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驚きと不思議に開かれた感受性〜『センス・オブ・ワンダー』

◆レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』(森田真生訳)
出版社:筑摩書房
発売時期:2024年3月

レイチェル・カーソンは公害問題を告発した『沈黙の春』で知られる海洋生物学者。『センス・オブ・ワンダー』は1956年に発表された後、著者がさらにふくらませたいと考えていたものの叶わず、未完のまま死後に単行本化されました。日本では長らく上遠恵子の和訳で親しまれてきましたが、この度、森田真生による新訳が出ました。

センス・オブ・ワンダー。ここでは「驚きと不思議に開かれた感受性」と訳されています。
夜の浜辺での幽霊ガニの探索。トウヒやモミの良い香りが漂う小高い丘への散策。……幼い甥っ子と様々な自然に触れた体験をスケッチしていく様子は至福感に満ちています。

「……生まれ持ったセンス・オブ・ワンダーを保ち続けようとするなら、この感受性をともに分かち合い、生きる喜びと興奮、不思議を一緒に再発見していってくれる、少なくとも一人の大人の助けが必要」と著者は記しています。これは重要な指摘でしょう。

生物学者の福岡伸一は自著『ナチュラリスト』の中で、センス・オブ・ワンダーを育むには「都会的なセンス」が必要だと説いています。センス・オブ・ワンダーを持つ人を「ナチュラリスト」と呼ぶ福岡の言葉は示唆に富みます。
「自然の中に生まれ、自然にはぐくまれて自然児として育てば、必ず自然を愛するナチュラリストになれるというわけではない、と思うのです」「最初から自然の中にいると、それが当たり前になってなかなかワンダーを感じることができません」。

現代人にとって「センス・オブ・ワンダー」を育むには、素朴に自然との対話を言祝ぐだけではおそらく不十分なのです。レイチェル・カーソンが遺した言葉は、今もなお確かな光彩を放っていると思います。

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