音楽史を彩るパガニーニの存在感〜『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト』
◆浦久俊彦著『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』
出版社:新潮社
発売時期:2018年7月
ニコロ・パガニーニ。18世紀の末から19世紀にかけて活躍したヴァイオリニストであり作曲家。超絶技巧でヨーロッパ中を狂乱させ「悪魔に魂を売り渡した」とまで言われた奇才。ステージでの特異なパフォーマンスもあってか、毀誉褒貶が激しく、真偽定かならぬ伝説にも事欠きません。研究者泣かせの人物ともいえそうです。本書は日本語で書かれた初めてといってもいいパガニーニの評伝です。
パガニーニの影響を受けた音楽家は数多い。ロッシーニ、シューベルト、ショパン、シューマン、リスト、ブラームス、ラフマニノフ……。
パガニーニの演奏を聴いてリストは「ピアノのパガニーニになる」と宣言しました。進むべき道を決めかねていたシューマンを音楽家へと導いたのもパガニーニの演奏でした。オペラ上演史にもパガニーニの名は刻まれています。ロッシーニの新作オペラ『マティルデ・ディ・シャブラン』の初演を指揮したのがパガニーニだったのです。
「ロマン派という近代西洋音楽史の輝かしい時代は、この悪魔と天使が同居したような人物の登場によって彩られたともいえる」と浦久は述べています。
もうひとつ注目すべきなのは、パガニーニが「大衆向けエンターテイメントという新たなマーケットを開拓した」という点。ウィーンで大衆が金を払ってまでも演奏を聴くようになったのは、パガニーニが初めてのことであったといいます。そのことの歴史的評価はともかくとして、そうした史実はもっと知られてよいことでしょう。
パガニーニの画期的な活動ぶりを再検証するにあたっては多くの資料を渉猟したことが窺えます。シャーロック・ホームズの探偵小説やスタンダールの『ロッシーニ伝』、ハイネの『フローレンス夜話』などなど、参照文献が音楽史関連の文献にとどまらず多岐にわたっているのが本書の叙述に厚みを加えています。
パガニーニは一部の研究者のあいだでは未だにキワモノ扱いされているようですが、本書を読んであらためて音楽史的にもっと大々的に議論されるべき存在ではないかと思った次第です。
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