終わると短い秋がきて、その次には長く重く暗い冬が来る。わたしはその冬が怖かった。孤独にひたるには十分で、諦めてしまうには事足りてしまう長い長い冬だ。 閉塞的でわたしの心を蝕んでいく。誰の声も響かない。それは深く絶望して浮上することのできない重たさでもってして私を苦しめるのだ。 止まない雨はないという言葉が嫌いだ。冬の次は必ず春がくるかわりに、また再び冬は巡ってくるのだ。 秋の風が私の頬を撫でていくと、たまらず逃げ出したくなる。 けれど逃げ出しても一緒なのだ。どこにいても冬

          秋めいて冬

          ワルツ

          オリオン座の右肩の星、ベテルギウスは消滅する。赤く燃えるベテルギウスはゆらゆらと輝きながらその終わりを今、生きている私達にさらすのだろうか。 白い息が視界を歪めては戻り、歪めては戻る。隣で歩く彼も黙ったまま空を見ている。月が白く光るなかベテルギウスだけが赤い。 「あの赤い星が消滅しちゃうの、知ってる?」 指をさして問えば彼はいや、と声を発しながら首を横に振る。 「ベテルギウスって言って、近いうち、1年後かもしれないし、100年後かもしれないけど、消滅しちゃうんだって」

          死ぬと決めた日

          2019年8月31日 最近ずっと天気が悪かったのだが、久しぶりにこの日の天気は快晴だった。夏の終わりだというのに空は高く、入道雲が立ち昇り最後の蝉がわんわん鳴いていた。 洗濯物はパリッとよく乾くし、そよと吹く風は夏の匂いがちゃんとした。 久しぶりの晴れ間だったからシーツも洗濯したくて、寝ぼけ眼の彼氏を起こす。小さくうなる彼氏をソファーへと追いやりシーツを剥がした。 同棲を始めてもうすぐで半年になる。結婚の話はまだ出ない。剥がしたシーツから彼氏の匂いがしてもときめかなくなった。

          死ぬと決めた日

          時をかける電車

          一日中暇なので電車に乗っている。 僕は今ニートで、就活もしていない。家にいても冷房代が嵩むばかりなので外に出ているが、図書館に一日中いても居心地が悪くなっていくので、図書館で本を借りて、ローカル線の1日乗車券を使って一日中電車に揺られていた。 電車の中は随時人が入れ替わるので僕が一人で電車に乗っていても誰も怪しまなかった。 それに電車に乗っている人は大抵の場合目的があるので他人に興味などないのだ。 電車は涼しいし景色が変わるし、本を一冊持っているだけで暇は十分に潰せた。 眠く

          時をかける電車

          恋と嫉妬を知った夏

          しろ、きいろ、きみどりのたくさんの綺麗な花びらをつけた花束を持つお姉さんを見かけたのは8月に入ってすぐだった。 髪の長いお姉さんはいつもその花束を抱えていた。 夏休みに入って毎日学校のプールが解放されるので僕はそこに通っていた。家にいても暇だしいけば誰かしらいたのでお母さんとお父さんが仕事に行った後よく行っていた。 学校に向かう途中で花束を持つお姉さんを見かけてからずっときになっていた。 長い髪の毛を暑いのに結ぶこともせずにそのまま流して、汗一つかいてないような涼しい顔で僕と

          恋と嫉妬を知った夏

          お盆休み

          会社がお盆休みに入ったので実家に帰ることにした。 今住んでるアパートから実家は車で30分ほどの距離だ。お墓参りに行くから明日には帰って来いとお母さんから連絡があった。迎え火を焚くからと言われている。 実家からお墓までは車で50分ほどで、私の住んでるアパートもお墓も県内で済ませられるがなかなかこういうことがないと実家に帰らなくなってしまった。 ゴールデンウィーク以来なので約3ヶ月ぶりくらいの帰省になる。 実家に帰るとお母さんが騒々しく出迎えてくれた。既に弟が帰ってきていて喜んで

          お盆休み