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クロモモ最後の句集〜『八月』

◆黒田杏子著『八月』
出版社:KADOKAWA
発売時期:2023年8月

博報堂を定年まで勤め上げた俳人の最後の句集。杏子が主宰していた結社「藍生」の有志によって死後刊行されたものです。交流のあった俳人や文学者にちなんだ句が随所に出てきます。師事していた山口青邨をはじめ金子兜太や瀬戸内寂聴といった人たちです。

 生涯のわが師山口青邨忌
 語る兜太歌ふ兜太山紅葉
 作家僧侶更に俳人寒明くる

瀬戸内寂聴が、黒田杏子の句から「私はいくつも短編小説になる核をもらった」と述べているように、互いに刺激しあいながらそれぞれの道を歩んでいたことがうかがえます。また永六輔にちなんだ句として「男のをばさん女のをぢさん晩夏」といったヒューモラスな句も愉しい。

また日経俳壇や東京新聞の「平和の俳句」で選者を務めたほか、全国各地の俳句大会でも選者を務め、俳句の新しい才能の発掘にも尽力したことでも知られています。「選句して選句して夏送りけり」「選句天職雪を聴き花を待つ」などの句に杏子の熱い思いが表現されているように思います。

「九条葱美し関東の葱甘し」は、代表作といわれる「白葱のひかりの棒をいま刻む」を思い出させるし、「あらたまのカマラ・ハリスの立姿」のような時事的な一句もおもしろい。

「クロモモよなどと呼ばれし盆の月」──多くの人々から親しまれた俳人の他の句集も読んでみたいと思った次第です。

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