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ほのぼのとかひえびえとかも混じってる〜『にがにが日記』

◆岸政彦著『にがにが日記』
出版社:新潮社
発売時期:2023年10月

岸政彦という社会学者を知ったのは『断片的なものの社会学』の著者としてでした。あれからはや九年。本書はウェブマガジン「考える人」に連載した日記に、最愛の猫の晩年の日々を書き下ろした「おはぎ日記」を加えて一冊にしたものです。

たいしたことは書かれていません。何かドラマティックな事件が発生するわけでもありません。研究者としての学識を披瀝するような箇所もほとんどありません。つまりタメになるようなことは書かれていません。それで最後までおもしろく読ませるのだから不思議な書物です。

ウーバー的な配達の兄ちゃんが夕焼けを撮影していたり、おでんの中のシューマイが凍ったままだったり。にがにがの中にほのぼのやひえびえが混じっているのがいい。パートナーの齋藤直子のイラストも可愛らしい。「断片的なものの社会学」と日記形式は親和性が高いと感じた次第です。

しかし素人衆はこの文章を絶対に真似しようと思ってはいけません。あざとさの一歩手前で寸止めしてあざとさを感じさせない文章芸はおそらく岸政彦一代限りのものでしょう。

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