窓

建築の中でもっとも魅力的な部位!?〜『世界の美しい窓』

◆五十嵐太郎、東北大学都市・建築理論研究室編著『世界の美しい窓』
出版社:エクスナレッジ
発売時期:2017年10月

窓は建築の中でももっとも魅力的な部位かもしれない。冒頭でそのように言明する本書は、文字どおり世界の美しい窓を紹介するものです。編者の五十嵐太郎はその惹句につづけて窓に対する認識を次のように示しています。

ファサードを人間の顔に見立てるならば、まず窓は目になるだろう。すなわち、目が顔の印象をつくりだすように、窓は建築の表情を決定する大きな要素である。もちろん、目になぞらえるのは、窓から光を室内に採り入れるだけではなく、窓を通じて部屋にいる人間が外の風景を眺めるからだ。また空気を入れ換えることも窓に求められる機能である。エアコンなどの空調設備が現在ほど整っていない近代以前には、より一層重要な役割を果たしていた。とすれば、通風のための窓は鼻や口にも似ていよう。

さまざまな機能をもつ窓がつくりだす豊かなデザイン。すべての項目にカラー写真を配しているので「古今東西の建築を旅するかのように」読者はページをめくっていくことになります。

ピックアップされているのは、歴史的な宗教的施設や観光名所的建築、古い街並みや建築家の私邸まで多岐にわたります。窓という一つの切り口だけで、世界の建築の多様性や意外な共通性を知ることができるのは一つの驚きといっていいかもしれません。

本書は二部構成。「窓を外から見る」1章と「窓を内から見る」2章から成っています。さらにそれぞれを「遠景」「中景」「近景」の3つにカテゴリー分けして、窓や建築に対するアプローチのしかたを変えていくのも編集の妙といえるでしょう。

降り積もった火山灰が円錐状を成す岩を利用したカッパドキア。岩内部に洞窟状に広がる住居は階数の概念に乏しいため、窓やテラスの位置はバラバラになっていますが、深く掘られたテラスは各戸のプライバシーを確保し、日射を遮る機能性をも有しています。

ル・コルビュジエの名作サヴォワ邸は、二階の端から端までつながる横長の窓が圧巻。水平連続窓と呼ばれるそれは、モダニズム運動を主導したル・コルビュジエが提唱した「近代建築の五原則」に含まれるアイデアといいます。

イエメン・サナア旧市街のカマリアの窓は歴史を感じさせて見る者の想像力を掻き立てます。インド・繊維業会館にみえる「陽光砕き」の意味をもつ「ブリーユ・ソレイユ」なる形式のファサードもおもしろい。

アントニ・ガウディのカサ・バトリョの曲線美は今さら賞賛するまでもないかもしれません。ヒンドゥー教や道教の影響を受けているらしいシンガポールのタン・テンニア邸の独特の色彩もインパクト充分。

16世紀末に竣工したサン・ピエトロ大聖堂のドーム天井部分にある長方形窓からは光がさしこんで美しい。大きな天窓をもつソロモン・R・グッゲンハイム美術館はフランク・ロイド・ライトの傑作です。

アマリーエンブルク離宮のトリッキーな窓の細工もおもしろいし、ロンシャンの礼拝堂の白いコンクリート壁一面にあけられた窓は形状的には日本の城壁に穿たれた「狭間(さま)」を想起させて興味はつきません。安藤忠雄の光の教会は十字型のスリットから光がさしこむ仕掛けで、本書でもやはり取り上げられています。

シャルトル大聖堂のステンドグラスは壮観そのものですし、パリにあるアラブ世界研究所の窓は、メカニカルなデザインとイスラムの伝統的な意匠を巧みに融合させて印象深い。

そうしたなかで、個性的なウインドウレス・ハウスとして掲載されているのが、名古屋市にある〈竜泉寺の家〉。コンクリート打ち放しの矩形の建築で、そのシンプルな造りがかえって本書のなかで異彩を放っています。

窓は、建築のキャラクターを決めるだけでなく、連続して並ぶ同じ様式の建築で用いられると、窓は街並みをつくりだすこともできます。逆に屋内にいる人たちは、窓枠という切り取られたフレーム越しに外を眺めることで、窓による「額縁効果」を感受することにもなるでしょう。

窓がつくりだす豊かなデザイン。いや、デザインというレベルにとどまらず、窓をとおして私たちは人類の営みやその歴史を垣間見ることができるといってもいいかもしれません。

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